キャリア教育コラム

75%以上の高校がアクティブ・ラーニングを実施。2016年度調査から見る実施状況とは?

更新日:2021/04/24

アクティブ・ラーニングという近年の教育現場で取り入れられている指導方法をご存知でしょうか。これまでの受け身型の授業とは違い、生徒が学習に積極的に参加して、また教員が生徒を授業に参加させていく、参加型授業のことです。日本でも従来の学習方針に変化が表れており、文部科学省が先頭に立ち、多くの学校が生徒を授業に積極的に参加させるアクティブ・ラーニングを取り入れ始めているのです。例えばアメリカでは、ほぼ全ての授業でアクティブ・ラーニングが取り入れられていると言われています。日本も時代に合った学習方法に切り替えるために、アクティブ・ラーニングを授業に取り入れた授業が増えています。

 

アクティブラーニング実践

 

この記事では、2016年に東京大学と日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)が全国の高等学校の教員向けに行った「高等学校における参加型学習に関する実施調査」の調査結果から高校での

 

・アクティブ・ラーニングの取り組み状況
・教科別で見た取り組み状況
・アクティブ・ラーニングが実施された学習活動の種類
・アクティブ・ラーニングを実施したタイミング
・アクティブ・ラーニングが実施された頻度

 

について紹介します。調査では全国の高校のうち75%以上がアクティブ・ラーニング型授業に取り組んでいる教科があるという結果もでています。アクティブ・ラーニングが教育の現場でどれだけ浸透しているのか、どのように実施されているのかが知りたい方は、ぜひご覧ください。

 

(調査前提条件)
調査期間:2015年7月~9月
対象:全国の高等学校2,414校(回収率62%)
2,414校の内訳は、国立9校、都道府県立1,676校、その他公立(市立・町立・組合立)81校、私立648校。

 

1.高校でのアクティブ・ラーニングの取り組み状況

全国の高校の実施状況

まずは、高校でのアクティブ・ラーニングの取り組み状況を紹介します。各学校での参加型授業への取り組みの状況は、以下のようになっています。

 

アクティブ・ラーニングの取り組み

 

「教科として組織的に取り組んでいるわけではないが、独自に参加型学習に取り組んでいる教員がいる」がもっとも多い70.7%となっています。次に多いのが、「教科として組織的に参加型学習に取り組んでいる」になっており14.9%を占めている状況です。一方、「参加型学習に取り組んでいる教員はまったくいない」は14.5%となっています。この統計を見る限り、何らかの形で参加型授業に取り組んでいる教科が合計85.5%となっているので、多くの高校がアクティブ・ラーニングに取り組んでいると言えるでしょう。

 

2.高校でのアクティブ・ラーニングを教科別で見た取り組み状況

教科別の実施状況

次に教科別でアクティブ・ラーニングへの取り組み状況を見たいと思います。

教科別取り組み状況

 

「教科として組織的に参加型学習に取り組んでいる」のは外国語が24.4%となっています。これは国語、地歴・公民、数学、理科などの他の科目が10.5〜15.4%だったことを考えると、とても高い数字と言えます。外国語は話すことで覚えていくという授業内容もあるため、積極的な授業への参加を求められることが他の教科と比べて多いのが要因でしょうか。また、海外から来たネイティブの教員が教えているケースもあるでしょう。アクティブ・ラーニングが日本よりも進んでいるアメリカから来た教員であれば、自分の経験から参加型授業をすることも多いかもしれません。それも外国語がもっとも参加型授業に取り組んでいる理由の一つと言えるかもしれません。

 

教科として組織的な取り組み方

また、この調査では「教科として組織的に参加型学習に取り組んでいる」と答えた教科に対しては、その取り組み内容も調査しています。

組織的積極度

 

「教科の会議などで積極的な呼びかけなどを行っている」が60.1%で、とても高い割合となっています。一方で、「教科全体として参加型学習に関する目標を掲げている」は39.7%、「教科全体として参加型学習の推進に関する具体的な計画を策定している」は33.5%となっており、計画や目標を立てている教科は低い割合となっていることがわかります。

 

教科全体の実施状況と今後の見通し

各教科の参加型授業への取り組み状況と今後の見通しは、何らかの取り組みをしている学校が全体の48.0%とほぼ全体の半分となっています。1年前の2015年度に行った調査結果43.9%と比べると、2016年度のこの調査結果では約4ポイントの増加となっています。

取り組みをしている48.0%の内訳は下記の図の通り、大半の学校が今後も取り組みを維持、充実させていきたい意向があると分かります。

 

今後の見通し

教科別の実施状況

教科別にこの調査結果を見ると、国語が54.1%ともっとも高くなっていることがわかります。外国語が国語についで高く53.6%、理科が51.0%、地歴・公民46.6%、数学が34.5%となっています。こちらも2015年度の調査と比較すると、今回の調査は、数学と理科で約8ポイントの増加がありました。8ポイントの増加というと大きな増加と言えるでしょう。数学と理科の大きな増加と比較すると、国語、地歴・公民、外国語はそれぞれ約1〜2ポイントの増加に留まっています。

教科別取り組み状況

教科ごとに見ていくと、『国語』での参加型授業の実施率の中央値は10〜25%となっています。特に3年生の国語表現の授業では、50〜75%となっており、とても高い実施率と言えるでしょう。また『外国語』における参加型授業の実施率の中央値は、多くの授業で10〜25%、もしくは25〜50%となっておりこちらも非常に高いことがわかります。教科としては、53.6%と半分以上の学校で実施されており、それぞれの高校でも多くの科目で参加型授業が実施させています。

 

一方で、『数学』における参加型授業の実施率の中央値は1〜10%となっており、全体的に非常に低い水準となっています。教科としては全体の34.5%と約1/3の学校で実施されていますが、それらの高校で実施している授業の割合としては、多くの科目で10%未満に留まってしまっています。この数学をはじめ、『地歴・公民』も似たような状況となっています。今後の課題は、よりこの数学、地歴・公民科目において、参加型学習への取り組みをより加速させる必要があると言えるでしょう。

 

3.高校でのアクティブ・ラーニングで実施された学習活動の種類

アクティブ・ラーニングを実施するとき、どのような進め方がいいのでしょうか。進め方を誤ってしまっては、効果的な学習をすることはできません。ここでは、もっとも参加型授業がうまくいったと思われる単元(各科目の大きな分野、国語であれば現代文、古典、漢詩…など)で実施された学習活動の種類についての調査結果をご紹介します。

まず、この調査では15種類の学習活動について単元内での実施の有無を聞いています。この15種類は、以下のような活動内容を取り上げています。

 

15の学習活動

1.生徒が課題を発見したり、設定したりする活動
2.生徒があるテーマについて図書館やコンピュータを利用したり、聞き取り調査をしたりし調べる活動
3.データを整理・分析する活動
4.生徒が自分の意見を小論文やレポートなどにまとめる活動
5.生徒があるテーマについて問題演習や課題解決に取り組む活動
6.生徒が実験(実験室などでの)や観察をする活動
7.生徒が役割を演じ、体験する活動(ロールプレイング)
8.生徒が学校外の施設を見学する活動
9.生徒が発表する活動(プレゼンテーション)
10.生徒同士が討論する活動(ディベート)
11.生徒同士の議論や話し合い(ディスカッション)
12. 生徒同士で意見を出し合う活動(ブレインストーミング)
13.生徒が教壇にたって生徒の前で解説講義をする活動
14.生徒が学習について評価・採点する活動
15.生徒が学習について客観的にふりかえる活動

 

以上の15の項目と、それに加えてその他の項目も用意して調査をしました。

 

 

授業内で実施された具体的内容

実施されていた活動として多く挙げられていた項目は、5.生徒があるテーマについて問題演習や課題解決に取り組む活動、11.生徒同士の議論や話し合い(ディスカッション)、12. 生徒同士で意見を出し合う活動(ブレインストーミング) でした。

 

調査結果を見ると、どの教科もこの3つの活動が多かったことが特徴的と言えます。『理科』の科目では6.生徒が実験(実験室などでの)や観察をする活動、『外国語』の科目では7.生徒が役割を演じ、体験する活動(ロールプレイング)が他の教科よりも多く実施していることがわかります。

 

参加型学習の実施人数形態

また、上記の15種類の活動内容に加えて、アクティブ・ラーニングを実施した学習活動に関しては、「生徒3名以上のグループ」、「生徒2名」、「生徒個人」のいずれかを選ぶ質問をしています。

 

実施した活動内容では、全体的に「生徒3名以上のグループ」による活動が多くなっています。この「生徒3名以上のグループ」の活動では、11.生徒同士の議論や話し合い(ディスカッション)や12. 生徒同士で意見を出し合う活動(ブレインストーミング)などが多かったことが調査結果で出ています。やはり、「生徒3名以上のグループ」だからこそできるアクティブ・ラーニングの良さを活かせるのが参加型授業の特徴であると言えます。

 

「生徒個人」の活動の場合は、4.生徒が自分の意見を小論文やレポートなどにまとめる活動や15.生徒が学習について客観的にふりかえる活動などが多かったです。個人学習をさせたい場合は、こういった個人で取り組みやすいアクティブ・ラーニングが選ばれていることがわかります。「生徒2名」の活動は、外国語の科目での7.生徒が役割を演じ、体験する活動(ロールプレイング)が多かったですが、アクティブ・ラーニングの全体の活動で見るとあまり実施されていません。高校でのアクティブ・ラーニングを行う場合は、「生徒3名以上のグループ」か「生徒個人」で実施されることが多いと言えるでしょう。

 

4.高校でアクティブ・ラーニングを実施したタイミング

参加型学習の実施タイミング

授業内のどのタイミングでアクティブ・ラーニングを実施するのが効果的なのでしょうか。ここでは、授業内でもっともうまく実施できたと思われるタイミングの調査結果をご紹介します。

 

結果は、「その単元のおわりの頃の授業」が45.0%ともっとも多くなっています。続いて「その単元の中頃の授業」が29.1%、「その単元での毎回の授業」が25.8%、「その単元のはじめの頃の授業」が20.0%となっています。やはり、単元の終わりの学習が習熟してきた頃が、もっともアクティブ・ラーニングを実施するのが効果的なタイミングと言えるのでしょう。

 

参加型学習の教科別実施タイミング

また、教科別に見てみると、『地歴・公民』では、「その単元での毎回の授業」で実施する割合が他の教科よりもやや低く20.8%となっています。一方「その単元のはじめの頃の授業」で実施することが24.6%と他の教科よりも5%程度高くなっています。

『外国語』の科目では、「その単元の中頃の授業」に実施する割合が20.3%と他教科と比較するととても低くなっています。逆に「その単元のおわりの頃の授業」に実施する割合が、54.0%と飛び抜けて高かったです。習熟度が高まらないと外国語を使ってのグループワークなどは難しい場合もあるため、単元のまとめとしてアクティブ・ラーニングを実施していることがわかります。

 

5.高校でアクティブ・ラーニングが実施された頻度

参加型学習の実施頻度

最後にアクティブ・ラーニングが実施された頻度の調査結果をご紹介します。ここでは、単元を実施した科目でアクティブ・ラーニング(参加型授業)を実施した頻度を調査しています。結果は、「学期に複数回」がもっとも多い50.6%、「毎回の授業」は18.4%、「年に1〜2回」が15.9%、「学期に1回」が15.1%という回答が得られました。やはり、毎回の授業で行うのは難しいですが、できるだけ多くの回数アクティブ・ラーニングに取り組もうという姿勢が、この調査からみて取れます

 

6.まとめ

本記事ではアクティブ・ラーニングが高校でどれだけ取り入れられているのか等の調査結果をご紹介してきました。
具体的な実施回数や、実施タイミングの調査結果もご紹介しているので、これからアクティブ・ラーニングを授業に取り入れようと考えられている方にも、参考になったのではないでしょうか。
この記事をご覧いただいたことで、高校で実施されているアクティブ・ラーニングの現状がご理解いただけたと思います。現時点で75%を超える高校が何らかの形でアクティブ・ラーニングに取り組んでいますが、頻度としてはまだまだ充分であるとは言えない状況です。
全ての授業でアクティブ・ラーニングを取り入れていると言われているアメリカのように、日本もまだまだ浸透させていかなければいけません。この記事でわかる参加型授業の現状を踏まえて、アクティブ・ラーニングを推進していきましょう。

 

 

■参考、引用
木村充, 裴麗瑩, 小山田建太, 伊勢坊綾, 村松灯, 田中智輝, 山辺恵理子, 町支大祐, 渡邉優子, 中原淳 (2017). 東京大学-日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究 高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査2016: 最終報告書.

ReseMom『アクティブラーニングに取り組む高校7割以上、国語では実施率53.6%
シアトル発の情報時soy source

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部