キャリア教育コラム

未来の教室 EdTechなどを活用した新たな教育システムの創造

更新日:2019/03/13

現在の教育界では従来の教育の概念を覆す新しい教育システムが注目されていますが、経済産業省が取り組んでいる「未来の教室」実証事業もそのひとつです。未来の教室では学生・社会人・主婦などあらゆる人が学校・学年・教科などの枠を越えて自由に学び、これからのグローバル社会を生き抜くのに必要な課題発見・解決能力を伸ばすことが期待されています。

未来の教室の実証事業では、教育界で注目されているEdTechやSTEAM(STEM)教育などを取り入れたプログラムが計画・実施されています。産業界が抱える社会問題や地域の課題といった身近かつ実践的なプログラムも多く、近年多くの教育現場で導入されているPBL(課題解決型学習)とも深い関わりが見られます。

未来の教室とは

未来の教室は、EdTechなどを活用して新しい教育プログラム開発などを目指す経済産業省の実証事業を指します。また、この実証事業によって新しい教育環境の実現を目指す学びの場も未来の教室と呼ばれます。

2018年上半期に経済産業省が開催した「『未来の教室』とEdTech研究会」において、未来の教室は従来の学校教育で重視されてきた学年・学力・教科・単位といった概念にとらわれず効率的かつ自由に学べる場と位置付けられています。同時に、従来の教育現場よりも多様化した役割を持つ「先生」やEdTechなどの最先端技術によるサポートを受けながら、すべての人がさまざまな「ワクワク(遊び、社会問題、先端、不思議など)」に出会える場とも定義されています。

経済産業省の未来の教室についての解説

経済産業省は、未来の教室に関する取り組みについて以下のように記しています。

“経済産業省は、EdTech・個別最適化・文理融合(STEAM)・社会課題解決をキーワードに、効率的な知識習得と創造的な課題発見・解決能力育成を両立する新たな学習プログラムの開発・実証を進めています(「未来の教室」実証事業)。

未来の教室実証事業において、わたしたちがAI(人工知能)と共存していくために必要となる能力を「チェンジメーカー(創造的な課題発見・解決力)の資質」と定義づけています。実証事業では、EdTechなどを活用してすべての人が効率よく知識・技能を身につけチェンジメーカーの資質を得られるような学習システムの構築を目指しています。”

EdTechとは

EdTech(エドテック)は、教育(Education)とテクノロジー(Technology)が融合して生まれた新しい教育スタイル、または教育サービスを指します。

EdTechの一例として、大学の講義をオンライン上で無料公開するMOOCs(Massive Open Online Courses、大規模公開オンライン講座)があります。また、授業内容についての質疑応答や連絡事項・宿題の管理をオンライン上で行える学校教育用SNS(Edmodeなど)もEdTechに含まれます。

EdTechの発展は、居住地域・言語・経済状況・時間的制約などを気にせず自由に学ぶ機会を多くの人にもたらすでしょう。また、EdTechの活用による教師の仕事効率化が教師の労働環境改善に役立つことも期待されています。

<関連記事を読む>

EDTechとは?学校という概念にイノベーションが起きる可能性

STEAM(STEM)教育とは

STEAM教育は、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Art)・数学(Mathematics)を統合的に学ぶ教育手法です。子どもたちがこれからのグローバル社会・高度技術化社会を生き抜くために必要な能力を身につけ、また国力そのものを上げるために必要な教育手法として、世界各国の教育現場で導入されつつあります。

STEAM教育の具体例として、2020年度から必修化が決まった小学校のプログラミング教育があります。プログラミングそのものの学習を通してプログラミング的思考を身につけ、問題解決能力や各教科の学習効果を高める効果が期待されています。

数学や理科に登場する公式・法則は、ただ丸暗記するものではなく問題解決のためのツールとして活用するべきものです。つまり、理数系科目を学ぶためには課題に対して主体的に学び解決する能力が必要となります。必要な情報を取捨選択し自ら課題発見・解決に向かう力を育てることは、これからの時代に必要とされる「生きる力」を伸ばす第一歩となるでしょう。

<関連記事を読む>

STEM教育とは? 理工学の修業が世界のトレンドに

社会課題解決

ビジネスの世界では近年社会課題解決が注目されており、社会課題解決を直接の目的として活動する企業も増えてきています。近年教育現場で導入されつつあるPBLは、仕事現場または社会におけるさまざまな課題を自ら発見し解決する力の育成につながることが期待されています。

PBL(Project Based LearningまたはProgram Based Learning、課題解決型学習)は、学習者が主体的に課題を見つけ解決することを重視する教育手法です。知識の詰め込みや決まった答えを導き出すことを重んじる従来型の学習システムと比べてより身近かつ実践的な問題を扱うため、学習者が学習内容に対して興味を持ちやすいというメリットがあります。PBLではグループ学習を導入することが多いため、協調性やコミュニケーション能力を伸ばすのにも役立ちます。

未来の教室が行う豊富な新規教育システム

2019年2月現在、未来の教室の実証事業で実施・計画されているプログラムは以下の4種類に大きく分かれています。

未来の先生/校長/学校経営者‐教育イノベーター創出プログラム
「未来の教室」創出
産業界が抱える社会問題を解決するための能力・スキル開発
「現実の社会課題」を題材とした実践的能力開発プログラム

以下に紹介するプログラムをはじめ、各テーマごとに多角的なプログラムが実施・計画されています。

Hero Makers 「未来の先生」へ至るEMBA型共創プログラム

Hero Makersは未来の教育界を牽引する教育イノベーター、つまり先生・校長・学校経営者などを育成するプログラムです。受講者はアントレプレナーシップ(起業家・企業家精神)式実践EMBA型プログラムを通して21世紀に必要なリテラシーを身につけ、チェンジメーカーとなることが期待されます。

いくらITテクノロジーや教育システムが発展しても、「人」がいなければ質の良い教育はできません。Hero Makersでは、現在教え子を持っている「先生」は組織の種類や教え子の人数に関係なく全員が次世代にとってのヒーローであると同時に、次世代のヒーローを創る人材と考えられます。

受講者は他の先生や生徒と協力して、身近な課題を解決する方法を開発・検証します。そうして導き出した答えをコミュニティで発信し、リーダーとして活躍できるプラットフォームを創ります。これら一連の学習が、チェンジメーカーリテラシーについての多角的・探求的な学びにつながります。

・プログラムページはこちら

旅のミライへ!地域と紡ぐ「観光」教育プログラム

小学5年生~高校2年生を対象として、観光への取り組みと経済効果の関係について学ぶプログラムです。「観光教育用教材アプリ」の作成・活用を通して観光産業にまつわる知識を習得し、また観光関連の取り組みによって地域にどのような経済効果がもたらされるかを学びます。

観光教育用教材アプリにロールプレイング方式やシミュレーション方式を採用することで子どもたちの学習意欲を高め、考える力を伸ばすのに役立ちます。観光ビッグデータ(観光予報プラットフォーム)に蓄積された観光資源・実績データを活用することで、「自分が住んでいる街の長所・短所を踏まえつつ、観光振興のためにどのように取り組めばよいか」といった実践的な学習につなげることができます。

これらの活動によってすべての学習者がいつでもどこでも観光や産業ビッグデータについて学べる「実践型観光教育モデル」を構築し、地域と連携しながら全国の教育機関へ提供することを目指しています。

実践型観光教育モデルが普及することで、観光産業そのものだけでなく観光に関連する分野(宿泊・飲食・サービス業など)、観光関連データやその他のビッグデータを扱う分野(シンクタンクなど)、観光政策立案を行う公共自治体などで活躍する人材の育成に役立つでしょう。

・プログラムページはこちら

音楽×算数×プログラミングの横断的学習プログラム(Music Blocksの公教育導入実証)

2020年度の小学校プログラミング教育必修化に向けた教育実証とSTEAM教育の普及を目的として、日本人女性唯一の数学オリンピック金メダリストである数学者・音楽家・教育者の中島さち子氏によって発案されました。プログラミング・算数・音楽を関連付けて学べる「日本版Music Blocks(以下、日本版MB)」の開発と、小学校教育への導入実証が主な活動内容となります。

日本版MBはプログラミングや算数の観点から音楽にアプローチし、また文字の羅列ではなく音や絵を使ってプログラミングを理解することで各分野に対する子どもたちの苦手意識を軽減し、教科の枠を超えて視野を広げるのに役立つ学習ソフトです。

小学校・中学校・高校教員とプログラム教育関係者を対象としたサマーワークショップでは、教員の立場からより扱いやすい・教えやすい日本版MBの開発案について調査が行われました。同時に日本版MBを使った算数・音楽のカリキュラム案に関する調査も行われ、これらの調査結果をもとに日本版MBの開発・改良が進められました。2019年1~2月には小学校の授業やクラブ活動で日本版MBの導入実験が行われ、教育効果の検証が進められる予定です。

・プログラムページはこちら

「復職を希望する女性人材」に必要なスキルを育成する講座の開発

結婚・出産などで離職した元キャリア女性を対象として実施されるプログラムで、リカレント教育(学校教育が終了した後も、必要に応じて教育機関で再教育を受けられる反復型教育システム)によって産業界の諸問題を解決することを目指すプログラムのひとつです。

このプログラムは女性復職支援事業に参入している、または参入を検討している人材サービス企業と連携して実施され、結婚・出産・介護などさまざまな理由で離職した女性の復職支援にまつわる実証を行います。スキル標準(復職にあたってどのようなスキルがどれくらい必要かを示す目安)の策定、スキルの習得や学び直しのためのプログラム開発・実証、ビジネスとしてプログラムを実施する際に発生しうる課題の洗い出しや解決策の検討などを行います。

これまでに、さまざまなステークホルダーとの連携による復職希望者の掘り起こしや受け入れ先企業の開拓などが行われています。また復職希望者を対象とした各種スキルの学び直し講座やキャリアコンサルティングも実施されており、今後は復職に向けての「お試し就業」が順次開始される予定です。

・プログラムページはこちら

新たな教育の可能性を生み出す未来の教室

経済産業省の実施事業である未来の教室では、EdTechなどを活用した新しい教育プログラムや学びの場の開発を進めています。未来の教室には、EdTechの他にも現在教育現場で注目されている個別最適化・STEAM・社会課題解決といった要素が取り入れられています。

現在未来の教室の実証事業で実施・計画されているプログラムは、次世代を担う子どもたちだけでなく子どもたちにとってのヒーローとなる未来の教育者、そして産業界・地域が抱えるさまざまな問題を解決し社会を変革させるチェンジメーカーの育成を目的としています。従来の教育現場で重視されていた学年・学力・教科などの概念を超えて、学生・社会人・主婦などあらゆる人が自由かつ効率的な学びの機会を得られる場としても期待されています。

■参考
経済産業省: LARNING INNNOVATION

経済産業省「未来の教室 Learning Innovation」 ポータルサイトを正式オープンします

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部