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お知らせ

探究(探求)学習のススメ~生徒への指導方法・事例も紹介~

更新日:2021/07/30

文部科学省が平成30年3月に改訂した高校学習指導要領で新たに盛り込まれた「総合的な探究の時間」。令和4年度より高校教育の中で実施されていくことになります。そもそも探究学習とは何か?今後の高校生への指導の中で求められている探究学習について、どのように進めていけばよいか指導方法の例を交えながら紹介します。

 

そもそも探究学習とは?定義をご紹介

そもそも探究学習とは、どのようなものなのでしょうか。文部科学省が告示した新学習指導要領では、探究学習を以下のように定義しています。

 

 探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成すること

 

(1) 探究の過程において【知識及び技能】
イ 課題の発見と解決に必要な知識・技能を身に付ける。
ロ 課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解する。


(2) 実社会や実生活と自己の関わりから【思考力・判断力・表現力等】
イ 問いを見出し,自分で課題を立てる。
ロ 情報を集め,整理・分析する。
ハ まとめ・表現する。


(3) 主体的・協働的に取り組み,互いのよさを生かしながら【学びに向かう力・人間性】
イ 新たな価値を創造する。
ロ よりよい社会を実現する態度を養う。(高等学校学習指導要領)

 

また、探究学習の中で、以下の点について、特に求められています。

 

①課題や問いを立て、その解決のために必要となる知識及びスキルを身に付けること

②自分のテーマに対する行動軸やアクションプランをつくること

③社会や実生活など、身近なところから自分のテーマを見つけること

④テーマに対して、情報を収集し、整理・分析しながら、自らの考えをまとめ・表現・発信できるようにすること

⑤他者と協力しながら、新たな価値をつくりだすこと

 

つまり、探究学習とは、教科の垣根を越えて、生徒自身が自分らしさや将来の生き方について、自らテーマや課題を設定し、その目標に対して、他者と共に、試行錯誤しながら、能力や知識を養っていく学習のことです。

 

ICT技術やAI技術などの技術革命、少子高齢化や新型コロナウィルスなど様々な社会情勢から世界的にもSDGs(持続可能な開発目標)が定められるなど、生徒たちの未来に、今までにない激しい社会の変化が待ち受けていることが予測されます。そうした環境下の中で、生徒自身が自分らしい生き方を選択できるよう設計された学習方法が探究学習なのです。

具体的にはどうやるのか?探究学習の進め方

生徒が自分でテーマを設定し、試行錯誤しながら行動し、知識を養っていく探究学習ですが、具体的にどのように進めていけばいいのか、悩みの声も多いと思います。文部科学省の学習指導要領によると、以下のプロセスを何度も繰り返すことで学習していくことが、探究学習の進め方であると定義されています。

 

探究学習の大まかな流れ

①課題の設定
②情報の収集
③整理・分析
④まとめ・表現

 

①では、生徒自身が興味・関心のあるテーマや課題を設定することが必要となります。テーマを決めた上で、具体的にどのような結果を得られるといいのか、問いをつくりながら、目標を立てる形になります。

 

実際にテーマが決まった後、②の情報収集を行うことになります。情報収集には、大きく分けて、2つの種類があります。一つは、テーマに対して、既に調査・開示された情報や課題を解決するために必要なインプットを行うための「先行研究の調査」と、先行研究の調査では把握することができない情報の取得や実際に目標達成に向けて必要な調査を行う「課題解決に関する調査」があります。前者は主にインターネットや書籍、後者は生徒自身がアンケート調査、インタービュー調査などのフィールドワークを行うことによって情報の収集を行います。

 

「先行研究の調査」をしっかりした上で「課題解決に関する調査」を行うことが非常に重要になってきます。よく起こりやすい事例としては、既にインターネット上で調査されている内容など調べればすぐにわかる内容について、クラス全員が同時期にアンケート調査を安易に行い、その結果、あまり有益な情報を得らず、徒労に終わり、アンケート疲れが起きるというものです。探究学習を進めていく上で、既に調べられているものは何か、何を情報として得られるといいのか、調べたものを精査した上で、調査自体への問いを立てることがポイントとなります。

 

③整理・分析では、②で行った結果に基づき、その効果がどういったものなのか整理する段階になります。この段階では、以下の違いに注意して分析する必要があります。

 

・結果(アウトプット):事実として起こったこと
・成果(アウトカム):事実から感じた・学んだこと

 

事実として起こったことと事実から学んだことを分けて考えなければ、学習効果としてあまり期待できないものとなります。先ほどのアンケートの例のように、生徒自身がアンケートを実施することが目的になってしまい、そこから何を学んだのかわからなくなってしまった結果、次にどう行動していいかわからず混乱してしまったという事例があります。

 

整理・分析のポイントは、調査によって何を学べて、その結果から何を感じたのかということを問いかけることで学びを深めることにつなげることです。

 

④では、①~③の内容をまとめ、新たなテーマや問いを立てアクションをするという探究学習を繰り返し行っていく流れとなります。このタイミングで発表やプレゼンテーションの機会を設けることで、他者に伝えることを通して、学んだことを整理し、学びを深めることに効果的になります。

 

①~④を何度も繰り返していくことで、経験し学習をしていくことが探究学習の進め方の特徴です。

探求学習におけるテーマの決め方・進め方

探究学習を行っていく上で、一番の悩みの種は、「テーマをどう決めるのか?」という点だと思います。

探究学習のテーマの種類として、

 

・生徒の興味や関心(趣味も含む)のあるテーマ
・将来や進路に関するテーマ
・自分が住んでいる地域や学校に関するテーマ
・社会的な課題や学術的なテーマ

 

などに分類することができます。生徒にこうしたテーマの分類があることを提示することで、テーマをイメージしやすくなります。

 

実際に、テーマの決め方については、教員がテーマを与える、もしくは、生徒自身が決めるという方法があります。教員が提示するテーマ案については、

 

・「自分の住んでいる地域の歴史について調べる」
・「災害に強いまちづくりをするためには何が必要か考える」
・「自分が校長先生になったら、どのような学校改革を行うか考える」
・「地域の名産品を使った新しい商品を考える」
・「水道水やまちの川・海の水質を調査して、環境について考える」

 

といったテーマなどを教員から生徒に提示する方法になります。

この方法の利点としては、教員がテーマを提示することで、生徒がスムーズにテーマを決定することができます。また、調査方法やアクション内容について、生徒がどのように進めるか予測しやすいため、教員が指導をしやすいという点です。その一方で、生徒自身が決定しているわけではないため、やらされている感覚にならないよう、動機付けが必要となります。教員がコントロールしやすいため、生徒の独創的なアイデアを出すための支援も重要です。

 

生徒がテーマを決める方法については、前述のテーマの分類に基づきながら、自分が実施したいテーマを生徒が考えていく形になります。生徒のやりたいことを言葉にしていく作業については、一例として以下のものが挙げられます。

 

・1~2週間分の新聞で気になった記事を複数個スクラップし、ジャンルごとに分け、その中で気になるものをテーマとする

・ブレーンストーミングやマンダラートなどの発想法を使って、気になるワードからどんどん連想していき、その中から自分が興味あるキーワードをテーマとしてピックアップする

・興味・関心あることの先行調査を行い、そこで感じたこと・疑問に思ったことをテーマとする

 

生徒自身がテーマを決めることで、生徒の主体性を引き出すことができます。自分の興味・関心のあることについて自由に行動しているため、普段授業では目立たなかった生徒が積極的に活動するという事例がありました。ただ、テーマを決められない生徒やテーマがあまりにも壮大のテーマで活動が停滞するということも起こるため、なぜそのテーマを選んだのか、どのような結果を得たいのか、今まで行ったことで感じたことは何かという問いを絶えず投げかける必要があります。

 

教員が提示するケースでも、生徒がテーマを決めるケースでも重要となるのは、テーマを壮大なものにせず、生徒にとってなるべく関係するものや身近なものをテーマにするということがポイントなります。例えば、「日本の〇〇をより良くしたい」というテーマにした場合、生徒自身で行えるアクションが限られ、調べ学習で終わってしまう可能性があります。そのテーマを選んだ背景や調べたものから学べたこと・感じたことは何かということを問いかけたり、行うべき手段を整理するなどのサポートを行うことで、探究学習を効果的なものにすることができます。

 

探求学習のメリット・デメリット

メリット

①生徒が自ら興味・関心のあるテーマを選択することで、やる気や主体性を高めることができる
②探究学習で身に付けた知識・スキルを基に、学習意欲や学力の向上につながる可能性がある
③自らの進路選択について、進路に役立つ知識をつけ、将来の選択肢を増やすことができる
④アクションを通して、他者とのコミュニケーションを行い、伝える・聞く力を身に付けることができる
⑤自ら計画をたて、情報収集・整理する力を身に付けることができる

 

メリットについては、生徒の主体性を高め、学校生活のみならず、日常生活や今後の将来においても、必要となる自ら課題を設定し、試行錯誤して解決していく能力を習得できるという点です。

デメリット

①テーマが決められなかったり、活動がうまくいかないことで生徒の自信ややる気がなくなってしまう可能性がある
②生徒を見守る必要があるため、時間がかかってしまう
③教員がファシリテーターとして生徒の考えを整理する役割として立ち回るなど、工数がかかる上、慣れるまでに時間がかかる
④何をもって生徒にとって学びになっているのか、評価しづらい
⑤受験に活かせない生徒もいる

 

デメリットとして、教員側への負担がかかってしまうこと、うまくいかないことで生徒自身の自信をなくしてしまう可能性があること、テーマによっては直接受験に活かせない生徒がいるにも関わらず時間がとられてしまうことなどが挙げられます。

メリットとデメリットを踏まえたうえで

教科教育と比べ、生徒の主体性が高め、自ら学ぶ能力を養える可能性がありますが、受験教育の面では非効率で教員側の負荷がかかりやすいと言えます。その一方で、生徒にとって、将来的な必要なスキルを養えることや総合型選抜など学力だけでない形で進路選択に寄与できるのも特徴です。生徒の特長に応じて、教科教育と探究学習のメリット・デメリットを相互に補完して行っていく形が理想的な形ではないでしょうか。

まとめ

今回は、探究学習について、その特徴と進め方、テーマの決め方や探究学習のメリット・デメリットについて、ご紹介しました。闇雲にテーマについて実施するのではなく、生徒自身のテーマを選んだ理由や学んだことについて感じたことなど、生徒自身のその場その場でで感じたことをしっかりと整理していくことが探究学習を効果的にしていくためのポイントとなります。生徒の想いを引き出していくためには、教員だけが役割を担うのではなく、生徒同士で相互に対話することで、学習効果を高めることもできます。

 

受験でも、高い学習意欲や目標・目的意識が基準となっている総合型選抜への対策としても、探究学習は非常に重要な位置づけになってきます。今後より注目されるであろう探究学習について、今回紹介した方法を是非ご参考ください。

 

〇参考文献

文部科学省 【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部