キャリア教育コラム

高等学校におけるキャリア教育の実践例と教育プログラムとは?

更新日:2018/05/18

社会環境の変化や少子高齢化など子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中、キャリア教育の重要性が問われ続けています。社会的・職業的自立の具体化が迫られる高等学校において、キャリア教育を行うためにはどのようなスキル・思考が必要で、具体的にどのようなことを実施すればよいのか、実例を交えて解説していきます。

高校生キャリア教育

1.高校生のためのキャリア教育とは?

キャリア教育は、子ども・若者がキャリアを形成していくために必要な能力や態度の育成を目標とする教育的働きかけのことです。一人ひとりが段階を追って発達していくことから、生徒が学校、家庭、地域で「学ぶこと」や「働くこと」に意欲的に取り組み、「生きること」を実感できるよう、意図的、継続的に学習や活動を展開するところにその特質があります。このため、キャリア教育は各学校段階を通じて、家庭や地域との連携の下、体系的に推進することが大切です。

キャリア教育コーディネーター

 

高等学校の段階は、キャリア発達の段階から見れば、自身の進路を現実的に考え、知識を深め、社会、職業への移行を準備する時期です。この時期の主な発達課題は、自己理解を深め自己を受容できること、多様な生き方や進路・職業の理解に立ち、選択基準ともなるべき勤労観、職業観を発達させること、それらを基に自己の将来を設計し、進路計画を立案すること、そして、その現実的吟味を十分に行い、意欲的に試行し社会的移行の準備を行うことなどをあげることができ、極めて広範かつ多様です。キャリア教育においてはこの意欲を高め、実行するための能力を育むことが必要になります。

2.キャリア教育の必要性と意義

近年、産業・経済の構造的変化、雇用の多様化・流動化などの社会環境の変化や、その環境の変化による若者自身の基本的資質・能力の発達に遅れが生じたことにより、学校から社会への移行がスムーズにできない若者が増えています。

 

社会で活躍するためには、常に変化し続ける社会の中で変化を恐れず、変化に対応していく力と態度を育てることが不可欠です。そのためには、日常の教育活動を通して、学ぶ面白さや学びへの挑戦の意味を子どもたちに体得させることが大切です。子どもたちが、未知の知識や体験に関心をもち、仲間と協力して学ぶことの楽しさを通じ、未経験の体験に挑戦する勇気とその価値を体得することで、生涯にわたって学び続ける意欲を維持する基盤をつくることができます。

 

キャリア教育ポテンシャルを高く

 

今、子どもたちが「生きる力」を身に付け、社会の激しい変化に流されることなく、それぞれが直面するであろう様々な課題に柔軟かつ逞しく対応し、社会人として自立していくことができるようにする教育が強く求められています。

3.具体的なキャリア教育プログラム

前項で述べた「生きる力」を身につけるための教育にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、実際に行われているキャリア教育プログラムを5つに分類して紹介します。

 

ワークショップ 異文化交流

3-1.ワークショップ形式

学びや創造、問題解決やトレーニングの手法です。 参加者が自発的に作業や発言をおこなえる環境が整った場において、ファシリテーターと呼ばれる司会進行役を中心に、参加者全員が体験するものとして運営される形態です。通常のスクール形式の場より意見を活発に交わすことができ、自ら考え体験することでより理解を深めることが期待できます。

【導入例】
・日常生活のこと、進路や悩みなどを質問していくことで、好きなこと嫌いなことを自ら言語化し自己理解を促す。
・業界研究や企業のバリューチェーン理解など、仕事や職業の理解を促す。
・働き方や収入を仮想体験し、人生設計の大切さを説き就労観・職業観の醸成を促す。

 

3-2.出張授業形式

授業現場に進路選択をしてきた先輩や、すでに社会の第一線で活躍する方などを講師として招きます。実際に経験した人に体験的に語ってもらうことで知識として学ぶよりもわかりやすく、具体的な行動を促すことが期待できます。

 

3-3.職業体験・校外学習形式

職場体験のインターンシップや大学、オフィスの見学会、社員とのワークショップ、地域の課題解決のプロジェクトなど学校では体験できない経験を校外で実施することを指します。聞くだけではなく、直接目で見て感じとることができるので、より深い理解に繋がると同時に社会との接点ももつことができます。また、学内に留まらない同世代の仲間をもつこともでき、刺激を与えあうことができます。

 

3-4.異文化交流形式

キャリア形成をするための可能性を広げ、生徒の将来の選択肢を増やすためにグローバル人材の育成を行います。コミュニケーションツールである言語を使う機会を日常でもち、海外留学生の受け入れや在学中の留学する機会も設け相手との違いを当たり前に捉え、それぞれの国の文化や慣習の”違い”を認めわかり合う気持ちを育むことで国際人としての態度を身につけます。

【導入例】
・海外留学生人のホームステイ受入れ。
・外国語を活用したプレゼンテーションや演劇、歌の披露。

 

3-5.実践教育形式

職業体験ではなく、ビジネスを自らが行うことで自主性を育み、取引などで必要なマナーや情報処理力など、これからの社会を生き抜くために必要な力の育成を行います。教えるのではなく自ら直面し考えることで社会に出てから必要なスキルが必然的に学べるようになります。

4.キャリア教育の実践例

次に3つの高校で実際に行われているキャリア教育の実践例を紹介します。各校それぞれ特徴のある授業を行っています。

実践事例

4-1.千葉県の(全体計画)実践事例

企業見学報告会(プレゼンテーション)
第1学年の5月という早い時期に企業の施設・設備や雰囲気などを見学し、必要とされる資格・技能・資質などについて学びました。企業見学の体験をもとに、各クラスの代表者によるプレゼンテーションを通して、体験や反省を共有し合うことでキャリア発達を促進させます。自身の活動を通して自己の個性を理解し、進路について主体的に考える態度を養うとともに、自分の考えや情報を伝える能力、他者の考えを理解し情報を活用する能力の向上を図ります。また、中学校で経験した職場体験と高校の第2学年で行う予定であるインターンシップとの継続性をもたせ生徒の発達段階に応じたアプローチをすることでキャリア教育の充実を図ります。

 

インターンシップ報告会
1学期中に学年集会などで意見発表練習を行い、夏季休業中に5日間のインターンシップを実施しました。その体験を発表するプレゼンテーション活動を通してグループで協力して準備を行うことや、聞き手を引き付ける話し方の工夫、質疑や議論を通じてコミュニケーション能力の向上を図ります。また、インターシップでの苦労・反省・失敗を積極的に語り、前向きに分析共有することで将来の進路選択をより確実なものとし、就業した際直面する困難な場面を自ら力強く乗り越えられる人間力、社会に貢献できる力を身につけることが狙いです。

 

4-2.茨城県立日立工業高等学校の実践事例

県内屈指の工業地帯である日立地域を核として、県北の4商工会議所が地元の工業高校及び県教育委員会と連携し、地域のものづくりを担う人材育成を図るため、生徒の企業実習、ICタグや省エネカーの研究など地元企業と一体となった事業を展開しています。1年間という長期間、地元企業で技術実習を行いました。実際に製品を作る責任を伴う作業のほか、仕組みの理解や達成感を味わうため、小型機器を独自で作る過程や社会としてのルール・職業観・勤労観についても熱心な指導がありました。

 

実習は週1回継続的に実施していることから、生徒の技術・技能・職業観の向上や、成果発表会に見られるコミュニケーション能力の向上などがありました。また、生徒及び高等学校との受け入れ企業に良好な関係が築かれつつあり、実習以外の学校の取り組みにも企業の協力が得られるなど、高等学校と地元企業にとって新たな協力関係が生まれはじめています。

 

4-3.県立取手第二高等学校の実践事例

従来より進路指導やキャリア教育を行っていたが、系統性が弱く生徒の主体的な進路選択において充分に機能することができていなかった。そのことから、各活動の関連付けを体系化し、組織的に実施する工夫をしました。まずは、キャリア教育推進のための組織づくりとして新しく委員会の設置、キャリア教育の全体計画の策定を行いました。次にキャリア教育に対する教職員の共通理解の形成です。校内での研修や各教科に落とし込んだ年間指導計画を策定しました。そして最後に、各学年におけるキャリア教育の計画的・系統的な推進です。目標設定を可視化することで、行うべき指導内容が明確になり指導に一貫性をもたせることができます。

5.キャリア教育を推進するための全体計画を設計

キャリア教育を計画的・系統的に推進していくためには、年間計画を作成することが大切です。また、計画策定において最も重要なのは、学校や生徒の現在の状況を把握し、達成可能な目標を設定する上で現状と目標との差を明確にすることです。そこで生じた課題を解決するために、各学年においていつ、何をするべきか、これを具体的に示していくのが年間計画です。

 

一からキャリア教育を築き時間を割くと思うと現実的に難しそうですが、今まで行ってきた様々な活動の中にキャリア教育に活かせる要素があり、キャリア教育の視点から教育活動を振り返ることで、現在の学習と実社会との繋がりを意識することができ目的をもって学ぶことができます。

 

まず、キャリア教育を通じて育成することが期待される基礎的・汎用的能力を構成する4つの能力フィルター(人間関係形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力)で教育活動を捉え直し、どの力の向上に役立っているか洗い出します。そこで洗い出したキャリア教育の断片をつなぎ、どの能力フィルターになるか分類し、具体的にどの学年でいつ身につけさせたい力か明確にする。最後に、実際に策定した年間計画が無理なく活用できる内容になっているか検討することが大切です。

6.まとめ

教育現場

 

この記事では、実際の教育現場で実践されているプログラムを中心に紹介しました。どの学校も学生の気づきや能力を引き出すコツがたくさんありました。これからキャリア教育を考えていく中で、参考になったのではないでしょうか。社会の変化とともに必要なスキルが変わり、学校に求められるものも変わっていきます。常にアンテナを張って情報収集をし、いまある教育計画が本当に現状に合ったものなのか年間計画のPDCAサイクルをまわしていきましょう。

 

 

 

 

■参照
文部科学省 キャリア教育・職業教育特別部会(第10回) 配付資料『[2]高等学校におけるキャリア教育の論点と基本的な考え方
文部科学省 『高等学校キャリア教育の手引き
文部科学省 キャリア教育・職業教育特別部会 『高等学校におけるキャリア教育の実践例
カタリ場 『プログラム
キャリタス進学 『高校生のためのキャリア教育
千葉県教育委員会 『キャリア教育実践事例集
茨城県教育研修センター 『研究報告書 キャリア教育の取組における工夫と改善 平成21・22年度
国立教育政策研究所 『キャリア教育をデザインする「今ある教育活動を生かしたキャリア教育」―小・中・高等学校における年間指導計画作成のために―

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部