キャリア教育コラム

PBLの事例と手法は?高校授業で参考にしたい2つの手法と3つの事例

更新日:2018/03/10

PBLという学習方法をご存知でしょうか。PBLとは、Problem Based Learningの略称名です。日本語では、問題解決型授業やプロジェクト型学習と呼ばれています。PBLは、「ある問題について理解あるいは解決しようと努力する過程で習得される学習」と定義されています。PBLでは次の3つのことを重視して教育する点で、従来の教育方法と異なります。まず『1つ目』は、課題の解決を目的としています。『2つ目』は、チームの力によって課題を解決すること重視します。『3つ目』は、受講者の自主性・自律性を大切にします。

 

PBLイメージ

 

これらの重点項目は、従来の教育手法ではあまり重視されてこなかった観点です。近年の学校教育ではPBL学習法を授業に取り入れることでこれまでの学習方法では育成や学習が難しかった能力を効果的に向上させることを目指しています。この記事では、PBLを代表する2つの手法「チュートリアル型」と「実践体験型」についての解説と、具体的な事例を紹介します。

 

1.問題解決型学習(PBL)の2つの手法

PBLには2つの学習法があります。この2つの手法とは、「チュートリアル型」と「実践体験型」です。PBLで学習をするときには、基本的にこの2つの手法のどちらかの方法で学びます。それぞれに特徴があり、学習環境によってより適した手法を検討し、使い分けることが大切です。

PBL2つの手法

 

・チュートリアル型とは

仮想のストーリーをもとにPBLを実施します。たとえば、教室内でグループを作り、特定のシチュエーションを設定し、メンバー同士でグループワークを行ったり、検討をおこなう学習方法です。外部企業などへ協力を要請したり、実地研修を行ったりが不要なため、PBLを実施することが容易なのが特徴です。そのため、学校の授業で行われるPBLはチュートリアル型が主流となっています。

 

・実践体験型とは

実際に社会と連携しながら学習します。この社会とは民間の企業や地方自治体など、社会活動をしている団体などです。実社会で学ぶため、非常に実践的で効果があります。責任感、実践で役に立つ知識、統率力など通常の授業で学べること以上の多くのことを学習することができます。反面、実社会の自治体などと連携しなければならないので準備や綿密な連携が必要なことも多く、実施するためにハードルが高いのが実情です。

 

 

2.チュートリアル型での問題解決型学習(PBL)の進め方例

ここでは、チュートリアル型でのPBLの進め方の事例を紹介します。

 

2.1 事例:甲南大学

甲南大学

ここで紹介する事例は、甲南大学で教職科目を受講していた3・4年生を対象としていたチュートリアル型のPBLです。まずは、この授業の概要は以下の通りです。

対象:甲南大学3・4年生。教職科目受講者。
実施期間:2004年4月〜2007年7月。週1コマの半期の授業で、合計15回実施。
受講者数:17名~38名
担当者:教員1名、Teaching Assistant2名
教育目標:教師に必要なICTスキルの習得、問題解決力、自己学習力、コミュニケーション能力などの習得。

次にこの事例の進め方のプロセスを紹介します。チュートリアル型のPBLの場合、学習プロセスは6つあります。

・PBLの6つの学習プロセス

① 問題に出会う
② どうしたら解決できるかを論理的に(実践的・論理的手法によって)考える
③ 相互に話し合い、何を調べるかを明らかにする
④ 自主的に学習する
⑤ 新たに獲得した知識を問題に適用する
⑥ 学習したことを要約する

 

この6つのプロセスが、PBLのチュートリアル型で学習するプロセスとなっています。では実際の授業では、この6つのプロセスをどのように落とし込んで進めたのでしょうか。実際の授業では、この6つのプロセスを5つのステップに分けました。

・ステップ1:問題の提示

1つ目のプロセスである「問題に出会う」の段階です。ステップ1では、2コマを使って授業をしています。第1回目の授業では、ガイダンスとして時間を設けています。そして第2回目の授業では、課題の提示として時間を設けており、まさにこのステップ1で行う問題の提示をするコマとなっています。

 

・ステップ2:グループ作業

ここでは2つ目のプロセスである「どうしたら解決できるかを論理的に(実践的・論理的手法によって)考える」と3つ目のプロセスである「相互に話し合い、何を調べるかを明らかにする」を集約しているステップです。このステップ2では、グループ活動の開始と情報収集・教材設計をする段階です。

 

・ステップ3:自己学習

これは4つ目のプロセスである「自主的に学習する」の部分に該当するステップです。このステップ3では、ユニットの学習をする時間として設定されています。

 

ステップ4:教材の制作

このステップ4は、5つ目のプロセスである「新たに獲得した知識を問題に適用する」を実践するための時間にしました。「教材の制作」というテーマにある通り、教材の制作と修正を繰り返す時間を使っています。

 

※ここまでのステップ2〜4は、第3回〜第11回の授業のなかで実施されています。それぞれのグループにより進捗度合いや重視している内容が違うため、時間配分はグループごとに異なっています。

 

ステップ5:評価

ここではPBLの学習プロセスの最後のである6つ目のプロセス、「学習したことを要約する」時間となっています。ここでは最後の3回のコマを使って、授業をしています。第12回目の授業では発表準備のために、時間を取りました。この第12回目の授業からは、どのグループもこの授業内容に沿って授業に参加しています。そして第13回目と第14回目の授業では、「模擬授業」の時間として、各グループが発表をしました。最後の第15回目の授業を、各グループの発表の評価をするコマとして設けています。

 

 

甲南大学で教職科目の授業では、全15コマでこのようなチュートリアル型PBLの学習プロセスを使った授業を行いました。6つの学習プロセスを、学習内容に合わせて5つのステップに分ける工夫をしたのが特徴的と言えるでしょう。チュートリアル型のPBLの学習方法として、この甲南大学の事例は非常に有名です。チュートリアル型のPBLを実践する際には、ぜひ参考にしてください。

 

 

3.実践体験PBLとしての3つの事例

ここまではチュートリアル型のPBLを紹介してきましたが、次に実践体験型の事例を取り上げます。すでに多くの大学がPBLを取り入れて、生徒の学習意欲を高めて、効率的な学習につなげています。ここでは小樽商科大学、新潟大学、そしてマイナビが開催したキャリア甲子園の3つの事例を紹介します。特に小樽商科大学と新潟大学は、教育効果を高める工夫をした好事例として、下記の観点からも評価されています。

 

教育効果の高いPBLのポイント

■POINT1

教育効果を高めるための実践的なプログラムとして工夫されていること

(長期、有給、PBL型、海外、地域連携、低学年向けなど)

■POINT2

学生・企業に対するサポート体制が確立されていること

(コーディネーターを配置している、実習内容を適切に評価する仕組みを整備しているなど)

■POINT3

大学などにおいてはインターンシップの実施にあたって組織的に関与していること

(単位化している、希望者全員を受け入れる体制を整備等)

 

小樽商科大学と新潟大学は、これらの評価ポイントを満たした授業事例のみが紹介されている文部科学省の事例集でも取り上げられています。実践体験型のPBLを授業に取り入れたいしたいという方は、以下の事例を参考にしてください。

 

3.1 事例:小樽商科大学

PBL実例1

【概要・目標】

小樽商科大学では、実践体験型のPBLとして小樽を中心とした北海道後志エリアの自治体や民間企業等との協働で実施しています。地域課題解決や経済活性化のプロジェクトを3〜6ヶ月間の中長期に渡って実施しました。その過程において、学習動機や理論・手法の応用力の獲得、プロジェクトマネジメントを通して社会人基礎力の獲得や向上を目指しました。

 

【事前学習】

このPBLを実践した授業では2つのコースから選択することができ、学生が自ら選び実施されています。学生がプロジェクトを考えて取り組む「提案課題型」コース、または大学から与えられたテーマに取り組む「選択課題型」コースのどちらかを選択します。選択後にはプロジェクトの事前学習として、目的や課題の確認、対企業のマナー講習、スケジュール作成、達成目標の設定などを行いました。

 

【実習】

事前学習が終わると実習に入ります。6ヶ月の実習の場合、1ヶ月目は商店街の現状把握、観光客動向調査などを実施。2ヶ月目〜3ヶ月目は、商店街でのヒアリングを実施しました。さらに調査などでわかった結果を踏まえて、認知度アップのための事業を商店街振興組合と共同で検討を開始。4ヶ月目~5ヶ月目には、事業内容の検討結果などの中間発表会を開催しています。また、その発表会での意見を踏まえて、商店街振興組合と事業の再検討を実施。最後の6ヶ月目には、再検討結果を最終成果報告会で発表して、成果物を大学と商店街振興組合に提出しています。

 

【実施結果】

これらの実習により、地域コミュニティの課題への学生の関心や理解度の向上、またプロジェクトを通して実践知の向上などが見られました。学生が自らコースを選択できるので、より自分が関心のあることに意欲的に取り組めるようになっています。また、商店街振興組合とのやり取りも多くあり、学習できる機会が確保されていることが好事例の要因と言えるでしょう。

 

3.2 事例:新潟大学

新潟大学

【概要・目標】

次に新潟大学で実施された実践体験型のPBL事例を取り上げます。このケースでは、新潟市食育・花育センターで市民・小学生対象の体験学習 講座の学習支援をして、その後に学生主体で新しい体験学習講座を企画しています。内容としては、プログラムを学生が自ら試行や運営してから改善策を検討した上で、新しい体験学習プログラムの提案を行います。

 

【事前学習】

事前学習では、最初の月に志望動機や目的の確認、PBL課題を把握する時間を設けています。翌月には、ビジネスマナーの基礎研修を受講。この準備期間を経て、3ヶ月後にPBLチームビルディング研修に参加しています。

 

【実習】

実習期間では、第1週目には市民・小学生向け体験講座の支援。第2週目には企画提案などの調査や考察をして、課題を把握する作業をしています。さらに企画した講座を実践する時間を設けています。実習開始から1ヶ月後に、体験講座の企画提案をまとめて、事業所でプレゼンテーション開催しています。

 

【実施結果】

新潟大学の事例が、高評価されているのは学生が実習に入る前の事前準備がしっかりされていることです。新潟地域の行政や経済団体などと連携しながら、受入れ先との連絡や実習内容の調整を行っています。実践体験型のPBLは、事前の準備がどれだけできているかが、受け入れ先での学習につながります。新潟大学のPBLでは関係団体との入念な調整を経て実習をしている好事例として高く評価されています。

 

3.3 事例:マイナビのキャリア甲子園

キャリア甲子園

3つ目の事例は、株式会社マイナビが開催しているキャリア甲子園です。

 

【概要・目的】

キャリア甲子園は、2014年から開催されている高校生がチームを組んで、企業が設定するテーマに対し、ビジネスアイデアをプレゼンするコンテストです。2016年度大会へのエントリー数が2000名を超える大会です。

■キャリア甲子園2016年度大会規模
・プレエントリー数:2,647名
・本エントリー数:673チーム
・決勝選視聴者数:12,518人
・応援コメント数:4,901件

 

内容は、大会協賛企業が「10年後のティーンのトレンドや生活スタイルを想定し、夏に使える今世の中にない商品を提案せよ」や「ITを駆使した、少子高齢化・健康志向ソリューションを考えよう!」など複数のテーマを出題、学生は好きなテーマを選んでチームでエントリーを行います。その後、書類審査、プレゼン動画審査など数回のプレゼンステージを通し、協賛企業ごとに企業代表チームを決定。最後は代表チーム同士で決勝を行い、優勝を目指します。参加方法は個人の意思で参加する個人応募と、高校の授業の一環として参加する学校応募の2種類のエントリーする方法が用意されています。

 

キャリア甲子園では参加する高校生に「答えのない問いを考える力」、ロジカルシンキングや企画書の書き方、プレゼンスキルなどの「社会でも活きる力」、また企業の課題に挑戦することで「社会への関心」が得られる、と呼びかけています。テーマに対して、自分たちで考えて実践しながら学ぶ、実践体験型PBLの良い事例と言えます。

 

4.まとめ

ここまでにPBLに関する手法や事例についてご紹介してきました。PBLを実践するには、事例を参考にすると効果的な学習につなげることができるでしょう。各校の評価のポイントを抑えて学習すれば、より質の高い学びの機会を得ることができるでしょう。この記事で紹介したことを活かして、PBLを学習に取り入れてみてください。

 

 

 

 

■参考
教育課程企画特別部会『教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方に関する補足資料ver.7
PBL問題解決型授業事例報告
文部科学省『インターンシップ好事例集―教育効果を高める工夫17選―
キャリア甲子園2017公式HP
先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム『PBL型授業実施におけるノウハウ集

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部