キャリア教育コラム

反転授業とは 導入メリットと国内外の事例

更新日:2019/11/24

アクティブラーニングの一種である反転授業は、その名の通り教室での対面授業と自宅学習(予習)を反転させた新しい授業スタイルです。従来の授業と大きく異なる学習スタイルによって、子どもたちの学習意欲向上や学習の効率化など多くの効果が期待されています。

 

反転授業は、その性質上ICT教育(情報通信技術を用いた教育)やPBL(課題解決型学習)とも密接な関わりを持っています。いずれも文部科学省の新しい学習指導要領で紹介されている「生きる力」の育成に役立つ新しい学習手法として注目されており、今後ますます教育現場に浸透していくことが予想されます。

今回は、反転授業によってもたらされるさまざまなメリットや国内外の教育機関における反転授業の導入例について解説します。

反転授業とは

2000年代にアメリカで登場した反転授業は、学校での学習と自宅での学習を反転させた学習スタイルです。

従来の一般的な学習スタイルではまず学校の授業で基礎的な知識を習得し、その知識を用いて自宅学習(宿題)を行います。一方、反転授業ではまず自宅学習(予習)を行って基礎的な知識を吸収します。学校の授業は、自宅学習で得た知識を用いて応用問題を解いたり自宅学習で分からなかったところを質問をする場となります。

 

反転授業の流れ

まず、基礎的知識を習得するための自宅学習用教材を生徒に配布します。この教材はオンライン動画や電子書籍などのデジタル教材であることが多いため、あらかじめ学習用タブレット端末を配布するか各生徒の家庭が持っているハードウェア、インターネット環境に配慮する必要があります。

 

生徒は、授業時間までに自宅学習を済ませて基礎的知識を習得しておきます。この予習が、従来型学習における対面授業の内容(基礎的知識に関する説明、理解度をチェックするための小テスト・レポート作成など)に相当します。

 

対面授業では発展・応用問題や自宅学習でわからなかった部分に関する質問、解説、教材の内容をふまえたディスカッション、グループワークなどを行います。反転授業における対面授業は、従来型学習における宿題またはカリキュラム後半の授業(応用的な内容の授業)に相当します。

 

反転授業のメリット

登場してまだ日が浅い反転授業ですが、従来型授業にはないさまざまなメリットがあります。

 

1.生徒が主体性を持って学習に取り組む

反転授業では、生徒ひとりひとりがしっかり自宅学習をして基礎知識をつけておかないと対面授業についていけなくなります。従来型授業に比べて自宅学習の重要度が高いため、おのずと自宅学習が促されます。

反転授業を通してひとりひとりが自主的に学ぶ習慣を身につけることで、学習モチベーションを保ちやすくなるでしょう。

 

2.授業は生徒がアウトプットをする場になる

反転授業における対面授業は、わからないところを質問したりディスカッションやグループワークなどを行ったりするアウトプットの場となります。知識を一旦インプットしてからアウトプットすることで、知識が脳に深く定着しやすくなります。

また自分で質問するだけでなく他の生徒からの質問やその質問に対する解説を授業中に聞くことで、自分とは違う考え方や新しい知識を得るのに役立つでしょう。

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3.PBL学習に活かせる

反転授業は、PBL(課題解決型学習)と共通点が多い学習方法です。PBLは生徒が自主的に課題を発見し、グループ方式で問題解決に向けてさまざまなアクションを起こす学習方法です。教師は生徒に知識を与える立場ではなく、生徒の学びのサポート役にとどまります。

現在多くの教育機関で取り入れられているチュートリアル型PBLでは、まず特定のシチュエーションを想定したシナリオが生徒に配布され、生徒はシナリオの中から課題を探し出します。その後グループごとにディスカッションや文献調査などを行って課題を検証し、検証結果をまとめて発表します。

PBLをスムーズに進めるためには、シナリオの熟読や文献検索・資料作成などの自己学習が欠かせません。PBLにおける自己学習や知識のアウトプットの重要性は反転授業と共通しており、両者を組み合わせたカリキュラムを用いる教育機関も増えています。

 

4.自分のペースで学習しやすい

従来型授業は、一度に大勢の生徒に対して進められます。授業内容に対する理解度や問題を解くスピードは生徒によってばらばらなので、中には途中で授業についていけなくなる生徒もいます。

自宅でデジタル教材を使った自己学習では、理解できるまで繰り返し再生したり途中で一時停止してゆっくり考えたりすることができます。従来型学習についていくのが難しい生徒も、デジタル教材を使うことで自分のペースで学習しやすくなります。

 

反転授業の事例

海外の事例

反転授業の先進国であるアメリカの小中学校では、カーン・アカデミー(ビデオ教材の製作・配信を行う非営利団体)製のビデオ動画を取り入れた反転授業を地区単位で実施しています。この反転授業によって、子どもたちの学習意欲が上がったことが明らかになっています。なお、カーン・アカデミー製のビデオ教材は日本語を含むさまざまな言語に翻訳されています。

またカリフォルニア州のサンノゼ州立大学では、EDX(エネルギー分散型X線分析)の電子回路に関するオンライン講座を反転授業の教材として導入したところ学生の修了率が50%から90%に上昇しました。

 

国内の事例

国内でも、反転授業を取り入れる教育機関が増えつつあります。ここでは、中学校、高等学校、大学それぞれの導入例を紹介します。

篠山市立篠山東中学校

兵庫県篠山市立篠山東中学校では、2013年度から段階的に反転授業を導入しています。まずビデオ動画やパワーポイントなどで作成した映像教材を使って予習を行い、予習内容をもとに授業を進めます。五教科だけでなく実技教科にも反転授業が導入されており、映像教材を使ってリコーダーの指使いや工具の使用方法などを予習します。

対面授業では、グループワークや生徒同士で教え合う機会を増やすことでアウトプットに力を入れます。また実験後の思考時間を長めに確保したり、より発展的な学習方法を取り入れたりすることで応用力の向上に役立てます。

 

反転授業の導入によって授業中の発言や意見交換の活発化、予習・授業・復習のサイクルの確立、理科の実験や実技教科の安全性向上などの成果が確認されています。また生徒の感想もおおむね良好であり、「興味を持って学習できた」「わかりにくいところをすぐ質問できるのが良かった」などの声が挙がっています。

 

近畿大学附属高等学校

近畿大学附属高等学校は2013年度から全生徒のタブレット端末購入と学校側でデジタル教材等を共有できる学習管理システム「サイバーキャンパス」の導入を実現し、反転授業に活用しています。

例えば英語の反転授業ではサイバーキャンパスに講義動画をアップし、生徒は動画をもとにして英文の日本語訳や文法を予習しておきます。対面授業は基本的に英語だけを使って進行し、デジタル音声を使った発音練習や予習内容の確認テスト、そして生徒同士のグループ学習などを行ってアウトプットを増やします。グループ学習中は、教師はファシリテーター(進行役)を務めます。

反転授業の導入によって、アウトプットの増加による理解度向上や自宅学習の増加による学習範囲の拡大などのメリットがもたらされました。また、グループ学習を通じて教師と生徒の関わりがより濃密になったとのことです。

 

金沢工業大学

金沢工業大学の環境・建築学部では、反転授業を取り入れたアクティブラーニングが導入されています。学生たちはまず自習用eラーニングシステムを使って授業内容や演習課題を予習し、授業では演習や小テストをメインに行います。また予習内容の理解度が高い学生がチューターとなり、授業中に学生同士で教えあう機会も設けられています。

受講した学生からは「自らチューターを務めることで、理解度が上がった」「eラーニングの内容が教科書よりわかりやすい」「チューターが友人なので、教授に聞くよりも気軽に質問できた」などのポジティブな声が挙がっています。

 

また、現地実習にも反転授業が導入されています。学生は現地コースの工法についてあらかじめ課題発見・調査を行い、当日は事前調査の内容を踏まえながら実地の見学や現場担当者への質問を行います。反転授業を取り入れることで積極的に質問する学生が急増し、現場担当者からも高い評価が得られました。

 

反転授業によって、学習はもっと楽しく効果的なものになる

従来はまず対面授業で基礎知識をつけてから自宅学習(宿題)で応用問題などを行う学習スタイルが一般的でした。一方、反転授業ではまず自宅学習(予習)で基礎知識をつけてから対面授業で発展学習を行います。予習段階で知識のインプットを進め、対面授業でアウトプットの機会を増やすことで、学習内容への理解を深めるのに役立ちます。

現在、国内外の教育機関で少しずつ反転授業が導入されています。また反転授業とPBLを組み合わせたり、生徒同士で互いに教えあったりすることで、多様な学習スタイルが実現しています。今後反転学習を含む新しい学習スタイルがもっと教育現場に浸透すれば、より意欲的に学習に取り組める子どもが増えるでしょう。

 

■参考
J-stage 反転授業 ICTによる教育改革の進展 重田 勝介

兵庫教育9月号「反転授業 アクティブラーニングを取り入れた授業を目指して」

金沢工業大学「反転授業によるアクティブ・ラーニングの推進」

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部