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中高生が抱く自己肯定感の現状は?どう接したらいい?

更新日:2021/08/30

「自分に自信がなく不安」、「周りの人の目が気になる」、「自分のやりたいことがみつからない」。

 

生徒が口にする自分自身に対するネガティブな言葉のオンパレード。様々なメディアでも「今の若者は自信がない」というフレーズを目にすることがあると思いますが、中高生の自己肯定に関する現状はどういうものなのでしょうか。事例を交えながら若者との接し方について紹介します。

若者は本当に自信がない?データから見る中高生自身の自己肯定感に関する評価は?

令和元年度に内閣府から公表された『子供・若者の意識に関する調査』では、「今の自分が好きか?」という自己肯定感に関する設問で「好き」と答えた中高生は46.5%、「自分が役立たないと強く感じる」という自己有用感に関する設問に「当てはまる」と答えた中高生は49.9%になります。このことから、中高生の半数が自分に対してネガティブな印象を持っているということがわかります。

 

その一方で、同じ調査では、「自分には自分らしさがあるか?」という設問に対して「あてはまる」という回答が全体の70.5%、「今の自分に満足しているか?」という設問に対して、「あてはまらない」という回答が全体の59.2%という回答もあります。このことから、自分自身について、ある程度はポジティブな評価はしているが、周りと比べると現状の自分ではダメだという評価をしている中高生が多いということがこの調査から読み解くことができます。つまり自信と自己肯定感低いのではなく、自己有用感や自己効力感が低いとも言えます。

 

自信?自己肯定感?自己効力感?違いは何?それぞれの定義をご紹介

自信、自己肯定感、自己効力感、自己有用感。こうした自分自身に対する評価を表す言葉だけで、様々な言葉があります。教育の現場でよく目にする言葉ですが、何が違うのでしょうか。それぞれの定義について以下のとおりになります。

 

・自信

自分で自分の能力や価値などを信じること。自分の考え方や行動が正しいと信じて疑わないこと。
(出典:小学館 デジタル大辞泉)


・自己肯定感

自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する言葉
(出典:実用日本語表現辞典)

 

・自己有用感

他人の役に立った、他人に喜んでもらえた、という感情
(出典:国立教育政策研究所)

 

・自己効力感
自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること
(心理学者 アルバート・バンデューラが提唱)

 

となります。

 

どの言葉も自分自身を好評価している状態であるといえますが、自己有用感については他者から認めれている状態、自己効力感について具体的な経験から自分ができるという証明できている状態というようなより鮮明な状況・状態から自己評価をしていると言えます。

 

先ほどの内閣府の「子供・若者に関する意識調査」の結果と関連させていくと、今の中高生は自信や自己肯定感について、ある程度評価はしつつも、自己有用感・自己効力感については必ずしも高いとは言えないということがわかります。

 

自己有用感も何かしらの行動に対する他者からの評価・結果でもあることから、自信や自己肯定感もつけるためにも、自分ができるという具体的な経験から生まれる自己効力感をいかに高めることができるかが教育現場における鍵ではないでしょうか。

 

では、具体的にどのようなことを行えば、自己効力感を高めることができるのでしょうか。具体的なポイントについて説明いたします。

自己効力感を高める条件とは?一番効果が高いのは生徒自身が自ら成功体験を重ねることができるかどうか!

 

自己効力感を提唱した心理学者アルバート・バンデューラによると、以下の行動が自己効力感の向上に影響すると言っています。

 

・達成経験(最も重要な要因で、自分自身が何かを達成したり、成功したりした経験)
・代理経験(自分以外の他人が何かを達成したり成功したりすることを観察すること)
・言語的説得(自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし)
・生理的情緒的高揚(酒などの薬物やその他の要因について気分が高揚すること)

 

その中で、達成経験や代理体験が特に効果が高いと言われています。達成体験は、生徒自身が目指す方向について実際に行動し達成した経験になります。自己効力感を養う上で最も効果が高いと言われています。受験勉強や部活動における達成経験の他、アクティブラーニング・課題解決学習・探究学習といった自ら仮説をたて主体的に行動するような体験にも達成体験につながる可能性があります。その他、インターンシップや留学など、具体的に生徒自らが主体的な行動を行い、目標を達成するものも達成体験につながりやすいとも言えます。ただ、生徒の主体性や振り返りなどの意識・能力に依存するものでもあり、条件が整わなければ実施できない可能性もあります。例えば、インターンシップや留学は受入先の状況が整っていなければできないものであり、いつでも簡単にできるものではありません。

 

また、達成体験は大会で賞をとったり、誰もやったことがないことを成し遂げるといった大きな成功体験だけでなく、小さい成功体験でも構いません。例えば、今までチャレンジしたことがないことを1か月間やり続けてみるというものでも生徒によっては自己効力感の向上に寄与することがあります。社会にとっては大きな変化でなくても、生徒にとって小さな気づきや変化でもよいのです。大事なのは、生徒が目標に対して達成したという一連の流れを体験できたか、という点です。大小問わず、成功体験の積み重ねが将来的に大きな自信や自己肯定感につながっていきます。

 

2番目に効果が高いと言われているのが代理体験です。自分以外の他人の経験について疑似体験することで自己効力感を高める方法になります。具体的には、キャリア教育や進路教育の一環として、社会人やOBOGなどの歩んできた道を聞くキャリアトークや著名人の著作やビデオ・書籍から学習するという方法です。また、アクティブラーニングや探究学習においては地元の人や身近な人にインタビューする方法もこれにあたります。つまり、自分以外の先輩・先人の姿を自分と比較しながら、疑似体験を行い、模倣や行動することです。より効果を高めるためには、ただ話を聞いたり見たりするだけでなく、振り返りをした上で、次に自分がどのように行動していくのか、考えていくことが非常に重要です。この方法を実施するにあたって、他者と比べて劣等感を感じないよう、気をつけねばなりません。自分に活用できそうな部分は何か長所やポジティブな点で着目するよう生徒に促していくとよいでしょう。

 

言語的説得は、他者から承認してもらったり、自分の能力について他者から客観的に説明されたりすることです。例えば、個人面談で生徒に対して評価をしたり、日々の活動でほめるなどの行為がこの方法に当たります。教師や保護者はもちろんのこと、生徒同士でほめあったり、承認をすることも大事です。具体的には、グループワークの中で、アイスブレイクやチームビルディングといった手法を用いながら、お互いのことを知ったり、ほめたりします。こうしたコミュニケーションを取れる環境を整備することで効果を高めることも可能です。

 

生理的情緒的高揚は、酒や薬などといった外的要因による一時的な感情の高めることで自己効力感をあげる方法ですが、効果が薄い上、教育現場では難しいため、オススメできない方法です。

 

以上、自己効力感を高める方法について説明いたしました。生徒の状況に応じて、上記の方法を組み合わせながら、自己効力感を高めることを教育現場では行っていくとよいでしょう。

 

 

どんな偶然に出会うかはわからないが偶然に出会う確率は上げられる

自分ができるという感覚の根拠である自己効力感を高める方法を紹介しましたが、周りのサポートも大事ですが、生徒自身がいかに行動を起こしていくかが自信や自己肯定感を養う上で重要になってきます。こうした働きかけをしても「周りの目が気になる」、「何が正解かわからず、どうしていいかわからない」という言葉が生徒の口から出てきてしまうということも少なくないかと思います。生徒の背中を押すためには何が必要なのでしょうか。

 

教育心理学者であるジョン・D・クランボルツ教授が提唱したプランドハプスタンス理論(計画的偶発性理論)という理論があります。これは「人生のキャリアの8割は予期せぬ偶然によって決定される」という考えで、「どんな偶然に出会うかはわからないが偶然に出会う確率は上げられる」というものです。偶然に出会う確率を上げるためには以下の方法があると言われています。

 

1.好奇心[Curiosity]
2.持続性[Persistence]
3.柔軟性[Flexibility]
4.楽観性[Optimism]
5.冒険心[Risk Taking]

 

この理論のように、「偶然を起こすために、失敗してもよい」、「まずやってみるという楽観的な感覚でも大丈夫」というメッセージを伝えることで、生徒が一歩を踏み出すサポートにもなります。そこで行動することで自信や自己肯定感の向上につながっていくでしょう。

 

まとめ

今回は、内閣府の調査データを元に、中高生の自己肯定感に対する考え方や現状について紹介しました。自分の存在だけでなく、他人に貢献できているかどうかまでが生徒自身の自己評価のポイントになっているようです。成功体験の積み重ねや能力の向上の必要性を中高生も強く感じており、そのサポートをできるかどうかが教育現場で重要になってくると言えます。「まずはやってみる」という気軽にチャレンジできる空間を提供するために、今回紹介した方法をご参考ください。

〇参考文献
内閣府 子供・若者の意識に関する調査(令和2年7月)

国立教育政策研究所 生徒指導リーフ

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部