キャリア教育コラム

国際バカロレアとは?グローバル時代の教育認証制度

更新日:2018/11/30

グローバル化がますます進む今の時代、国内の高校で学んだ後に海外の大学に進学する人も少なくありません。海外の大学に入学志願する場合、しばしば「国際バカロレア」という資格が必要になります。しかし、国際バカロレアは単なる大学入学のための資格ではありません。国際バカロレア取得のための専用ブログラムを学ぶことで、これからのグローバル時代に必要とされるさまざまなスキル・能力を身につけることができます。

近年、国内でも入試に国際バカロレアを活用する大学が増えています。国際バカロレアは、海外進学を希望する生徒はもちろんそうでない生徒にとっても将来の可能性を広げる大きなチャンスとなるでしょう。

バカロレアとは

バカロレア(Baccalauréat)はもともとフランスで始まった教育認証のための国家資格であり、日本で言うところの高校卒業証明書(成績証明書)に近いものです。大学進学を希望するフランスの高校生は、卒業前に必ずバカロレア取得試験に合格しなければなりません。各高校で取得できるバカロレアは、高校の種類によって普通バカロレア(Baccalauréat Général)・工業バカロレア(Baccalauréat Technoligique)・職業バカロレア(Baccalauréat Professionnel)に分かれます。

国際バカロレア(IB)とは

国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)は多くの国で通用する資格(フランスのバカロレアとは別物)で、IBを取得すれば海外の多くの大学に入学志願できるようになります。IBはもともと外交官や国際的機関で働く人の子どもたちが母国の大学に進学しやすいよう開発されたプログラムで、特定の国の制度・内容に偏らない世界共通の大学入学資格と成績証明書を与えるためのものでした。2015年11月現在、世界147ヶ国(地域)4,300校以上の学校でIBが提供されています。

日本国内でIBを取得するには、国際バカロレア委員会に認められたIB認定校で指定の教育カリキュラムを履修する必要があります。このカリキュラムに沿って学ぶことで、外国語のスキルとともに年齢・発達に見合ったグローバルな視野を育てることができます。

 

プライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)

3~12歳を対象としたプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)はおもに心身の発達を重視するプログラムで、どの言語でも習得可能です。PYPは幼稚園~小学校で学ぶ内容に相当し、私達は誰なのか・どのような時代と場所にいるのかなどのテーマを軸にしながら言語・社会・算数などの6教科を履修します。

 

ミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)

11~16歳を対象としたミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)は、これまでに学んだことと社会のつながりを中心に学ぶプログラムです。おもに中学校で学ぶ内容に相当し、言語(A・Bの2種類)・人文科学・テクノロジーなどの8教科を4~5年間かけて履修します。各教科はそれぞれ孤立したものではなくお互いに関連を持つものとみなされ、習得した知識・技術を実社会で活かすことを目標としています。PYPと同じく、MYPもどの言語でも習得可能です。

 

ディプロマ・プログラム(DP)

16~19歳を対象としたディプロマ・プログラム(DP)は、生徒ひとりひとりが自身の強み・個性を明確にして将来進むべき道を見極めるためのプログラムです。生徒たちはまず6つのグループ(教科)から定められた科目を選んで履修し、それらと並行して課題論文(履修科目に関連する個人研究)・知の理論(知識の構築に関する分析・探究)・創造性/活動/奉仕(創造的思考を伴う芸術・身体的活動や、ボランティア活動などの体験学習)を履修します。なお、DPは英語・フランス語・スペイン語のいずれかで実施されます。(日本語DPを除く)

DPでは、高校3年次(または高校3年次に相当する年次)で世界共通の最終試験を受験します。日本語DPを受けている場合、試験は日本語で実施されます。一定以上の成績を取れば合格となり、すべての教科で合格するとIB修了資格(成績証明書)が授与されます。

IBを取得するメリット

IBは単なる大学入学のための資格ではなく「全人教育」を目指すプログラムであり、より良い世界やより平和な世界を築く人材を育てることを目標に掲げています。IBの理念をまとめた「ラーナープロファイル」では、以下の10の特徴を持つ人を「理想の学習者像」としています。

・探究する人
・知識がある人
・考える人
・コミュニケーションできる人
・信念を持つ人
・心を開く人
・思いやりがある人
・挑戦する人
・バランスが取れた人
・振り返りができる人

このラーナープロファイルから、IBは近年注目を浴びているアクティブラーニングと親和性が高いことがわかります。現在国内で導入されているDPでは、従来のように教員が生徒に対して一方的に知識を流し込むタイプの授業よりも探究型学習・プロジェクト型学習などが重視されています。これらの学習カリキュラムにおいて教員はあくまでサポート役であり、生徒自らが積極的に学びに関わることが重視されます。こうした学びを通して課題発見・解決のための意欲や能力を育てることは、価値観の多様化や情報化がますます進むであろうこれからの時代を生き抜くのに役立つでしょう。

なお、海外の一部の大学ではIB取得者は一部科目の履修が免除されることがあります。また、IB取得試験のスコアを大学の単位振替に使えるケースもあります。

日本におけるIBの現状

平成25年に閣議決定した「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」に基づき、我が国では国内におけるIB認定校等(DP)を2018年までに200校に大幅に増加させることを目標としています。

日本国内のIB認定校

平成29年現在、日本国内におけるIB認定校は46校となっています。このうちPYPを実施している学校が22校、MYPを実施している学校が14校、DPを実施している学校が33校となり、1校で複数のプログラムを実施している学校もたくさんあります。また、一部のインターナショナルスクールでは3種類のプログラムを全て実施しています。

国内のIB認定校が抱える課題

残念ながら、現在のところ「2018年までにIB認定校等(DP)を200校に」という目標は達成できていません。IB認定校として認められるためには、さまざまな課題を解決しなければならないためです。

IB認定を阻む課題としてしばしば挙げられるのは、コストの問題です。IB認定校(DP)は、国際バカロレア機構に対して年間約1万ドル(約110万円)の登録料を支払わなければなりません。さらにDPは少人数授業が前提とされているため、教員数を全体的に増やす必要があります。

言葉の問題もまた、大きな課題のひとつです。もともとDPの基本言語は英語・フランス語・スペイン語ですが、2015年に多くの教科を日本語で進められる日本語DPが認められました。しかし、日本語DPであっても一部の教科・科目は英語で授業を進めるよう定められています。そのために外国人教員を新しく採用するか、外国語で授業を進められるよう日本人教員を教育しなればなりません。

国内のIB認定校のうち、学校教育法第一条に基づいて設置された一条校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学など)では指定された教材を使ってカリキュラムを履修します。しかし一条校以外の学校(インターナショナルスクールなど)では教材が指定されておらず、教材の選定やカリキュラムの組み方は各学校・教員の裁量に任されていることが多いです。そのため、学校によって授業の質・内容が大きく変動することが懸念されています。

学習指導要領とDPの両立

学習指導要領で定める科目(一般的なカリキュラムにおいて履修する教科)とDPを同時に履修しようとすると学習時間が増え、生徒の負担が大きくなってしまいます。この問題を解決するため2015年に学校教育法施行規則が改正され、学習指導要領とDPの両方を無理なく履修するために以下のような特例措置が設けられました。

・各校で定めるDPの教科・科目について、卒業に必要な単位として算入できる上限数を20単位から36単位に拡大する
・英語・数学・理科の必修科目および総合的な学習の時間について、関連するDPの教科・科目の履修をもって代えることを可能にする
・国語を除く各教科・科目について、英語での指導を可能にする

IBを活用した大学入学者選抜の例

国内の大学でも、入試にIBを導入しているところが増えています。たとえば金沢大学では、平成28年度からIB取得者(取得見込みの者を含む)を対象としたIB入試が実施されています。IB入試では大学入試センター試験と個別学力検査は免除となり、面接・口頭試問・小論文の結果によって合否が決定されます。

大阪大学のAO・推薦入試(世界適塾入試)では、1次選考(書類選考)でIB取得証明書を提出することができます。2次選考の合格者判定は、大学入試センター試験・小論文・口頭試問の結果および提出書類の内容によって行われます。

国内外の大学進学はもちろん、グローバル人材育成にも役立つIB

国際バカロレア(IB)は世界共通の成績証明書であり、IBを取得することで海外のさまざまな大学への入学志願資格を得ることができます。日本国内でIBを取得するためには、IB認定校で定められたカリキュラムを習得する必要があります。

コストや言語などの問題のため国内におけるIB認定校の数は伸び悩んでいるものの、IBで掲げられている教育理念は近年注目されているアクティブラーニングと親和性が高いことが知られています。さらに国内の大学でもIBを入試に活用するところが増えているため、海外の大学はもちろん国内での大学進学を希望する人にとってもIBの修得はおおいに有用といえるでしょう。

【参照】
文部科学省
「国際バカロレアとは」

「我が国における取組等」
「国際バカロレアの認定校」

「国際バカロレアの導入を促進するための教育課程の特例措置」

「国際バカロレアを活用した大学入学者選抜例」

金沢大学 学生募集要項

大阪大学 学生募集要項

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部