キャリア教育コラム

STEM教育とは?時代に求められる科学技術人材育成

更新日:2020/09/24

小学校や中学校でのプログラミング教育必修化をきっかけに、日本でも科学技術人材を育成するためのSTEM教育が徐々に広まりつつあります。

しかし、STEM教育について「理系科目に力を入れる教育」「自分は(うちの子は)文系だから関わりがない」などと誤解されることも多くあります。今回はSTEM教育を通して真に追求する目標やSTEM教育からさまざまなに発展した教育、そして国内外におけるSTEM教育の実践例について解説します。

STEM教育とは

STEM教育は科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の横断教育のことを指し、世界各地で導入されています。

STEM教育は、時に「理系科目やプログラミング教育を重視する教育」と解釈されることもあります。しかし、STEM教育が真に目指しているのは科学技術と創造力、問題解決力の結びつきを強めることで次世代を担う子どもたちの「生きる力」を育てる総合教育です。

生きる力を伸ばすためには、理系科目やプログラミング教育ばかりに偏るのではなくSTEM分野だけでなく他の分野(国語・社会・道徳など)の知識や技術を組み合わせて課題解決・アイデア創造に取り組む訓練が重要になります。

STEM教育の種類

STEM教育が世界各国に普及する過程で、さまざまなニーズや問題が明らかになってきました。STEM教育に新たな要素を加えることで教育効果を最大限に引き出し、あるいはSTEM教育の普及を阻む問題を解決するために、STEM教育をベースにした教育手法が多数登場しています。

STEAM

近年、STEM教育に芸術(Art、Design)を加えたSTEAM教育も注目されています。

AIが発展しつつあるこれからの時代、人間にしかない感性や創造力の重要性が見直されています。アーティスティックな視点を育てることは、新しいアイデアを発見し複雑な問題を解決するためにも役立ちます。

国内でも、STEAMプロジェクトの一環として「数学と音楽」「数学と形」などのように複数の要素を組み合わせた社会人や学生向けワークショップが開催されています。

STREAM

STREAM教育は、STEAM教育にロボット工学(Robotics)を加えた教育手法です。

STREAM教育でロボットのデザイン・分析・組み立て・使用までの一連の流れを深く学ぶことで将来のロボット技術発展に貢献し、また問題解決能力や論理的思考を育てることができます。

最近は誰でも簡単にロボットのプログラミングやデザイン・組み立てを楽しめるキットが登場しており、子どもの自由研究用教材やおもちゃとしても注目されています。

eSTEM

eSTEMは、STEM教育に環境教育(Environmental education)を加えた教育手法です。

一口に環境教育と言っても、その内容は自然環境・産業環境・生活環境・ネット環境などさまざまな分野にまたがっています。幅広い環境教育によって技術の追求とともに環境への配慮ができる人材を育て、全ての人が安心して生きられる社会を作る狙いがあります。

GEMS

GEMS(ジェムズ)はGirls in Engineering Math and Scienceの略称であり、女性のSTEM分野への進出をサポートするプログラムを指します。

過去記事「STEM教育とは? 理工学の修業が世界のトレンドに」でも触れていますが、現在世界各地でSTEM教育の男女格差が問題となっています。多くの国や機関では、GEMSを普及させることによって男女格差をなくし女性の社会進出を促すことを目指しています。

また、GEMSはGreat Explorations in Math and Scienceの略称でもあります。こちらのGEMSは、子どもたちが自ら実験などを企画して進める参加体験型プログラムを指します。

GEMSには、数学・科学分野の知識をつけるだけでなく主体的に学ぶ意欲やコミュニケーション能力などを育てるねらいがあります。もともとはアメリカで始まった教育手法ですが、国内でも多くのプログラムが実施されています。

海外の先進事例

次世代を担う人材の育成は、本人や社会の可能性を伸ばすだけでなく国力の強化にもつながります。STEM教育に力を入れている諸外国では、国を挙げてさまざまな取り組みが進められており、近年では、欧米のみならずアジア諸国でもSTEM教育・STEAM教育が大きく発展しています。

アメリカ

アメリカは、STEM教育の発祥の地として知られています。オバマ政権においてSTEM教育は科学分野で世界を牽引するための国家戦略とされ、多額の国家予算が投じられました。

2018年に発表された今後5年間のSTEM教育戦略計画「成功のための進路の提示 ~米国のSTEM教育戦略~(Charting A Course for Success:America’s Strategy for STEM Education)」では、コンピューターリテラシーの重要性やSTEM教育およびSTEAM教育の価値が改めて強調されています。

またマイノリティや女性のSTEMプログラム参加状況をより明確にすること、職業訓練や研修生制度にSTEM教育を取り入れて雇用促進やスキルアップを図ることも目標としています。この他、科学人材の起業を後押しする取り組みなども進められています。

シンガポール

シンガポールのSTEAM教育を牽引しているシンガポール・サイエンスセンターは、1,000種類以上の体験型展示を有するシンガポール最大の国立の科学博物館です。科学や環境について楽しく学べるショーやデモンストレーションが毎日開催されており、子どもはもちろん大人や外国人観光客からも人気のスポットとなっています。

2014年以降は全ての中学生を対象としてロボット工学や環境科学などのSTEAM授業を実施し、シンガポールの国策である人材育成に大きく貢献しています。

中国

モバイル決済サービスやタクシー配車アプリなどの普及からもわかる通り、中国では最新ITテクノロジーが非常に素早く普及しています。また、子どもが激しい競争社会を勝ち抜けるようIT教育に力を入れる親も少なくありません。

アメリカと同様STEM教育が浸透している中国では、2018年から2020年にかけて小・中学校や高校でのプログラミング教育必修化が進められています。日本ではプログラミング的思考の習得を主な目的としてプログラミング必修化を進めていますが、中国では未来のAI人材を育てて国際競争力を伸ばすことを目指しています。

国内のSTEM教育の現状

STEM教育の一環として小学校では2020年度から、中学校では2021年度からプログラミング教育が必修となります。日本におけるSTEM教育の認知度はアメリカやシンガポールなどと比べてまだ低いものの、一部の教育機関ではSTEM教育に関する取り組みが積極的に進められています。

駒込学園

中高一貫校である駒込学園は、埼玉大学STEM教育研究センターとの共同カリキュラムを実施しています。

その一例として、身近な課題を実践的に解決するためのプログラミング授業が行われています。2018年には食糧不足を解決するための農業支援ロボットを開発・制作し、WRO(世界ロボットコンテスト)の全国大会に出場しました。

また、1年次のフィールドワークでは海外の学生とともに被災地で活躍するロボットのプログラミングを行っています。

東京学芸大こども未来研究所

東京学芸大こども未来研究所では、STEM教育に関する取り組みの一環として小学3~6年生を対象とした会員制のものづくりラボ「Codolabo STEMひろば」を開催しています。

8月~3月にかけて計15回開催されるSTEMひろばは、講師と相談・進捗確認しながらミッションを進めるゼミ形式と理系大学生のアドバイスを受けながら自由にミッションに取り組めるオープンラボ形式に分かれます。

また研究所ではSTEMインストラクター講座を実施し、学校教育と社会教育においてSTEM教育を体系的に推し進めるための教育人材を育成しています。

あいちSTEM教育推進事業

あいちSTEM教育推進事業では、研究指定校に定められた県立高校が理工系大学と連携しながらSTEM教育課程を研究する「あいちSTEMハイスクール」を実施しています。

研究指定校のひとつ・県立半田農業高校では、中部大学と連携しながらLED照明を活用した工場栽培技術や環境制御プログラムについて学ぶカリキュラムの開発に取り組みました。

また、高校生や教職関係者を対象とした「知の探求講座」や「技の探求講座」なども開催されています。大学で実習・実験に参加したり、企業で機械系・電気系のものづくりを体験したりすることで、STEM分野の実践的な知識・技術を育てるねらいがあります。

今後の成長が期待される、日本のSTEM教育

日本ではプログラミング教育の必修化が決定しているものの、アメリカなどと比べるとまだSTEM教育の認知度は高くありません。また、STEM教育の男女格差も問題視されています。

現在のSTEM教育分野では、STEM教育が抱える課題を解決しさらなる発展を図るための様々な新しい教育手法が登場しています。これからのSTEM教育によって、高い科学技術力や考える力を得てIT・グローバル化社会で活躍できる人材が育つことが期待されています。

【参考】

経済産業省「21世紀の教育・学習」中島さち⼦

日本学術振興会「【ニュース・アメリカ】大統領府、今後5年間のSTEM教育戦略計画を発表」

シンガポール・サイエンス・センター Visit Singapole公式サイト

学校法人 駒込学園

東京学芸大こども未来研究所

あいちSTEM教育推進事業

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部