最近日本でもよく「コーチング」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
しかし教員の方の中には言葉自体は聞いたことがあっても、実際にどのようなものかわからない人も多いのではないでしょうか?
コーチングは民間企業で用いられているイメージが強いですが、実は教育現場にも活かせるスキルがたくさん存在します。特に探究学習との相性はかなりよいといえるでしょう。
そこでこの記事では、コーチングとこれからの教員の役割との親和性や探究学習を指導する上でどのようにコーチングを用いるのかについて解説します。
最後にはオンラインで教員向けのコーチングを学べる講座も紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
コーチングとは?
コーチングは、相手の中にある本来の力や本当にやりたいことをコミュニケーションを通して引き出し、目標達成までの道のりをサポートすることです。
コーチングの定義は人や組織によってさまざまですが、「相手が本来もつ力・想いを引き出す」「目標達成まで伴走する・サポートする」という考え方はどの定義にも共通しています。
そもそもコーチングは、スポーツ指導や上司が部下を育てる際に用いるコミュニケーションスキルとして有名です。
しかし最近では「教育現場でもコーチングを活用しよう!」という動きが活発になってきています。
これからの教育にコーチングスキルが役立つわけ
現在日本の学校教育は、教員が生徒に一方的に教えるスタイルから生徒が自ら学ぶスタイルへと変革しています。
この流れで新たに登場したのが、探究学習やPBL(問題解決型学習)といったアクティブ・ラーニングです。
そして教育の変化に伴い、教員の役割も「教える人(ティーチャー)」から「伴走・支援する(ファシリテーター、コーチ)」へと変化しています。
特に探究学習をはじめとした主体的な学びは、一つの答えがあるわけではなく生徒自身が探究の過程で答えを見つけ出す必要があります。
こうした点からも「相手が本来もつ力を引き出す」「目標達成まで伴走する」ことが目的のコーチングとこれからの教育スタイルは方向性が合致しているとわかりますね。
探求学習の指導とコーチング
では、実際にコーチングを探究学習などの生徒主体の学びに生かすには、どのようにしたらよいでしょうか?
探究学習は主に4つの流れでできています。
- 問いを立てる
- 調査する
- テーマを決める
- 発表する
そしてこの4つはどれも生徒が主体的に活動することで成り立つ学習内容です。探究学習の指導で教員に求められるのは、以下のような役割が考えられます。
①問いを立てる
探究学習では生徒が興味関心をもつ話題から疑問に思うことを見つけ、さらに深堀りして解決すべき課題を見つけていきます。
この際教員に求められるのは、生徒との対話のなかで自分でも気づいていないような興味関心を引き出すことです。
対話は必ずしも一対一ではなく、授業中の問いかけなども含まれます。
②調査する
調べたい疑問や課題が見つかったら文献などを用いて調査を行います。ここでは調べ方や情報のまとめ方といった基本的な内容を教えるのが主な役割です。
しかし、フィールドワークやインタビュー調査を行うようなレベルの高い探究学習の場合は、「どのような調査方法なら得たい情報が得られるか」を一緒に考えコーチングすることもあるでしょう。
③テーマを決める
テーマを決めるときは①問いを立てると同様に、生徒が本当に興味関心をもっているものを引き出してあげることが重要です。
また調査を終えて発表資料を完成させるまでの時間も考慮して、生徒ごとに適切なテーマに調整することも大切なポイントでしょう。
④発表する
探究学習の発表の大きな目的は、学習者にとってはこれまで得た情報をわかりやすく整理する・相手に伝えることです。
一方発表を聞いている生徒にとっては、コーチングスキルの基本である「認める」「聞く」「質問する」「フィードバックする」を実践できる絶好の機会になります。
生徒がお互いの学習成果を認め合い、次に向かって高め合えるよう、振り返りの学習を設定しましょう。
教員がコーチングスキルを使って関わるときのポイント
次に教育キャリアアドバイザーやコーチとして活動している木村彰宏氏が語る、教員がコーチングスキルを使って関わるときのポイントを紹介します。
相手と信頼関係を築く・可能性を信じる・最大の支援者であろうとする
これはコーチングを行うときに必ず持っておかなければならないマインドセットです。
当たり前ですが、教員が「どうせできない」「やってもムダ」と思いながら生徒と接していた場合、生徒は本当に思っていることを教員に伝えようとは思わないでしょう。
そして逆に教員が相手を信じる態度を示し続けると、相手はその期待に応えようと頑張り成果を出すことができます。
これは心理学的には「ピグマリオン効果」といい、教育心理学者による実験でも実証されているものです。
コーチングスキルを習得する前に必ずこの3つのマインドセットを身につけておきましょう。
バックキャスティング思考でより高い目標達成をサポート
バックキャスティング思考とは、将来達成したい目標から逆算して今やるべきことを考えるコーチングの手法です。
バックキャスティング思考の対になる考え方として、現在から将来の目標を考えるフォアキャスティング思考があります。
将来なりたい姿に向かう道筋を立てるバックキャスティング思考は、現在の状況からは難しそうに見える目標でも達成するためのアプローチができるのが特徴です。
この思考法を身につければ、生徒が主体的に行う探究学習だけでなく、高校・大学といった志望校を考える際にも活用できるでしょう。
オンライン対応!教員向けコーチングスキルが学べる講座2つ
日本の学校教育の大きな変化に合わせて、教員に求められる役割も大きく変化しています。
そこで「これからの教育に役立つコーチングスキルを身につけたい!」という方向けに、コーチングが学べる講座を3つピックアップしました。
すべてオンライン受講可能なので、毎日忙しい方でも空いた時間で受講できますよ。
一般社団法人日本青少年育成協会『教育コーチング』
日本青少年育成協会では、子どもたちのコーチングに特化した講座を実施しています。
講座は入門・初級(知識と実践)・中級・上級・マスターの4段階です。取得したい資格レベルに合わせて受講でき、多くの講座はweb動画となっています。
ほかにも3日間で中級まで取得できる短期集中講座があり、忙しい教員の方にもおすすめです。
ちなみに教育コーチングは日本青少年育成協会が独自に生み出した教育メソッドで、このように定義されています。
コミュニケーションを通して人が本来持っている意欲と能力を引き出し、目標達成と、その先にある「個」(※)としての自立を支援する教育メソッド
引用元:一般社団法人日本青少年育成協会「教育コーチングとは」
子どもや教育に特化したコーチングスキルを身につけたい方はぜひ受講してみてください。
一般社団法人コーチング心理学協会
一般社団法人コーチング心理学協会では、教育関係者をはじめとして、医療福祉・司法関係者・IT系などさまざまな職種の方に向けてコーチング講座を提供しています。
教育関係者におすすめの講座は以下の4つです。
- 認知行動コーチング
- コーチング心理学基礎講座
- フィードバックスキルコーチング
- 教える・伝えるためのコーチング心理学:サイコロジカルインストラクター講座
これらの講座は2日間で一気に受講して資格取得までできます。一部会場実施の講座もありますが、現在はオンライン講座のほうが多いです。
ほかにも発達障害支援コーチング講座やポジティブ心理学講座などユニークなものがたくさんあるので、興味のある方はぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
まとめ
社会人が学んでおくべきスキルとして取り上げられがちなコーチングですが、そのスキルは教育現場でも十二分に活かすことができます。
特に生徒が自ら学習を進めていく探究学習では、教員がコーチングスキルを活かして指導することでよりよい学習成果を生み出せるでしょう。
そしてコーチングは他人同士で実践することでスキルが身についていきます。
書籍で学ぶこともできますが、可能なら実践のワークショップに参加したり教員同士でコーチングを実践したりしてコーチングを体感してみましょう。