キャリア教育コラム

コロナ禍における高校でのオンライン授業実施の実態とは?

更新日:2020/06/30

新型コロナウイルス感染症の影響で高校を含めた教育現場では通常授業を開催することができず、授業の遅れについて心配の声が上がっています。特に休校期間中の学習環境の確保については、教員も保護者も不安を感じていたと思います。そんな中で、対応策の1つとしてオンライン授業の活用が取り沙汰されていましたが、高校におけるオンライン授業の実態はあまり表に出てきていないように感じます。そこで今回は、全国の高校の先生にオンラインでアンケート調査を実施し、オンライン授業の実態について調べてみました。

アンケート調査の概要

今回のアンケート調査の概要は以下の通りです。

 
  • 調査期間:2020年5月29日〜2020年6月11日の2週間
  • 調査方法:全国の高校100校の教員にメールで回答を依頼
  • 回答数: 27件(回収率27%)
 

回答してくださった先生の勤務校の情報については以下のとおりです。お忙しい中ご回答くださった教員の皆様、ありがとうございました。

回答は関東の私立の普通科高校の教員によるものが多いことを念頭に、今後の内容を読んでもらえると幸いです。

高校でのオンライン授業の実施状況

では、本題のオンライン授業の実施状況について見ていきましょう。アンケートの回答は以下のようになりました。

6月初旬の時点で、オンライン授業を実施していた学校が約80%、未実施ではあるがその後の実施が決定した学校が8%、未実施ではあるがその後の実施の可能性がある学校が15%程度で、オンライン授業を始める決断をした学校がほとんどでした。

 

では、ここからはオンライン授業を既に実施している学校と未実施の学校に分けて、回答の詳細を見ていこうと思います。

オンライン授業を実施している高校

先ほど述べたとおり、回答の中でオンライン授業を既に実施している高校は8割でしたが、実施形態については以下のようになりました。

同期型と非同期型を併用する高校が多く、どちらか一方のみの利用はそれぞれ3割程度でした。各高校の状況に合わせてオンライン授業の実施形態が選ばれているようですが、ここからはどうしてオンライン授業の実施が可能だったのかを深ぼってみようと思います。

オンライン授業が可能だった理由

先生方には、どうして実施が可能だったのかを自由回答で聞いてみました。

回答の中で1番多かったのは「生徒のデバイスの所持率の高さ」で、10校の先生がそのように答えていました。全学年ではなく1学年や1コースなど一部の生徒に配布している学校でも、その学年・コースが起点となってその他のオンライン授業環境の整備を進めることができたようです。また、今回は私立高校からの回答が多く、環境が整備しやすいことも関係があると思われます。

 

2番目に多かったのは「学校・教員側の前向きな姿勢や意思決定の早さ」(7校)でした。「オンライン授業の実施準備のプロジェクトチームが上手く機能した」(東海、都道府県立、専門学科)や「IT専属係から様々なアドバイスをもらった」(関西、私立、普通科)など、学校の中でオンライン授業実施に向けて起点となる組織の構築を行った学校も見られました。

 

続いて多かったのは、「クラウドサービスの存在」と「生徒のWi-Fi接続可能環境の高さ」(4校)でした。もともと整備していた高校もあれば、今回を機に都道府県で一括採用されて利用した高校もありましたが、利用開始のタイミングは違えどクラウドサービスの有無は大きかったみたいですね。また、デバイスと同じくWi-Fi環境もオンラインでの授業実施に大きく関わっていたようです。Wi-Fi環境が整わない生徒に貸し出しを行う高校も見られました。

オンライン授業の満足ポイント・不満ポイント

続いて、先生方にお聞きしたオンライン授業について満足している点をご紹介します。多かった回答は、「反転学習が可能になった」「繰り返しの視聴で生徒が理解を深めることが可能になった」「授業進度がコントロールしやすくなった」「課題回収や採点を自動化できた」の4つでした。また、教材研究をより丁寧にするなどして、教員が授業を工夫するようになったという声も聞かれました。

 

さらには、黒板の見えづらさの解消や登校時間がなくなったことなどを挙げている先生もいました。 一方、オンライン授業について不満に思っている点としては、「生徒の反応が掴みづらいこと」が最も多く聞かれました。性格や人間性などの人の温もりが特に伝わりづらく、新学期早々、生徒との距離を縮めるのに先生方は苦戦している模様です。表情が見えづらいことで授業の理解度も測るのが困難であり、理解度の差が分かっても個別の対応が対面授業よりしづらいそうです。他には、教員側と生徒側のタイムラグや(一部)教員への過度な負担なども挙げられました。

オンライン授業をまだ実施していない高校

回答を依頼した時点でオンライン授業をまだ実施していなかった高校に対しても、その理由を自由回答で聞いてみました。

 

まず、オンライン授業は未実施であるものの今後の実施が決定した高校についてですが、実施決定に時間を要した理由としては、生徒数の多さや学校法人の決裁のスピードによって「オンライン授業を実施するための環境整備に時間を要した」という声が聞かれました。回答してくださった高校は同期型と非同期型の併用でオンライン授業を実施するそうで、オンライン授業について、対面授業と遜色ないような学習指導の可能性に期待を寄せつつも、情報リテラシーの格差などによるデジタル・デバイドと生徒の理解度の確認が難しいことに懸念を抱いているようです。

 

続いて、オンライン授業を実施していないものの今後実施される可能性のある高校についても質問を行いました。

 

実施に踏み切れない理由としては、環境整備にかかる高額な費用や授業の質・セキュリティへの懸念、生徒側の端末や通信環境の格差などが挙げられました。オンライン授業の実施には、それをサポートするデバイスやWi-Fi、クラウドサービスなどの物的なものを生徒一人一人に確保することが必須ですが、実施済みの高校のデバイス所持率の高さも踏まえると、これがオンライン授業の実施において1番高い障壁の模様です。

オンライン授業の実施を踏まえた今後の授業展開

今回のアンケート結果では半数以上の高校がオンライン授業を行っていましたが、実施に向けて重要だったことは、オンライン授業を実施する物理的な環境整備とそれを達成するための学校・教員の意欲でした。未実施の理由でも授業環境の整備は大きな負担になっており、オンライン授業の実施に向けて特に授業環境を学校の外でいかに準備できるかについて、学校や行政でさらなる議論が必要になってくるでしょう。

 

そして、既にオンライン授業を実施した学校からは、オンライン授業は対面授業よりも生徒とのコミュニケーションが図りづらいという声の一方で、IT技術活用による様々な利点も見られました。現在は対面授業を復活させた学校が多いと思いますが、対面授業の中にオンライン授業で実感したIT技術の利便性を組み込んだ新たな授業スタイルの確立が期待されます。

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部