アクティブラーニングの活用が広がりはじめ、実際にプログラムを導入し実践を始めた学校が増えています。論述試験や客観試験で得られるデータにより学習到達度を測定できる受動的な授業形式と異なり、アクティブラーニングでは、学習者全体に対する学習効果を客観的に検証することが難しいとされています。今回は、改めてアクティブラーニングを導入する必要性、導入したときの学習効果について触れてみます。
1.アクティブラーニングの必要性
変化が激しい社会を生き抜くには、どれだけ知識をもっているかだけではなく、知識を活用しながら背景の異なる他者と協働して課題を発見し解決する能力が重要です。そして、絶えず自発的、能動的に学ぶことができる人材が必要です。これからの時代をより良く、より豊かに生き抜くための人材育成方法への転換が求められています。
知識の定着や能動的な学びの姿勢、態度を育成するために教員による一方向的な講義学習ではなく、学習者の相互的な学習活動であるアクティブラーニングは効果的であるといわれ、指導の方法などを充実させていく必要があります。
2.アクティブラーニングの効果
課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習によって、学習者の認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成が期待できます。学習指導要綱に定められている3つの要素を細かくみていきましょう。
効果1:個別の知識・技能
何を知っているか、何ができるかという基礎となる能力のことです。単なる知識・技能としてではなく、アクティブラーニングを通じて構造化して身に付けることができ、その知識・技能をさらに活用して探求し、他の知識と関連づけすることで定着させることができます。
効果2:思考力・判断力・表現力
知っていること・できることをどう使うかという能力です。実際の生活や社会の場面に即した学びにより、社会生活の中で生かすことのできる思考力や判断力を育み、他者や環境との相互作用を通じた学びにより自らの思考を広げ深める契機とすることができます。
効果3:学びに向かう力、人間性
社会や世界の様々な事象を捉えたり関わったりすることが可能になり、一つの事象を多様な角度から捉えたり考えたりすることができる能力のことです。また、他者とコミュニケーションをとり相互の関係を築いていくことにより、思いやりや協調性などを育むことができます。
3.論文や調査結果で効果が証明されているのか?
アクティブラーニングの活動が実際にどのような学習成果に結びつくのか、子どもたちの学業達成を自己評価した調査があります。アクティブラーニングを多く取り入れた授業をしている学級の子どもたちは、各教科について「好き」と回答する比率が高い傾向にあり、学習に対する意識や意欲、学習スタイルにプラスの影響を与えるということができます。
しかし、その一方で知識習得の学習とアクティブラーニングとは別物であるという、学習観が根深い問題となっている事実を指摘している論文もあります。どういうことかと言うと、アクティブラーニングを取り入れた実習を行うことで、従来からの専門知識を取得するための基礎科目のような地道な学習に取り組むやる気をも出させるという、両者の接続が暗に期待されている点です。そういった期待とは裏腹に、実際は実践的課題(アクティブラーニング)を導入してそこで生き生きと学ぶことが、地道な基礎知識習得の学習に学生を動機づけるとは必ずしも限らないということです。与えられた場では生き生きと学習するが、伝統的な講義のなかでは今まで通りということが決して珍しくありません。この問題も本質的には、アクティブラーニングの質を内容(コンテンツ)という観点で高めていくときには、カリキュラムの検証が重要となる一因になります。
4.大学でのアクティブラーニングの効果
高校までは、大学受験の影響で命題知習得を中心に学習しますが、社会の中で実際に活用できる知へと変容させていくことが、大学の教育には求められます。経済産業省や経済団体等の調査によると、企業は大学卒業生に、いわゆる「社会人基礎力」 などの「汎用力=ジェネリックスキル」を強く求めていることがわかっています。このような事実の中にも、社会で求められる「力」と、高校までの学習との間に存在する大きなギャップが確認できます。そして、このギャップを埋めることこそが従来の専門教育や教養教育に加え、新たに大学教育に求められています。
アクティブラーニングの大きな特徴は、言語による伝達を超える内容があるということです。知識伝達型の講義という授業形態は、基本的に言語または視覚による一方向的な伝達が基本とされます。しかし、アクティブラーニングには、言語化されている以上の事柄が含まれます。言語化された事柄をもとに授業が進む講義と異なり、アクティブラーニングの一つの実践には、実は無数の側面があります。例えば、一つの問題発見・解決型の授業を想定するならば、その授業で行われていることは、①問題を発見し、それに関して②調査し、③思惟を巡らし、④筋道を立て、⑤他者と討論し、⑥まとめ、⑦プレゼンテーションの準備をし、それを⑧実践するということになります。言葉にすればこれだけで済むことですが、実際のプロセスは、おそらくレポートに表現される数十倍・数百倍もの豊かさをもつはずです。
5.アクティブラーニングには効果がない?
アクティブラーニングには賛否あり、効果がないとする見方もあります。
多くは、知識定着に時間がかかることから日本の今のカリキュラムにはそぐわないというもの。そして、学生の主体性に起因するものが多く、主体性をもたすための動機づけはし続けていくとしても、必ずしも全学生に当てはまるとは言い難く、落ちこぼれてしまう学生が増えてしまうのではないかという懸念です。
先生と生徒それぞれに知識と熱量が必要
アクティブラーニングを実りある学びにできるかどうかは、先生と生徒の力量にかかっています。学ぶ方法として形式的に行ってもその効果はありません。そして、意見を伝えるときは、その元となる「知識」が不可欠です。知識がない中で思いつきで議論をしても時間がかかるだけで実りのある学びとは言えません。
近年、中堅校以下の学校でもアクティブラーニングを取り入れている学校が増えています。しかし、正直「これがアクティブラーニングといえるのだろうか?」というような疑問を持つ状態の学校も多いのが現状です。
6.まとめ
今回は、アクティブラーニングを実施した際の効果についてみていきました。アクティブラーニングとは、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学びであり、その学習過程が学習指導要領で育成しようとしている資質・能力(三つの柱)を育むために有効であるということがわかりました。また効果をみる中でいくつかアクティブラーニングの弱点もみえてきました。調査結果を記載しましたが、小中学校などは特にどれくらい授業に取り入れられているのか、それが子どもたちにどのような影響を与えているのかを実証する調査は少ないのが現状です。効果を検証しながらより実態に沿ったプログラムを策定していきましょう。
■参照
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村 治生『小学校・中学校・高校における「アクティブ・ラーニング」の効果と課題』
ベネッセ教育情報サイト 『アクティブ・ラーニングは、学力の経済格差を広げる?』
文部科学省『アクティブ・ラーニングの視点と資質・能力に関する参考資料』
名古屋高等教育研究 第7号(2007)溝上 慎一『アクティブ・ラーニング導入の実践的課題』
大学におけるアクティブラーニング調査報告書
日経DUAL 『アクティブ・ラーニング 効果出るのは難関中学のみ』