キャリア教育コラム

教育工学とは?Edtech-ITの発展で変わる教育

更新日:2019/11/24

教育工学は、高度成長時代以降に生まれたさまざまな工学技術を教育に応用しようとする研究分野です。もともとの教育工学のねらいは、ちょうど工場でモノを大量生産するように教育をシステム化することでした。しかし近年のITの発展および価値観の多様化によって、教育工学が目指す教育のあり方も変化しつつあります。

今回はこれまでの教育工学のあゆみやEdtechとの関わり、そして国内の大学における教育工学の研究例について解説します。

教育工学とは

 

モノどうしの結合や制御などに関する技術学(工学)を、人どうしの交わりによる教育活動の過程に応用したのが教育工学です。第2次世界大戦後に生まれたさまざまな工学分野の手法・研究成果を教育の世界にも応用し、できるだけ少ないコストで高い教育効果を得ることを主なねらいとして研究されています。日本教育工学会は、教育工学に対する見解と現状について以下のように述べています。

「教育工学」は学問領域として認められており、文部科学省の科学研究費補助金の研究領域の分科細目の1つとなっています。この細目「教育工学」には大学関係者を中心に多数の研究が申請されており、教育工学の研究が精力的に行われています。

 

教育工学の成り立ち

産業革命以前におけるモノづくりはたいてい、熟練の業を持つ職人の仕事でしたが、産業革命後は大量の人材を投入した流れ作業によって効率よくモノづくりが行われるようになりました。

工場でのこうした流れ作業においてひとりひとりが受け持つ作業は単純化され、専門知識や経験がない人でもモノづくりに携われるようになりました。このしくみを教育にあてはめたのが、教育工学の始まりとされています。

 

教育工学の変遷

教育はさまざまな能力・性質・価値観を持った人を教え育てることであり、工業製品のようにまったく同じモノを大量生産することではありません。そのため「こういう場面ではこういうふうに指導する」というようにマニュアル化された教育の弊害が問題視され始めました。

こうした風潮を受けて教育工学の目的はしだいに変化していき、現在はより創造的かつ効率的な教育を行うための研究などを指して教育工学と呼ぶようになっています。

 

教育工学と授業の関係

教育工学の基本は、授業・教育のシステム化によって教育目標を効果的かつ効率よく達成することです。

一般的な教育においてはまず授業を行うための必要条件(教室の提供など)を満たし、教育内容を具体的に示した教材を生徒に提示します。授業中はただ教材を見せるだけでなく教師が教材の内容などについて説明したり生徒に問題を解かせたりして、生徒が教材の内容を深く理解できるよう働きかけます。

 

ある程度授業が進んだらテストやレポート課題などを実施し、学習内容の理解度や学習態度などをチェックします。評価結果は生徒にフィードバックされ、その結果をもとに生徒は自身の学習結果を自己修正(間違えた箇所の復習や苦手分野の克服など)または発展させます。

効率よくかつ効果的な教育を行うためには、生徒の反応を素早く捉えて的確にフィードバックする・生徒が反応しやすい環境を整えるなどして、教員から生徒に対して積極的に働きかけることが大切です。

 

教育工学とEdtech

変わる教育工学

教育のICT化が進んでEdtech(エドテック)が注目されている中で、教育工学のあり方にも変化の兆しが表れています。すでに述べたとおり、現在の教育工学は工学分野の技術を応用して教育効果を高めることを目指しています。これからの教育の効果を上げるためにも、Edtechの活用は欠かせないでしょう。

教材の電子化で高まる学習への理解

たとえば、電子的教材にCGを導入することで学習意欲・学習効果が高まることが多くの研究で明らかになっています。株式会社 JMCと東京情報大学ではCGを使った算数学習システムを共同開発しており、小学5・6年生を対象に学習システムの効果に関するアンケートを実施しました。

算数で学ぶ内容の中には、テキスト説明や平面的なイラストだけでは理解しづらいものがあります。今回アンケートに利用された学習システムにはCGアニメーションが使用されており、多くの子どもがつまずきがちな立体図形なども視覚的にイメージしやすくなるよう工夫されています。

アンケートに対しては「パソコンを使った授業は楽しい、またやりたい」「解説がわかりやすい」などの肯定的な回答が多く見られました。この結果から、学習システムの導入によって子どもたちの算数への興味や学習内容への理解が高まったと結論付けされています。

 

Edtechとは

EdtechはEducation(教育)とtechnology(技術)を合わせた造語で、一般的には教育とテクノロジーの融合によって生まれた新しい教育モデル・教育スタイルを指します。

文部科学省はICTの効果的な活用と指導方法の改善が子どもの学力向上に役立つという見解を示しており、同省のアンケート調査では実際に授業にICTを導入した教員の多くが生徒の学力・意欲が向上したと回答しています。

 

Edtechの普及は、教員側にとっても多くのメリットがあります。たとえばWeb上でテストを実施することで採点や平均点の算出などを自動で行うことができ、業務の負担を大幅に減らすことができます。

教育現場のICT化が進むことで教員のさまざまな業務負担が軽くなり、教員が生徒ひとりひとりとじっくり向き合えるようになれば、教育の質もおのずと上がりやすくなるでしょう。

 

従来の教育の常識を覆すEdtech

Edtechの大きな特徴は、従来のeラーニングよりさらに踏み込んだWeb活用にあります。例えばSNSやチャットを利用すれば、オンライン上での授業が可能になります。

生徒はチャット機能を使ってリアルタイムで質疑応答または意見交換でき、教師は生徒の反応を即座に把握できるので、教室に集まって行う従来型授業に近い感覚で学ぶことができます。

 

このシステムを活用すれば自宅にいながら遠方大学で本格的に学ぶことができ、教育にかかる経済的・時間的コストを抑えることができます。他の人と同じように通学しにくい不登校生徒や障がい者にとっても、本格的に学べる大きなチャンスとなるでしょう。国内外の一流大学の講義を原則無料で受けられるオンライン講義MOOCS(Massive Open Online Courses)も、Edtechのよい例です。場合によっては日本語字幕をつけることもでき、言葉の壁に阻まれることなく学ぶことができます。

 

近年教科書の重量化が話題になっていますが、教材を電子化することで教科書の重量化にともなうさまざまな問題の解決にも役立ちます。最近は置き勉(自宅学習で使わない教材を教室に置いておくこと)を認める学校が増えていますが、置き勉によって自宅学習しにくくなる・いたずらや盗難のリスクが上がるなどの懸念もあります。

教科書データをタブレットなどの軽い端末またはオンライン上に保存してどこでも使えるようにしておけば、置き勉にまつわる弊害もなくなり自宅学習を進めやすくなるでしょう。また、端末さえ手元にあれば忘れ物の心配も少なくなるでしょう。

 

教育工学が学べる大学

教育工学は、まだ研究分野としての歴史が浅い学問です。そのため現在教育工学を専門的に研究している大学はあまり多くありませんが、国内では以下のような例があります。

筑波大学

筑波大学では、教育学をベースとしてどのようにテクノロジーを活用するか、またそれによって教育における問題がどのように改善されるかなどについて実践的な研究を行っています。

現在、教育工学領域では教育方法学領域と合同で研究活動・学生指導を行っています。教育の方法を中心的に学ぶ教育方法学とテクノロジーの活用によって教育問題の改善を目指す教育工学を融合させることで、人が人を作るという難問に取り組んでいます。

隔年で開講されている「教育工学」では、教育工学的視点からカリキュラムを作るための基礎的な知識を学びます。各種学力調査や教育政策の動向を踏まえつつ最新の授業方法や情報技術活用などについて考察し、これらの技術を使った教材製作や授業方法のプレゼンテーションを行います。

 

東京工業大学

東京工業大学では工業大学としては珍しく教育を専門領域のひとつとして扱っており、理科・数学・情報・工業の教員免許を取得することが可能です。

 

「教育工学特論」では教育工学に関する近年の研究動向を把握し、教育工学に基づく教育システムやカリキュラム・教材設計に必要な基礎知識を習得します。学習成果を活用するためにeラーニング教材開発プラットフォーム「IAGシステム」やパワーポイントを用いて演習を行い、また開発した教材に関する研究論文を作成します。

「教育工学実践演習」では、教育工学特論で作成した研究論文などをもとにして教育工学的な教育実践研究の方法論や教育実践研究に必要とされる倫理観を身につけます。

 

教育実践の研究にあたっては、学校現場と協力して授業実践を行うことが欠かせません。実際に学校現場から協力を得るためには、現場の教員があらかじめ立てていた授業計画の内容や学習者・学習環境の実態を把握したうえで自身の研究計画を適宜調整する必要があります。これらを踏まえた上で、教育実践研究を進めるための方法論を学びます。]

 

これからの教育工学に秘められた可能性

高度経済成長期以降に生まれた教育工学は、もともとは工業製品を効率よく大量生産するためのシステムを教育現場に当てはめようとするものでした。しかし価値観の多様化や情報化が進むにつれて画一的なマニュアル型教育は必ずしも効果的な教育法とは言えなくなり、教育工学はより創造的かつ効率的な教育を行うための研究へと変化しました。

現在の教育工学はさまざまな工学分野の技術を応用して教育効果を高めることを目指しており、現在浸透しつつあるICT教育とも深い関係があります。教育現場にIT技術を取り入れることで学習効果・学習意欲が高まり、さらに近年問題視されている教員の負担や教科書の重量化にともなう諸問題も軽減され、教育環境がよりよいものへと変わっていくことが期待されています。

 

【参考】
日本教育工学会「日本教育工学会とは」

株式会社JMC、東京情報大学 崎山卓哉ほか「3次元CGを用いた算数学習システムの開発」

筑波大学 教育学類科目一覧

東京工業大学「H28年度 教育工学特論」

東京工業大学「H30年度 教育工学実践演習」

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部