新年度を迎えるにあたり、探求学習やアクティブラーニングの担当になった先生方も多いのではないでしょうか。高校教員としてキャリア教育に取り組む際、「アクティブラーニング」という言葉を耳にしたことはあるものの、「どこから始めればいいのか」「どうやって授業に取り入れればいいのか」と悩む方も多いでしょう。特にアクティブラーニング初心者にとっては、理論を理解するだけでなく、実際の授業で生徒にどうアプローチするかが課題です。この記事では、アクティブラーニングを活用したキャリア教育の導入をスムーズに進めるための具体的なステップやポイントを、初心者向けにわかりやすく解説します。
アクティブラーニングとキャリア教育の基本を押さえる
まず、アクティブラーニングとは何か、そしてそれがキャリア教育にどう役立つのかを理解することがスタートラインです。アクティブラーニングは、生徒が受け身に学ぶのではなく、主体的に考え、議論し、問題解決に取り組む学習方法を指します。一方、キャリア教育は、生徒が将来の進路や職業について考える力を育む教育です。この2つが結びつくと、生徒は単に「働くとは何か」を学ぶだけでなく、自分で未来を描く力を身につけられます。
指導を担当する教員が最初にやるべきことは、この基本概念を自分なりに整理すること。例えば、「アクティブラーニング=グループワーク」と単純化せず、「生徒が自ら考えを深めるプロセス」と捉えると、キャリア教育との親和性が見えてきます。たとえば、「将来どんな仕事がしたいか」を生徒同士で話し合わせるだけでも、アクティブラーニングの第一歩になります。
キャリア教育にアクティブラーニングを取り入れるメリットを知る
なぜアクティブラーニングをキャリア教育に取り入れるべきなのでしょうか。指導を担当するのが初めての方にとっては、この「なぜ」を知ることが重要です。主なメリットは以下の3つです。
生徒の主体性が育つ
教員が一方的に進路情報を与えるのではなく、生徒が自分で調べ、考え、意見を交換することで、進路選択の主体性が育ちます。また、他者との共同作業を通して生徒自身がより本人の適正を学ぶきっかけにもなります。
現実的な視点が身につく
グループ討論やロールプレイを通じて、他者との共同作業を経験することになります。その経験を通してチームワークを育んだり、自分の適正に気づくきっかけにもなるでしょう。。
授業の活性化
従来の講義形式より生徒の参加意欲が高まり、教室が活気づく効果が期待できます。普段は大人しく、影が薄い生徒でも、アクティブラーニングには積極的に取り組むこともあります。
初心者でも始めやすいアクティブラーニングの手法を選ぶ
アクティブラーニングと聞くと、大がかりな授業設計を想像するかもしれませんが、初心者にはシンプルな手法から始めるのがおすすめです。以下に、すぐに活用できる3つの手法を紹介します。
ペアトーク
生徒をペアに分け、「将来やりたい仕事」「自分にとっての成功とは」など、抽象的なテーマに3分間話し合います。時間があれば、ペアを指定し、どんな話をしたかを教室内で共有してもよいでしょう。準備が少なく、教員の負担が小さい。そして生徒も気軽に発言しやすいのがポイントです。アイスブレイクとしても有効でしょう。
職業インタビューシート
生徒に「身近な大人の仕事」をインタビューする宿題を出し、次回の授業でその内容をグループで発表。現実の職業観に触れると同時に、生徒同士の学び合いが促進されるでしょう。生徒によっては、インタビューをする大人を探すことが難しい場合があるので、その場合は教員が手を差し伸べてあげましょう。
未来の自分を描くワーク
「10年後の自分」を絵や文章で表現させ、グループで共有。創造力を刺激しつつ、キャリアビジョンを考えるきっかけになります。あまり堅苦しくやらず、荒唐無稽な夢でも大いに盛り上がってください。
これらは特別な教材がなくても始められるので、初心者教員でも気軽に挑戦できます。「アクティブラーニング初心者でもできるキャリア教育の授業アイデア」を検索する教員にとって、こうした具体例は大きなヒントになるでしょう。
授業準備のステップを具体的にイメージする
アクティブラーニングをキャリア教育に取り入れるには、事前準備が欠かせません。初心者向けに、具体的な準備ステップを4つに分けて説明します。
ステップ1: 授業のゴールを決める
「生徒に何を学んでほしいか」を明確にしましょう。例えば、「職業選択の多様性を知る」や「自分の興味を見つける」など。このゴール設定がないと、ただ単にワークに取り組ませただけになってしまいます。
ステップ2: アクティビティを選ぶ
上記のペアトークやワークなど、シンプルなものを1つ選びます。最初は欲張らず、1授業1アクティビティなど、しっかり時間をとって臨んでください。
ステップ3: 時間配分を考える
例えば、 導入5分、アクティビティ20分、振り返り10分、などのように時間配分を生徒に指示してください。時間管理自体を生徒に任せることも可能ですが、生徒によってはマネジメントがうまくいかないケースもあるでしょう。特に、アクティブラーニング自体の経験が浅い生徒の場合は、最初の頃は教員が「残り〇〇分」のようにガイドしてあげるとよいでしょう。
ステップ4: 振り返りの質問を用意
「今日何を学んだか」「次に同じことをやるとしたらどのようにやるか」など、生徒が自分で考えるきっかけを作る質問を事前に準備しておきましょう。キャリア教育には答えがないので、この振り返りの準備がなく、やりっぱなしになってしまうと教育的効果が高まりません。また「振り返ってください」と指示をするだけでは生徒もうまく動かせません。振り返りの質問を事前に必ず用意しておきましょう。
未経験の教員が陥りがちな失敗とその対策
経験がまだ浅い教員がキャリア教育でつまずくポイントと、その対策も押さえておきましょう。アクティブラーニングは生徒が主役である分、体験満足度や教育的効果を安定させるためには教員の力量が問われます。よくある失敗例を踏まえ、対策をとることで質的効果の安定を図ることができます。
失敗1: 生徒が話さない
答えのない問題に取り組むことになるので、まだ経験が浅い生徒は何をどう考えればいいのかすらわからないことがよくあります。なので、最初は「Yes/Noで答えられる質問」など簡単な質問や問いから始め、慣れてきたらオープンな質問に切り替えていきましょう。
例: 「野球に興味ある?」→「野球のどんな点が面白い?」。
失敗2: 時間が足りなくなる
特にグループワークを行う際に起こることですが、議論がうまく進まず、時間内に終わらないことがあります。先ほどもお伝えした通りあらかじめ所要時間を定めアクティビティごとに時間を区切る。そしてそれぞ都度都度アナウンスすることで途中の遅れを取り戻しやすくなります。
失敗3: 議論が脱線する
これは生徒に限らず社会人でもあることですが、議論をしているうちに本来の趣旨からずれてしまったり、手段と目的が混線して議論が進んでしまうことがあります。自分たちは何について話すのか、などのテーマをホワイトボードに書いておき、逸れたら「これに戻ろう」と促すことも効果的です。アクティブラーニングは指導教員の関わり方の匙加減が難しいのですが、生徒の議論が脱線していたら元に戻してあげることは、担当教員として重要な役割といえます。
生徒の反応を引き出す工夫を加える
キャリア教育でアクティブラーニングを成功させるには、生徒が「楽しい」「もっと知りたい」と思える工夫が大切です。初心者でも簡単にできるアイデアを3つ紹介します。ちょっとした工夫で生徒の反応がぐっと良くなり、教員自身の自信にもつながるでしょう。
リアルな題材を使う
生徒に取り組ませるテーマは非常に重要なポイントです。企業や卒業生の話を織り交ぜるなど、生徒の興味が引くようなテーマを設定しましょう。マイナビが運営するキャリア甲子園では、大企業のテーマに取り組ませることもできて、教材も無償で提供しています。ぜひご検討ください。
教員はアシストに留める
生徒の出したアイデアに対して、大人目線でアドバイスしたり、教員自らがアイデアを出してしまうことがあります。生徒との距離感にもよりますが、基本的に教員は一歩引いたところからアシストをする程度にとどめましょう。
褒める文化を作る
心理的安全性を高めるために、生徒の行うことに対して褒め合う文化を作りましょう。教員が一方的に褒めるのではなく、生徒同士でも承認し合うようになると場の全体があったまっていきます。
サンクスカードを作成し、グループワークの最後に一人一人にあてた感謝の言葉を生徒が書いて相互に交換し合うなどの取り組みも効果的です。
まずは小さく始めてみる
アクティブラーニングを取り入れるなら、「完璧を目指さない」ことが肝心です。1回の授業で1つの手法を試し、生徒の反応を見ながら少しずつ改善していきましょう。
基本を押さえ、シンプルな手法を選び、準備ステップを踏むことで、授業が変わり始めます。生徒が自分で未来を考え、発言する姿を見ると、教員としてのやりがいも感じられるはずです。このガイドを参考に、まずは一歩踏み出してみてください。