キャリア教育コラム

新学習指導要領で変わるアクティブラーニングとは何か

更新日:2018/05/18

2012年8月に文部科学省中央教育審議会で取りまとめがされた「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(答申)において、アクティブラーニングという表現が初めて用いられました。そもそもアクティブラーニングとは、現代日本の抱える社会問題である少子高齢化、グローバル化への対応、人口減少などに立ち向かい、生き抜くために必要な「主体的・協同的に課題を発見し解決する力」を養うために教育現場で導入・実践させることが進められてきました。しかし、2017年の学習指導要領改訂案ではその文言が消え、「主体的・対話的な深い学び」という表現に変わりました。一体なぜそのようなことになったのでしょうか?そして、深い学びとは一体どういうことなのか、分かりやすく紹介いたします。

 

文部科学省

1.2020年の次期学習指導要領から消えたアクティブラーニング

消えたアクティブラーニング

消えたアクティブラーニング

 

2020年より本格的に実施される新学習指導要領ですが、実は2017年2月に文部科学省が公表した小・中学校の学習指導要領改定案では「アクティブラーニング」という表現が消えています。2012年文部科学省の中央教育審議会がアクティブラーニングという教育法を提唱したことで、教育現場のあらゆるところでアクティブラーニング導入に向けて動き、関連する資料や書籍も作られてきたのに「どういうことなのか?」と疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。

 

しかし、実際のところは「アクティブラーニング」の思想が無くなったわけではなく、用語が使用されなくなり、代わりに「主体的・対話的で深い学び」という表現に置き換えられたというのが正しい解釈です。学習指導要領改定案でアクティブラーニングという用語が「主体的・対話的で深い学び」という表現に変わったわけですが、なぜわざわざ「置き換えられた」のでしょうか。2012年に本格的な取り組みが始まったにも関わらず、どうして表現を変える必要があったのでしょうか。

 

そこで、表現を変えた理由を探る前に、置き換えられた表現である「主体的・対話的な深い学び」とはどのような学びなのか整理してみましょう。

 

主体的・対話的な深い学びとは?

文部科学省は、学習指導要領改訂案の際に募集したパブリック・コメントで寄せられた意見に対し、「主体的・対話的な学び」について次のように回答しています。

“『主体的・対話的で深い学び』について、例えば、国語や各教科等における言語活動や、理科において観察・実験を通じて課題を探求する学習、美術等における表現や鑑賞の活動など、『これまでにも充実が図られてきた学習を、更に改善・充実させていくための視点』」であり、『今までの授業時間とは別に新たに時間を確保しなければならないものではない』”

要するに、「主体的・対話的な学び」とはわざわざ授業時間を増やして行う必要はなく、これまで実施してきた授業の内容を更に向上させることであると述べているのです。

 

なぜ消えたのか

ここまで「主体的・対話的な学び」について説明しましたが、文部科学省がなぜ学習指導要領改定案からアクティブラーニングという言葉を消したのか理解していきましょう。
文部科学省によると、「アクティブラーニング」という表現では定義が曖昧な外来語で抽象的だとしています。そして、アクティブラーニングというものは学習の形態(姿勢)に焦点を当てるもので、どのような方法で授業を展開するのかという方法論を教育現場で追求してしまう傾向にあり、それもまた問題だとされています。アクティブラーニングという表現では教育が目指す目的がはっきりとせず、どのように授業を展開すべきかという過程にばかり注力されるだけに終わってしまうという課題があるため、消えてしまったのではないでしょうか。

2.新しい学習指導要領が目指すものとは

主体的な学び

それでは、2020年より実施される新しい学習要領とはどのようなもので、最終的に何を目指すものなのかみていきましょう。文部科学省によれば新学習指導要領のあり方について、教育課程を通じて子供たちにどのような力を育むのかという教育目標を明確にし、それを広く社会と共有・連携していけるようにするために、「社会に開かれた教育課程」を実現するという理念のもと、子供たちが何を身につけるのかを明確に示していく必要があるとしています。そして、そのためには、まず学習する子供の視点に立ち、教育課程全体や各教科等の学びを通じて、「何ができるようになるのか」という観点から、育成すべき資質・能力を整理する必要があると示しています。その上で、整理された資質・能力を育成するために「何を学ぶのか」という必要な指導内容等を検討し、その内容を「どのように学ぶのか」子供たちの具体的な学びの姿を考えながら構成していく必要があるとも言っています。

 

資質・能力の要素の三要素

資質能力の3要素

新学習指導要領のあり方として「資質・能力」を整理し、どのように学ぶのか子供たちの学びの姿を考えながら構成する必要があるとされていますが、「資質・能力」とはどのようなものなのでしょうか。文部科学省はこの「資質・能力」には3つの要素があると示しています。

 

1つ目は、「何を知っているか、何ができるか」という個別の知識・技能です。(これは身体的技能や芸術表現のための技能なども含みます。)基礎的・基本的な知識・技能を確実に獲得しながら、既存の知識・技能と関連付けたり、組み合わせたりしていくことにより、社会の様々な場面で活用できる知識・技能として身につけていくことが重要であるとしています。

 

2つ目は、「知っていること・できることをどう使うか」という思考力・判断力・表現力です。具体的には次にあげる3点です。

①問題発見・解決に必要な情報を収集・蓄積するとともに、既存の知識に加え必要となる新たな知識・技能を獲得し、知識・技能を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決していくために必要となる思考。
②必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思決定
③伝える相手や状況に応じた表現

 

そして3つ目は、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という学びに向かう力や人間性などです。これは「個別の知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」をどのような方向性で働かせていくのかを決定づける重要な要素になります。
文部科学省は、これら3つの要素からなる資質・能力を身につけさせるために学びの環境を構成していく必要があると、新学習指導要領の中で述べているのです。

3.主体的とは何か

新学習指導要領の中でアクティブラーニングは、「主体的・対話的で深い学び」という表現に置き換えられていますが、次はこの表現について理解していきましょう。そこで、まずは「主体的」という部分について説明します。文部科学省が示すところによると、「基礎的・基本的な知識・技能の習得に課題が見られる場合に、それを身につけさせるために、子どもの学びを深め、主体性を引き出すこと」と示しており、子どもの積極性を伸ばすことが主体的な学びと言えるのではないでしょうか。

4.対話的とは何か

次に「対話的」という表現ですが、「一方的に知識や技能を学習する」ということではなく、「課題に対して自分の意見と他社の考えについて意見交換を交わし、結論を導き出す」ということです。学ぶことを一人で完結させるのではなく、他者と多角的な視点から理解を深めることで、成長もできるのではないでしょうか。

5.深い学びとは何か

最後に「深い」という表現についてですが、「深い学び」というのは要するに「学習・学びを深くする、深める」ということです。知識や経験をもとに様々な視点から課題について考え、場合によっては関連づけさせたり論じたりする「深いアプローチで取り組む学び」ということなのです。

6.まとめ

アクティブラーニング

文部科学省が中心となってアクティブラーニングの推進に力が入れられてきましたが、定義が曖昧で具体性がないという理由で、表現が置き換えられ「主体的・対話的で深い学び」という考えのもと新学習指導要領では進められることとなりました。しかし、表現が変わったとはいえ文部科学省が示しているところによると、新しく時間を設けて実践するのではなく、これまでの授業を改善・向上させていくことが重要だということです。
アクティブラーニングという言葉に縛られずに、子どもたちがこれからの日本社会、そして世界で生き抜くことができるように学びの場を提供することが、教育現場に求められていることなのではないでしょうか。

 

 

 

■参考
招待論文 京都大学高等学校教育研究開発推進センター 松下佳代 『科学教育におけるディープ・アクティブラーニング ―概念変化の実践と研究に焦点をあてて―
前屋毅 『アクティブラーニングが消えた!
EducationTomorrow『2020年、次期学習指導要領~消えた「アクティブラーニング」
文部科学省 初等中等教育分科会(第100回)配布資料『資料1教育課程企画特別会 論点整理

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部