この数年で一気に進化し、私たちの生活や行動習慣も変えてしまった生成型AI。現在の生徒たちはいわばAIネイティヴ世代とも言えるでしょう。
生成型AIは便利な一方、教育関係者にとっては頭を悩ませる種でもあります。
今回は生成型AIを取り巻く現場を整理し、改めてどのようなポイントを検討・対応しなければならないのかをまとめました。
なお、本記事は2025年6月時点のものです。ご存知の通り、生成型AIの進化は日進月歩で進んでいるため情報収集や認識のアップデートは常に意識したいところです。
文科省ガイドライン改訂が示す生成型AIの教育現場への本格導入
生成型AIの教育現場への影響は、もはや避けて通れない現実となっています。文部科学省は2024年12月26日、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」を公表し、2023年7月に発表した暫定的なガイドラインを大幅に改訂しました。この改訂は、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」での議論を経て行われ、学校現場での実践的な活用を念頭に置いた具体的な指針が示されています。
改訂されたガイドラインでは、生成AIの利活用について「人間中心の原則」を基本として位置づけ、教育活動への生成AIの利活用は、あくまで児童生徒の資質・能力を育成するための手段であって、利活用それ自体が目的であってはならないと明確に定義しています。この原則に基づき、安全性を考慮した適正利用、情報セキュリティの確保、個人情報やプライバシー、著作権の保護などの5つの重要な留意点が示されています。
特に注目すべきは、東京都教育委員会が2025年5月から全都立学校256校において生成AIを活用した学習を開始すると発表したことです。これは、令和5年度に9校、令和6年度に20校を「生成AI研究校」として指定し、効果的な活用方法を研究してきた成果を踏まえた本格的な導入です。このような動きは、生成型AIが教育現場で試験的な段階から実用段階へと移行していることを示しており、高校生の学習環境に大きな変化をもたらすことが予想されます。
2. 高校生の生成型AI利用実態と教育への影響
高校生の生成型AI利用実態を見ると、その普及度の高さと活用意欲の強さが浮き彫りになります。学習塾「武田塾」が実施した調査によると、高校生の86%が生成AIの継続活用意向を示しており、主な利用場面は「授業の復習」となっています。この数値は、生成型AIが高校生にとって既に日常的な学習ツールとして定着していることを示しています。
生成型AIの教育への影響は多面的です。積極的な側面として、個別最適化された学習支援の実現があります。生成型AIは生徒一人ひとりの理解度や学習進度に応じて、カスタマイズされた説明や問題を提供することができるため、従来の一斉授業では対応しきれなかった個別のニーズに応えることが可能になります。また、24時間いつでも利用可能な学習支援ツールとして機能し、生徒の自主学習を促進する効果も期待されています。
一方で、教育現場では懸念も指摘されています。情報の正確性に関する課題が最も深刻で、生成型AIが提供する情報が必ずしも正確でない場合があることから、生徒が誤った知識を習得するリスクがあります。さらに、生成型AIに過度に依存することで、生徒自身の思考力や創造性が低下する可能性も指摘されています。特に、レポートや課題作成において生成型AIを不適切に使用することで、学習の本来の目的である知識の定着や思考力の養成が阻害される恐れがあります。
3. 生徒指導における具体的課題と対応策
生成型AIの普及により、生徒指導の現場では新たな課題が顕在化しています。最も重要な課題の一つは、学習における不正行為の防止です。従来のカンニングや盗作とは異なり、生成型AIを使用した不正行為は発見が困難であり、かつ高度な文章や解答を短時間で作成できるため、教育の公平性を脅かす可能性があります。
文部科学省のガイドラインでは、このような課題に対応するため、学校現場において生成AIの適切な利用方法について生徒への指導を徹底することを求めています。具体的には、生成AIの仕組みや限界について正しく理解させること、情報リテラシーの向上を図ること、そして何より生成AIを学習の補助ツールとして適切に活用する方法を身につけさせることが重要とされています。
また、デジタル・シチズンシップ教育の重要性も高まっています。生成型AIを含むデジタル技術を責任を持って使用する姿勢を育成することで、生徒が将来にわたって適切にテクノロジーと関わっていけるよう支援する必要があります。これには、著作権の尊重、プライバシーの保護、そして技術の倫理的使用に関する教育が含まれます。
学校側の対応としては、生成AIの使用に関する明確なルールの策定と周知が必要です。どのような場面で生成AIの使用が許可されるのか、どのような使用方法が不適切なのかを具体的に示すことで、生徒が混乱することなく適切に活用できる環境を整備することが求められています。
4. 教員の心構えと今後の教育変革への対応
生成型AI時代の教育において、教員の役割は従来以上に重要になっています。文部科学省のガイドラインでは、教員が生成AIについて十分な理解を持ち、生徒を適切に指導できるよう、継続的な研修と知識更新の必要性を強調しています。
教員に求められる心構えとして、まず生成型AIを敵視するのではなく、新しい教育ツールとして積極的に理解し活用する姿勢が重要です。生成型AIは教員の業務を代替するものではなく、教育の質を向上させ、生徒一人ひとりにより良い学習機会を提供するためのパートナーとして位置づけるべきです。
具体的な対応策として、教員は生成型AIの基本的な仕組みや特性を理解し、それを踏まえた授業設計を行う必要があります。例えば、生成型AIでは解決困難な課題や、人間の創造性や批判的思考を必要とする活動を重視した授業を展開することで、生成型AIと人間の学習の相乗効果を生み出すことができます。
また、生徒指導においては、生成型AIの適切な使用方法について継続的に指導し、情報リテラシーの向上を図ることが重要です。これには、生成された情報の信頼性を評価する能力、複数の情報源を比較検討する能力、そして自分自身の考えを持って情報を活用する能力の育成が含まれます。
今後の教育変革を見据えると、生成型AIは単なる一時的な技術トレンドではなく、教育の根本的な変化を促す要因となる可能性があります。教員は変化を恐れることなく、新しい技術を活用しながら、生徒の学習効果を最大化する方法を模索し続ける必要があります。同時に、人間ならではの教育の価値である共感、創造性、批判的思考の育成により一層重点を置くことで、AI時代に必要な人材育成に貢献することが期待されています。