キャリア教育コラム

COI STREAM 産官学連携で目指すあるべき社会への挑戦

更新日:2019/08/07

現在、日本は少子高齢化や製造業界における世界シェア低下などのさまざまな社会問題を抱えています。これらの問題を解決して経済再生を図り国際的競争力を高めるための手段として、革新的イノベーションの積極的な創成が挙げられています。

 

産官学連携によるビジョン主導型研究開発プログラム「COI STREAM」は、大学・企業が自力だけでは対処が難しいさまざまなリスクに立ち向かいつつ分野・組織の壁を超えた革新的イノベーションを実現し、かつプログラム修了後も途切れることなく革新的イノベーションを生み出し続けるため、国が集中的に支援を行う取り組みです。

 

また、プログラムを通してこれからの日本を担う優秀な若手人材の育成を促すねらいもあります。

 

COI STREAMとは

 

COI STREAM(Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program)は、文部科学省が2013年度から実施している「革新的イノベーション創出プログラム」の略称です。

 

COI STREAMはこれからの社会で生じうるさまざまなニーズをもとに社会・生活の理想形を設定し、この理想形を実現するための研究開発課題を特定したうえで産官学連携による研究・開発までを集中的に支援するものです。

 

COI STREAMは企業や大学だけでは実現困難な革新的イノベーションを産官学連携によって実現すること、そして革新的イノベーションを創出するためのプラットフォームを整備することを目指しています。

 

COIプログラムの概要

研究から生まれるシーズ(技術、設備など)ではなく社会のあるべき姿から研究開発課題を設定するバックキャスト型の研究開発を推進し、アンダーワンルーフ型(大学・企業等の関係者が一体となって研究開発に取り組むこと)のイノベーション拠点を構築します。

 

また、革新的でチャレンジング・ハイリスクな研究開発に対して1拠点あたり年間1~10億円程度(間接経費含む)の支援を最長9年度実施します。

 

COI STREAMを通じて目指すビジョン

 

国立研究開発法人科学技術振興機構は、10年後の日本が実現すべき姿として以下の3つのビジョンを掲げています。

 

ビジョン1 少子高齢化先進国としての持続性確保:Smart Life Care, Ageless Society
キーコンセプト(function) Medical health, Mental health, Motivation, Sports, Food, Ties → Happinessの実現

 

ビジョン2 豊かな生活環境の構築(繁栄し、尊敬される国へ):Smart Japan
キーコンセプト(function) 勘 ing thinking, Active thinking, Serendipity, Six senses → 革新的思考方法

 

ビジョン3 活気ある持続可能な社会の構築:Active Sustainability
キーコンセプト(function) Personalization, Resilience, Sustainability, Functionalization, Flexibility - Waste → 数世紀まちづくり

 

引用:国立研究開発法人科学技術振興機構HPより

 

ビジョン1は、少子高齢化の課題先進国たる日本において高齢でも健康を保持し、ひとりひとりが人とのつながりを大切にしつつ豊かな生活を送ることができる社会の構築を目指しています。

 

ビジョン2は、ICTを用いて個人の生存を脅かす諸要因を取り除くとともに、効率的で活気に満ちた QOL の高い安全・安心な社会の構築、そしてひとりひとりが自らの感性や創造力を発揮して社会貢献しながら精神的充足を得て幸せを実感できる社会の構築を目指しています。

 

ビジョン3は、四季それぞれの美しく価値ある自然を大切にしながら幅広く深い潜在力を体系化し、またひとりひとりの多様性を大切にし、活気に満ちた生活空間を実現させる革新的な社会システムの構築を目指しています。

 

COIプログラムの実施事例

 

COIプログラムでは、拠点設計・構成に関する検討などを行う「ビジョナリーチーム」をビジョンごとに設置しています。ビジョナリーチームは産業界のリーダーを中心として構成され、各拠点はビジョナリーチームの提言などをもとにビジョン実現に向けて研究開発を進めます。

 

ここでは、ビジョンごとのプログラム実施事例を紹介します。

 

食と健康の達人(ビジョン1)

北海道大学が中核となって進めている「食と健康の達人」は、健康度を測るための新しい「健康ものさし」とICTを活用したセルフヘルスケアの仕組みを構築し、個人の健康状態に合わせた最適な「美味しい食、楽しい運動」の商品・サービスを提供することを目的としています。

 

そしてプレママ(これから母親になる女性、妊娠中の女性)・子育て世代から高齢者まですべての人が笑顔で生活できる持続的な健康コミュニティを構築し、ひとりひとりが「食と健康の達人」になる社会の実現を目指します。

 

実現の鍵となる研究開発テーマのひとつ「健康ものさし」は、腸内環境・栄養・睡眠・筋機能などを指標として健康状態を測る評価システム(健康ものさし)の開発及びサービスの実現を目的としています。同時に漢方診断の形式知化・客観化を進めて漢方薬の品質保証体制を構築し、身近な疾病の予防手段として世界へ発信します。

 

また、セルフヘルスケアアプリ「みまもり帖」の開発にも取り組んでいます。心不全患者が自ら記録したバイタルサイン(体重、脈拍、血圧など)・食事・睡眠・服薬などの結果から健康状態を判断し、健康状態の悪化を検知すると早めの受診を促すメッセージが表示されます。

 

これまでに北海道大学などでパイロット試験を実施した結果、多くの試験参加者に毎日の健康チェック習慣化や塩分摂取量の減少などの効果があらわれました。今後はより大規模な臨床試験や他の生活習慣病を対象としたアプリの開発を検討し、健康づくりの拠点を家庭に移していくねらいがあります。

 

「感動」を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション(ビジョン2)

東京藝術大学が中核となるこの拠点では、芸術と科学技術の融合によって次世代のインフラとなる文化的コンテンツを開発し、教育産業を通した文化教育コンテンツと国際関係構築に役立つ文化外交アイテムの社会実装を目指します。

 

研究テーマ「文化共有研究」では、精巧に複製されたクローン文化財や移動型美術館などの共感覚コンテンツを創造し、初等教育向けの教材化やパーソナル学習システムへの展開を見据えたICT端末への実装を行います。

 

2016年にはアフガニスタン・バーミヤン東大仏天井壁画「天翔る太陽神」をクローン文化財として原寸大で復元し、東京藝術大学大学美術館陳列館及びG7伊勢志摩サミットで公開しました。この功績によって、一旦失われた文化財でも文化共有が可能であることを世界へ発信することができました。

 

人がつながる“移動”イノベーション(ビジョン3)

名古屋大学が中核となるこの拠点では、超高齢社会に突入するこれからの日本において高齢者が自らの意思でいつでもどこへでも移動できるようにし、高齢者の積極的な外出と社会参加を促すことで主観的幸福感を向上させる「高齢者が元気になるモビリティ社会」を目指します。

「モビリティ研究」では「ヒトを中心とした」先端技術と社会受容性について環境認識、先読み運転が可能な指導員型協調制御・高齢者データベースに基づく人間特性の研究を行い、公道走行によって検証を進めています。

 

これらの研究を活かして次世代交通システムの提案や社会実験(ゆっくり自動運転など)を行い、高齢者のための安心・安全・快適なモビリティ社会の実現を目指します。

 

2016年には、指導員型先読みシステム・エージェントシステムを搭載した運転支援システムのプロトタイプが完成しました。運転中に起こりうるさまざまな危険をAIが予測し、LEDつきステアリングや振動装置付きペダルなどで安全運転をサポートします。

 

このシステムを用いて運転を体験したドライバーについては、安全運転行動に関する学習効果も確認されました。

 

中核拠点として参画する大学・団体

2019年現在、COIプログラムの中核拠点として多くの大学・団体が参画しています。

 

各プログラムの研究開発は2021年度に終了する予定ですが、プログラム終了後もイノベーションプラットフォームを持続的に発展させうる人材が求められています。COIプログラムでは、COI2021会議やCOI若手連携研究ファンドなどの取り組みを通して各拠点における若手人材の活躍促進を目指しています。

 

ビジョン1 少子高齢化先進国としての持続性確保

・北海道大学
・弘前大学
・東北大学
・東京大学
・川崎市産業振興財団
・立命館大学
・京都大学

 

ビジョン2 豊かな生活環境の構築(繁栄し、尊敬される国へ)

・東京藝術大学
・東京工業大学
・大阪大学
・広島大学

 

ビジョン3 活気ある持続可能な社会の構築

・山形大学
・東京大学
・慶応義塾大学
・金沢工業大学
・信州大学
・名古屋大学
・九州大学

 

COIの実装例(弘前大学)

 

弘前大学が中核となる「真の社会イノベーションを実現する革新的『健やか力』創造」では、健康診断・結果判定・啓発を即日で行う「啓発型(新型)健診」のトライアル版を実施しました。

 

受診者が現在病気にかかっているかどうかを調べることに重点を置く従来型健診は、受診後の行動改善(生活・食事・運動習慣などの改善)のきっかけとなりにくいことが指摘されています。

 

啓発型健診では近年注目されているメタボ・ロコモ・口腔保健・うつ病及び認知症の4テーマを総合的に検診し、検査結果を当日中に受診者本人に還元します。啓発型健診のメインターゲットは健康への関心が低くまだ症状がない人であり、単なる病気判定ではなく受診後の行動変容につながる健康教育・啓発に力を入れています。

 

健診には県内企業スタッフ80名が参加し、COIスタッフ・COI参画企業と連携して健診と啓発を約2時間で完了させるシステムを構築しました。健診後の啓発では、受診者本人の健診データを用いて健康状態や生活スタイルに合わせたアドバイスを行います。

 

健診後は受診者に健康情報新聞を定期配信し、半年後の再検診では数値や行動変容に関する検証を行って普及版の研究・開発につなげます。将来的には国内外のヘルスケアビジネスを標準化して超高齢化社会となる国内はもちろん海外へも普及させ、弘前大学発のビジネスモデルとして確立することを目的としています。

 

弘前大学では、啓発型健診以外にも小中学生及び保護者向け健康教育プログラムや冬場の運動不足解消を目的としたモールウォーキングなどさまざまな社会実装を実施しています。

 

新しい日本の未来を創るCOI STREAM

COI STREAMは、「10年後の日本社会や人がどのように変わるべきか」というビジョンを基にした挑戦的かつハイリスクな研究開発を支援するプログラムです。プログラム中核拠点となる全国の大学を中心に多くの研究機関・企業・団体が一丸となり、さまざまな分野にまたがる研究開発を進めています。

 

各プログラムは「少子高齢化先進国としての持続性確保」「豊かな生活環境の構築(繁栄し、尊敬される国へ)」「活気ある持続可能な社会の構築」の3つのビジョンに基づいて設定されています。

COIプログラムの成功によってそれぞれのビジョンを実現することで国民のQOLを上昇させ、安全・安心な社会の構築と国際的競争力の強化につなげることをねらいとしています。

 

■参考

COIについて -センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム

COI-パンフレット2017.12JP

平成28年度名古屋COI拠点成果発表会及び公開シンポジウム 
  研究成果報告「名古屋COI拠点 フェーズ1の結果」

社会実装 弘前大学COI研究推進機構

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部