キャリア教育コラム

大学入学共通テスト 令和元年から変わる大学入試制度

更新日:2019/08/25

新しい教育指導要領を受けて、大学入試のシステムも大きく変化しています。現在共通入試として多くの大学で導入されているセンター試験は令和元年度(令和2年1月)をもって廃止となり、令和2年度(令和3年1月)からは大学入学共通テストが実施されるようになります。

高校までに学んだ内容を正しく評価し、また「受験のための勉強」ではなく生きる力を身につけるための主体的で深い学びをうながすためには、従来とは異なる新しい評価基準に則った試験が必要になるためです。今回は、新しい入試制度である大学入学共通テストの特徴について解説します。

なぜ入試制度が変わるのか?

世相の変化にともなう価値観の多様化や教育環境を取り巻く環境の変化などによって、教育現場では徐々に新しい学習スタイルが導入されつつあります。これにともなって、大学入試制度も少しづつ変化してきました。

既に多くの大学では一般入試とともに推薦入試・AO入試などのさまざまな個別学力試験(二次試験)を採用していますが、その前に一次試験として実施されているセンター試験も大きく内容が変わります。

平成から令和への時代の変わり目となるこのタイミングで、なぜ入試制度を変える必要があるのでしょうか。新しい入試制度を実施することで文部科学省が目指す、理想の教育のの在り方を知るため、まずは高大接続改革について解説します。

高大接続改革

文部科学省は、高大接続改革について以下のように述べています。

グローバル化の進展や人工知能技術をはじめとする技術革新などに伴い、社会構造も急速に、かつ大きく変革しており、予見の困難な時代の中で新たな価値を創造していく力を育てることが必要です。

このためには、『学力の3要素』(1.知識・技能、2.思考力・判断力・表現力、3.主体性を持って多様な人々と 協働して学ぶ態度)を育成・評価することが重要であり、「高等学校教育」と、「大学教育」、そして両者を接続する「大学入学者選抜」を一体的に改革し、それぞれの在り方を転換していく必要があります。

(文部科学省「高大接続改革『大学入学共通テスト』について」)

文部科学省は学力の3要素を伸ばすことで「確かな学力」を育て、さらに「豊かな人間性」「たくましく生きるための健康・体力」を伸ばすことで「生きる力」が育まれるという見解を発表しています。次に、学力の3要素が示す具体的な内容について見ていきましょう。

学力の3要素1.「知識・技能」

ここで言う知識・技能は「社会的な自立や日常生活に必要とされる知識・技能」「義務教育及びそれ以降のさまざまな専門分野の学習において、より深く高度に学ぶための共通基盤として習得しておくことが望ましい知識・技能」などを指します。

これらの知識・技能を子どもたちが確実に習得するためには、発達や学年の段階に応じて指導方法を工夫すること、また形式知(言葉や数式などの明確な形で表せる知識)と暗黙知(経験に基づく知恵など)の両方を重視して体験的・身体的理解につなげることが重要とされます。

学力の3要素2.「思考力・判断力・表現力」

思考力・判断力・表現力を伸ばすことで、身につけた知識・技能を最大限に活用できるようになります。必要な情報を取捨選択し頭の中に蓄積された知識と組み合わせて自分の考えをまとめたり、自分の考えを他者にわかりやすく説明したりするためには、十分な思考力・判断力・表現力が欠かせません。

各教科において観察・実験やレポート作成などの発展的な学習機会を増やすことで学習内容を深く定着させ、教科の枠を超えた総合的な学びを充実させるのに役立ちます。

学力の3要素3.「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」

新しい教育指導要領にも登場するアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)には、多様な人々と積極的に関わり協力し合って学ぶ態度が欠かせません。例えばPBL(課題解決型学習)におけるグループ学習には、グループの仲間との協力・意見交換や普段接する機会が少ない外部の人へのヒアリングなどが必要となります。

これからの社会において、ある程度パターン化が進んだ単純作業はAI(人工知能)が、AIでは難しい創造的・革新的な仕事は人間がそれぞれ担うようになるでしょう。自ら進んで課題を発見し解決しようとする姿勢や、様々な価値観の人と積極的に関わり新しいアイデアを模索しようとする姿勢は、グローバル化・技術化が進むこれからの社会に欠かせないと考えられます。

大学入学共通テストとは

国内のほとんどの大学では、共通入学試験としてセンター試験(大学入試センター試験)を導入してきました。しかし高大接続改革にともなってセンター試験は廃止され、大学入学共通テストに移行することが決定しています。

大学入学共通テストの日程はセンター試験と同じ1月中旬の2日間とされていますが、その内容はセンター試験とどのように異なるのでしょうか。

大学入学共通テストの内容

知識の詰め込みに偏っていたこれまでの教育を反省し学力の3要素をバランスよく評価するため、大学入学共通テスト(以下「共通テスト」)はセンター試験から以下のように変更されています。

全問マークシート方式の廃止

センター試験は全問マークシート選択方式でしたが、共通テストでは国語と数学に一部記述問題が導入されます。記述問題を設けることで、全問マークシート方式では評価しにくかった思考力・判断力・表現力をスムーズに評価できるようになります。

記述問題の導入によって自分の頭で考えをまとめ、納得できる根拠を示しつつわかりやすく表現する必要性が生まれます。また、正しい答えが複数ある問題の出題も可能になります。

全問マークシート方式は原則として選択問題となるため、当てずっぽうで高得点を取れてしまう場合があります。一方記述問題は当てずっぽうでの解答が難しく、高得点を取るためには付け焼き刃ではない深い学習が求められます。共通テストでは、記述問題以外のマークシート問題も単なる選択問題から思考力などを必要とする内容に見直されます。

共通テストにおける記述問題の導入およびマークシート問題の見直しは、主体的な学びの重要性を示すアピールでもあります。

英語4技能評価

グローバル化が進む現代社会では、英語を使ったコミュニケーション能力の向上が求められます。現行の学習指導要領では「読む」「聞く」「話す」「書く」をバランスよく育てることが定められており、大学入試においても英語能力を正しく評価する必要性が向上しました。そのため、共通テストではこれらの4技能すべてが評価されます。

しかし共通テストは一度に大勢の受験生が受験するものであり、実施される時間や場所は非常に限られています。その中で、全受験生の「話す」「書く」技能を正確に評価することは非常に困難です。

そこで、共通テストでは他の教科のような一斉試験の代わりに民間事業者が実施する英語試験(TOEICや実用英語技能検定試験など)の評価の活用が検討されています。すでに一定の評価が定着している民間試験を活用することで、スムーズな評価につながることが期待されています。
※TOEICは2019年7月に共通テストへの参加を取り下げました。(2019年8月25日追記)

 

一斉試験では80分の筆記(リーティング)試験と30分のリスニング試験がそれぞれ100点満点となるため、リスニング問題への対応も重視されます。また、試験内容はできるだけ4技能評価を意識したものになる予定です。

導入スケジュール

大学入学共通テストは、令和2年度の入学試験から実施開始となります。令和2~5年度はセンター試験と同じ6教科30科目ですが、令和6年度以降は新教育指導要領に沿って簡素化される予定です。

英語については、令和2~5年度は共通テストで実施される一斉試験と民間試験を用いた評価の両方が実施されます。各大学は一斉試験と民間試験のどちらか一方を評価に用いるか、あるいは両方を併用するかを選択します。

民間試験を受ける場合は、国が認めた民間試験を高校3年生の4~12月に1回または2回受験します。受験生は、試験の出願時に受験結果を大学入試に利用したい旨を申請します。試験実施後、各試験の実施団体は受験生の試験結果とCEFR(英語能力を評価するための国際基準)に基づく6段階評価を大学入試センターに送付します。

 

 

プレテストの実施状況

平成29年および平成30年、文部科学省主導によるプレテストが実施されました。プレテストの目的は、共通テストの運営にまつわるさまざまな項目の検証です。平成30年のプレテストでは前年に引き続いて記述・マークシート式問題の内容が検証され、さらに試験の実施・運営などに関する総合的な検証が行われました。

高校2年生以上を対象とするA日程(1日間)では、国語(100分)と数学1〔数学Ⅰ・A〕(70分)の2教科が実施されました。また高校3年生などを対象とするB日程(2日間)は、センター試験とほぼ同じ実施教科・タイムスケジュールで実施されました。

プレテストの状況

独立行政法人大学入試センター公式サイトでは、出題問題の内容や回答方法などが公開されています。

記述式問題では1問につき複数の正答条件が設けられているものもあり、条件を満たした個数によって採点基準が定められています。マークシート方式の問題でも、1問につき複数の正答を選ぶものが登場しています。また、レシピサイト(英語)や著作権法の条文(国語)などの身近な題材を用いた設問も大きな特徴となっています。

各科目の試験は平均正答率5割程度を想定して作成されており、平成30年のプレテストでは19科目中14科目が平均正答率5割以上となりました。特に理数系科目の正答率が低く、多くの受験者が数学的思考に基づく問題発見・解決や複数の分野にまたがった知識を問う問題に慣れていないことが明らかになりました。

進学予備校による分析

河合塾をはじめとする大手進学予備校は、公式サイト上でプレテストの出題傾向や採点ポイントなどについて解説しています。その一例として、河合塾による英語の筆記(リーディング)と数学Ⅰ・Aの解説内容をここでご紹介します。

英語の筆記(リーディング)では発音・アクセントなどを問う問題が登場せず、全問が読解力を問う問題となっています。全体的に語彙レベルはあまり高くなく読みやすい文章になっていますが、全体の概要を的確に捉えて必要な情報を確実に読み取る能力が問われるため難しく感じられるでしょう。

記述問題が採用された数学Ⅰ・Aは、試験時間がセンター試験より10分長い70分に設定されています。会話文やコンピューターソフトを用いた場面設定が採用されており、文章を素早く読んで理解する能力が求められます。また、公式の丸暗記ではなく公式の証明・活用方法などに対する深い理解の重要性も上がっています。

数学の記述式問題では、「数式」または「数式と短い文章」が問われます。採点基準は正解(加点あり)か不正解(加点なし)のいずれかとなっていますが、受験者によって解答表現が異なることもあります。採点者による解釈のずれをなくして公平に採点するため、チェック体制の構築とチェック機能の継続的な検証が求められます。

大学入学共通テストは、確かな学びを促すツール

令和2年度から、センター試験に代わって大学入学共通テストが実施されます。本格的な実施開始までに解決すべき課題もあるものの、センター試験では評価が難しかった「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」をバランスよく評価できることが大きな特徴です。

世相の変化にともなう価値観の多様化や新しい教育指導要領の内容を受けて、多くの教育現場ではPBLや反転授業といった新しい学習スタイルが導入されています。大学入学共通テストはこうした新しい学びを通して身につけた力を正しく評価するツールであり、ただの受験勉強ではなく生きる力を育てるための学びをうながす手段として期待されています。

〔参考〕
文部科学省
「大学入学者選抜改革について」

「確かな学力」

独立行政法人大学入試センター
「平成30年度試行調査_問題、正解等」

「新テスト(大学入学共通テスト)の実施等に向けた当センターの取り組みについて」

河合塾「平成30年度(2018年度)試行調査(プレテスト)」

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部