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高校で「資産形成」が必修化 導入理由や授業案をご紹介!

更新日:2022/01/31

2022年4月から高校で「資産形成」の内容が必修化されます。これまで学校では積極的に行われてこなかったお金の学習ですが、今回新たに導入された理由は一体何でしょうか?そもそも高校で「資産形成」についてどんなことを学ぶのでしょうか?この記事では、新学習指導要領の内容や平成30年改訂の背景から「資産形成」の学習内容や導入された目的について考察しています。記事の後半では授業案やお役立ち資料サイトも紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。

2022年から「資産形成」が高校家庭科に登場!新学習指導要領の定義を紹介

新学習指導要領の高校・家庭編で「投資信託等の金融商品」や「資産形成」という文言が明記されました。登場しているのは「C 持続可能な消費生活・環境」の中にある家計管理の解説部分です。

 

ア 家計の構造や生活における経済と社会との関わり,家計管理について理解すること。

(中略)

 家計管理については , 収支バランスの重要性とともに,リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際,生涯を見通した経済計画を立てるには,教育資金,住宅取得,老後の備えの他にも,事故や病気,失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ,預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れるようにする。

高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編 p.39より)

 

これまでも家計管理・生涯を見通した経済計画の立て方という記述はありましたが、どんな方法で、という部分には触れられていませんでした。それが今回の改訂で「預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れるようにする」と具体的に言及されたのです。これは、家計管理の中の一つの視点として投資等による資産形成が含まれたと解釈できます。

 

また、投資や金融商品について扱う科目は家庭科だけではありません。公民科の新科目「公共」でも、下記のように「資産運用」などの文言が追加されました。

 

金融の働きについては,現代の経済社会における金融の意義や役割を理解できるようにするとともに,金融市場の仕組みと金利の働き,銀行,証券会社,保険会社など各種金融機関の役割,中央銀行の役割や金融政策の目的と手段について理解できるようにする。

なお,「金融とは経済主体間の資金の融通であることの理解を基に,金融を通した経済活動の活性化についても触れること」(内容の取扱い)が必要であり,金融は,家計や企業からの資金を様々な経済主体に投資することで資本を増加させ,生産性を高め,社会を豊かに発展させる役割を担っていることを理解できるようにする

高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 公民編 p.70〜71より)

 

ここでは2つの点に注目したいと思います。

 

● 金融機関の例として「証券会社」「保険会社」が明記されている
● 「家計や企業からの資金を様々な経済主体に投資することで資本を増加させ,生産性を高め,社会を豊かに発展させる」という文が追加されている

 

平成21年の学習指導要領では、中央銀行以外の金融機関には言及されず「金融市場の仕組み」とまとめられていました。それが新学習指導要領では「証券会社」「保険会社」と具体的に示されています。また、次の段落では「家計からの資金を様々な経済主体に投資することで(中略)社会を豊かに発展させる」という文章も追加されました。これは「公共」の授業を通して、生徒が将来投資で資産形成できるような土台づくりをするねらいがあると考えられます。

 

ここで、公民科「公共」と家庭科の視点の違いについて見ておきましょう。この2つはともに投資・金融商品に対する知識と理解を深めるという学習内容ですが、考える視点が少し異なります。公民科「公共」は金融の働きの中に投資などの資産運用が含まれている一方で、家庭科は家計管理・生涯を見通した経済計画の中に資産形成が含まれています。つまり、世の中の仕組みという大きな視点・客観的な視点から資産運用を学ぶのが公民科「公共」で、一個人の家計管理という主観的な視点から資産形成を学ぶのが家庭科、と区別されているわけです。

「資産形成」必修化の目的は?背景に時代の変化によるライフプラン多様化

では、投資などによる資産運用・資産形成が必修化された目的は何でしょうか?これには、近年の急激な時代変化によるライフプラン多様化と現代が予測困難な厳しい時代にあることの2つが背景として挙げられます。

 

(㆒) 生活における経済の計画
生活の基盤としての家計管理の重要性や家計と経済との関わりについて理解するとともに,収入と支出のバランスの重要性やリスク管理の必要性を踏まえた上で,将来にわたる不測の事態に備えた経済計画についても考察できるようにすることをねらいとしている。

高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編 p.38〜39より)

 

家庭科の家計管理が含まれる「(一)生活における経済の計画」のねらいは、このように定められています。ここで注目するのは「将来にわたる不測の事態に備えた経済計画についても考察できるようにする」という部分です。

 

 

平成30年の新学習指導要領改訂の背景には、社会構造や雇用環境の急激な変化と技術革新などによる予測困難な時代の到来があります。2015年には英オックスフォード大学と野村総合研究所の「日本の労働人口の約半分が人工知能やロボット等で代替される」という研究発表が話題になりましたし、2019年には転職者数が過去最多の351万人となって終身雇用の衰退が如実に表れました。つまり、これからは誰しも転職などの転換点が増えてライフプランが多様化していく時代と考えられるのです。

 

 

さらに、投資などの資産運用・資産形成を推進する背景にはこの3つも大きく関係しています。

 

● 銀行にお金を預けていても増えなくなった(ゼロ金利・マイナス金利)
● 人生100年時代になって年金支給額が減少・老後資金の備えが必要になった
● 2022年から成年年齢が18歳に引き下げになった

 

 

バブル期には銀行金利が年5%ほどもあり、預けていれば勝手にお金が増える仕組みとなっていました。しかし、今の銀行金利はほとんど0%で推移していて預けていてもお金が増える見込みはありません。人生100年時代と少子高齢化による年金受給額の減少によって、老後資金が2000万円必要だという試算も話題になりましたね。こうした厳しい状況に対応するには、若年期から計画的に資産運用をして生涯に必要な資産を作ることが重要という流れになるのは必然なわけです。

 

 

成年年齢の引き下げにより卒業と同時に全員成年となる今の高校生にとって、学校教育でお金について学ぶことは必要不可欠です。高校における投資・資産形成の必修化は、全生徒が時代にあったお金の運用方法を学び、生涯で必要な資産を自ら獲得できるようにすることが目的だと言えるでしょう。

高校教員は「資産形成」をどう教えたらいい?鍵は教科横断的な学びと出張授業

2022年からの「資産形成」必修化に伴って課題とされているのが、教員が十分に投資・資産形成を教えられるのかという点です。この課題を解決するにあたって、ここでは3つの方法を提案します。

 

● 金融庁などによる教員向け講座や指導用ワークシートを活用
● 金融庁などの関連機関による出張授業を実施
● 家庭科・公民科の教科横断学習プログラム

 

 

金融庁・日本銀行・金融広報中央委員会・日本証券業協会 証券教育広報センターなどさまざまな機関が金融に関する教育用資料を作成・公開しています。なかでも金融広報中央委員会は金融教育の授業案や教材・ワークシートなどの無料配布、教員向けオンラインセミナーや公開授業の実施を行っており、とても便利です。これらの資料や教材を活用すれば、金融知識が少なくても実践的な授業ができます。

 

 

また、金融庁では高校への金融経済教育に関する出張授業や教員向け研修会への講師派遣を無料で実施しています。財務局でも講演会や説明会の実施、学生向けセミナーへの講師派遣を行っているので、こうした金融の専門家による授業を実施するのもいいでしょう。地域によっては証券会社に講師を依頼して出張授業をしてもらった例もあるので参考にしてみてください。

 

 

学校内での実践としては、家庭科と公民科で資産形成に関する教科横断学習プログラムを実施することが挙げられます。家庭科の家計管理と公民科の資産運用の組み合わせで「生涯に必要な資金を確保するためにはどのような資産運用を行ったらいいか」といった課題解決プログラムが可能です。これは実際に都立国際高校での実践例が紹介されているのでチェックしてみるといいでしょう。

 

 

資産形成に関する授業を行う上で気をつけるべき点は、具体的かつ身近な事例を活用して知識理解を深めることです。投資・資産形成などを学ぶ目的は、これまで学ぶ機会がなかった投資・株式・保険などの金融商品や資産運用を体験することであり、効率的に資産形成できるよう指導することではありません。生徒がトラブルに巻き込まれることなく安全に資産運用・資産形成できるように、具体例を活用した実践的・体験的な授業を行うようにしましょう。

高校における「資産運用」「家計管理」の授業案と参考資料の紹介

最後に、金融広報中央委員会で公開されている公民科と家庭科の授業実践を紹介します。授業で使われているワークシートは金融広報中央委員会の公式サイト「知るぽると」で入手できるので、ぜひ活用してみてください。下記でも、「知るぽると」に掲載されているものの中からいくつかピックアップして紹介します。

 

 

資産運用の授業案 〜公民科〜

都立蒲田高校公民科の浅川貴広先生による『リスクとリターンの関係を学ぶ。現実の経済の動きを題材に資産運用を疑似体験』という授業実践です。1時限目「景気変動とリスクの関係」で前提知識を学び、2時限目「資産運用におけるリスクとリターン」で資産運用シミュレーションを行います。

 

2時限目では100万円の資金をリスクの異なる2つの株式投資と貯蓄に分散して、2018年①→バブル期→バブル崩壊後→2018年②と4回シミュレーションし、100万円の資金がどのように増減するかを体験します。この実践は景気に敏感な株と景気に左右されにくい株の2つを用意し、景気状況が全く異なるバブル期前後でシミュレーションを行うのが特徴です。この設定により、株式の性質と景気状況によっては大損する可能性があることや株式と貯蓄のバランスを考える大切さを学べます

 

 

最後に2018年のシミュレーション①と②を比較して、違うところがあればどうして変えたのかを発表して終了です。最初と最後に同じ時代でシミュレーションすることで、株式投資のリスクについて理解できたかが視覚的に確認できます。リスクについて言語化できるまで理解していなくても、このやり方なら感覚的に理解できているかがわかる点がいいですね。

(参考:知るぽると 浅川貴広先生

 

 

家計管理の授業案 〜家庭科〜

山梨県立上野原高校家庭科の大神田寛子先生による『社会人の家計管理を疑似体験。自立のための健全な金銭感覚と自主的に判断できる自信を養う』という授業実践です。これは2年次の選択科目「ライフデザイン」で行われており、①〜⑤の実践授業で構成されています。実際に物件探しをしたり、雇用形態や学歴による生涯賃金の差などを学んだりした上で、一人暮らしの新卒社会人として家計管理に挑戦するのがメインテーマです。

 

 

この授業実践では資産形成について触れられませんが、資産の目標額を決める上で最も重要な「社会人が1ヶ月暮らすのに必要な金額」を把握できます。これを把握すると、生涯でどれくらいの資産が必要なのか・手取りのうちどれくらいを貯蓄や投資に回すのか、などを考えられるようになります。資産形成を始める前に家計管理を学ぶ重要さが実感できる授業実践です。
(参考:知るぽると 大神田寛子先生

 

 

まとめ

急激な時代の変化・成年年齢の18歳引き下げに伴って、高校と社会をつなげる教育の重要性がさらに高まっています。投資・資産形成に関する学習では、実際に生徒が体験してそこから得た学びをきちんと理解することが重要です。単なる知識の押し付けではなく、具体的かつ身近な例を通して体感的に資産形成を理解できるような授業づくりが求められています。

 

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部