キャリア教育コラム

アクティブラーニングの問題点と失敗事例

更新日:2018/05/18

文部科学省が先頭にたち、学生参加・学生主体型の学習方法であるアクティブラーニングの導入が始まっています。新しい学習指導要領等には概念や指導方針、目指すべき方向性は示されているものの、具体的な指導方法にまで言及しておらず実際の教育現場に落とし込んだときに多くの課題もみえてきました。アクティブラーニング教育を新しく行う前に、現在出てきている課題を把握することでこれからの教育設計の参考にしていきましょう。

 

アクティブラーニング課題

 

1.アクティブラーニングの問題点

アクティブラーニングの課題

(1)指導の難しさ

Think-Pair-Share、ピア・レスポンス、ジグソー法などアクティブラーニングでの代表的なグループ技法は色々ありますが、授業に先立ちどの課題に対してどの技法を選択すればいいのか分かりにくいことが問題となっています。また、ディベートや発表、生徒同士のグループワークなどが苦手な生徒への指導方法が難しく、教員もどこまでアドバイスしたら良いかという学生の自主性との境界線がわかりにいため、教員のファシリテーション能力を向上させる必要があります。

 

(2)学習時間が限られている

座学とは異なり複数人でワークを行ったり、職業訓練のようなことを行うため、実施に時間がかかりすぎてしまいます。また、これらに加え通常の授業を行わないといけないので圧倒的に時間が足りません。アクティブラーニングを導入すると従来は正解を教えれば良かったことが、答えを自ら見つけるための手助けをしていく形になるので時間がかかります。学習項目が減るわけではないため、時間の確保は非常に難しい問題です。

 

(3)何を軸に評価するのか分からない

現在の講義型の授業は、提出課題や定期テストで評価を決定することが多いです。しかし、アクティブラーニングでは、授業中の姿勢も評価する場合とテストの結果のみで評価する場合があります。授業中の姿勢も評価すると、アクティブラーニングは活発に行われることになりますが、対話が苦手な生徒は評価が低くなる可能性があります。また、テストの結果のみで評価をすると授業に積極的に参加しない生徒が出てくるかもしれません。そして、「対話が苦手な人はダメなのか?」という疑問もわいてきます。対話には衝突する可能性もあり、気心の知れた人以外とは苦手という人も多くいます。そういう人たちは、アクティブラーニングにおける成績は低くなってしまいます。

 

(4)適切な指導方法、課題(教材)の選択が難しい

学習内容よりも、学生に書く・話す・発表するなどの活動をさせるだけで十分であると極端に理解し、議論の掘り下げや論理的思考を凝らすことをしないと質が低く、深い学びのないアクティブラーニングになってしまいます。形式的にアクティブラーニングを行うと全く意味のない学びになります。また、ワークショップ形式のものが多く、指導する側が事前に体験したり研修を受けなければ、本当に効果的な指導ができたのか評価軸はわかりにくく、課題選択の難しさも指摘されています。

2.アクティブラーニングの失敗事例調査

文部科学省が平成24年から3年間「産業界ニーズ事業」としてアクティブラーニングを活用した教育力の強化をテーマに、7大学の取り組みを最終成果としてまとめたアクティブラーニング失敗事例ハンドブックから事例をいくつか紹介いたします。

アクティブラーニング失敗事例

指導内容における失敗事例

グループワークでの学生の貢献度の差異
【内容】
企業とコラボして商品開発をするゼミで、ゼミ長がリーダーシップをとるもゼミ生の中に直接携わる人とそうではない人が生まれた。その結果、開発の過程を無視して成果のみを就職活動でアピールしようとしたり、学生の自主性に任せたことで教員の促進的介入不足を起こした。

 

【原因】
・「科目担当者」は、事前に何が売れるか、消費者の嗜好など実態調査ができなかった。
・「科目担当者」は、グループ内での役割をゼミ長のみ決めて、他の役割を明確にせず進めた。
・「科目担当者」は、学生の自主性を尊重し指導を控えた。

・「学生」は、ゼミ長のリーダーシップが不足していた。

 

【対策】
・プロジェクトの工程ごとにリーダーを替え、皆にリーダー意識をもたせる。
・評価指標を学生に明示し、学生の相互評価や貢献度などによって差がつくことを事前に知らせる。
・グループを分割し、一つのプロジェクトを各グループに競い合わせる。
・「科目担当者」が、話し合いの枠組み(グループの中での役割、目標設定、進捗状況の発表など)を決めた上で、学生に自由に活動させ「学生」の自主性の尊重と「科目担当者」の学生への指導バランスを図る。

 

 

課外活動における学生の怠慢な態度
【内容】
授業において単位化されている学外での地域活動にて、学生がコミュニティセンターに設置されてあるロビーのソファで寝ている、私語をする、スマートフォンの使用、地域住民に対して質問を受け付けないなどが発生し、やる気のある学生も気が緩んでしまったり、熱心な教員がストレスを抱え履修者制限を行うようになった。そのため、地域住民の心象が悪化し、地域住民の参加者数が減少。地域からイベント活動の要請依頼が少なくなる。

 

【原因】
・地域活動において必ずしも熱心ではない教員が配置された。
・学科主導で授業担当の教員選出を依頼してしまった。
・課外活動の事前学習において、挨拶・言葉遣いなどの接遇練習をさせていたが、怠慢な態度を取った学生は欠席しがちであった。
・個々の学生に明確な責任を負わせておらず、教員主導であった。

 

【対策】
・学生の主体的な行動を促すことが必要である。
・学長または地域活動推進機関での一本釣りによる科目担当者決め。
・地域活動に参加した学生を学内で表彰する。
・学生間でチームワークを醸成するための仕掛け。
・学生に対して、地域住民からのアンケート結果の開示。

 

 

リーダー不在のグループ活動に対する教員の支援
【内容】
企業と連携したプロジェクト活動などのグループ活動では、各学生がグループワークに積極的に参加し、協力しながら課題解決策を検討することが望まれる。しかし、いくつかのグループでは先導するリーダーがおらず、グループワークが成り立たない場合があった。その時の教員の対応が不適切な場合があり、学生は自分の意見を述べることも他人の意見を聞くこともせず、発信力のみならず、協調性・傾聴力を育成する機会を失う。また、結果的にワークの成果も得られず、学生のモチベーションを大幅に低下させた。

 

【原因】
・主要因は、学生個々のコミュニケーション力(発信力・傾聴力)並びに主体性が不十分なためにグループワークを進められないこと。
・主体性のない学生のコミュニケーション力を育成するために、指導教員が適切に課題を設計し、講義中(活動中)の指導を十分に行わなかったこと。
・指導教員は、グループワークの運営方法を検討するとともに、状況に合わせて助言を与える必要があった。このような運営は現在、個々の教員の教育スキルに依存しているが、学部全体で補完する体制になっていないことも問題である。

 

【対策】
・アクティブラーニング実施の初期段階では、リーダー格の学生が不在でもグループワークを進めやすい環境や課題を与えるなど、講座の設計が必要である。まずは、自己紹介や簡単な内容でのディスカッションから始める。
・次に、一つの大きなテーマに対して各自の作業分担(役割)を決め、それについて作業を進めさせる。
・その後、各自に担当ワークの成果を発表させ、協働ワークに移るような流れを検討する必要がある。また、協働ワーク時の役割をローテーションさせ、全学生に各役割を経験させることも必要である。
・教員は議論の状況を注視し、場合によっては議論が進むような助言(問いかけ)を与える。

 

評価における失敗事例

評価の失敗例

アクティブラーニングの成果評価の困難さ
【内容】
組織的なアクティブラーニングを実践するために毎週の講義時間内や学期末に『振り返り』を実施し、科目成績評価は、学習のプロセスを評価する「学習過程評価」(アクティブラーニングに対応)と授業の達成目標に到達しているかを評価する「学習成果評価」の二つに分けて実施したが、講義時間の実質カットや講義最終週は講義空白となった。また、学生が成績評価について不信感が高まり、やる気が失われ、保護者や学生の出身校において評判低下や信用失墜に至る恐れがあった。そして、授業の達成目標に到達できていない科目も発生する可能性があった。

 

【原因】
・授業運営及び成績評価方法を大幅に改定してしまった。
・教務委員長の説明不足、教務委員の理解不足で各学科に主旨を伝達できてない。
・教員はアクティブラーニングを縮小解釈している。
・教員は変化に臆病である。
・学生の理解が得られていない。

 

【対策】
・事前に学部長・学科長にも意見聴取したが、専任教員及び兼任教員に理解が得られず、時間をかけた説明をすべきであった。
・本システムの説明資料を作成し、教員全体に説明を行ったものの、大幅な改定で資料が多くなり理解を得られなかったため、単元に分けて説明すべきである。
・アクティブラーニングについて学科ごとに勉強会を依頼し、その成果を期待したが勉強会は実施されておらず、自発的な教員の勉強会は期待できないため、委員長が各学科の会議に出席して説明を行うべきである。
・学生には、講義開始前のガイダンスにおいて詳細な説明とともに、積極的な対話の時間を設定して説明すべきである。
・評価の内容について具体的な指示をすべきである。

 

学びのための成績評価
【内容】
学生に学習タスクを与えた際、成績に関係ないと分かった瞬間やる気をなくした。その結果、学生の学びが阻害され、学ぶ姿勢も損なわれた。また、教員もやる気のない学生を無視して出来る学生だけを相手にした。

 

【原因】
学生は、学位及び単位取得という外的動機で大学に来ている。また、教員も内的学習動機に基づいた深い学びをさせたいという思いから、外的学習動機を利用した学習を嫌い、実用的な対策を練らない。

 

【対策】
・学生が成績に関連した作業に対してやる気を見せるのであれば、全ての作業に成績を関連させる。(少なくとも学生に対してはそのように見せかける。)
・中間テストやレポートを行う場合は、フィードバックが次の評価につながるようにする。例えば、レポートではフィードバックを与えた後再提出させ、改善が見られた際に評価を上げるなど。
・教員は学生の学びの状況を中間評価としてコンスタントに提示する。
・評価のプロセスに学生を関わらせることにより、学生を評価のステークホルダーに含める。例えば、試験問題作成にも初期段階で学生に関わってもらい、試験問題自体を議論していく過程で主体的学びの姿勢を育む。

 

 

連携企業と教員の学生に対する評価の違い
【内容】
教員が成果を焦るあまり学生に指示を出し過ぎてしまった。その結果、プロジェクト活動の中心の学生が指示待ちの状態になってしまい、学生たちにとって教員の指示を待つということが常態化する。そのため、学生相互の繋がりが希薄になり「価値としての協同」がなされなくなる。協同する、協力して行うことが目標からなくなり、意識としても重要と感じなくなる。

 

【原因】
教員が過度に介入することから、以下の「実効ある学習活動の5条件」のいずれかが欠けてしまう。
・グループに貢献するという気持ちが少なくなる。
・学生同士の意思疎通が少なくなる。
・個別の指示ばかり受けて全体が見えない。
・グループ学習技能の育成がなされていない。
・適切な振り返りが行われていない。

 

【対策】
・二方通行のコミュニケーションは、三方通行(教員も含めて全員が相互に意見が言える状態)を体験させることで現状と比較する。
・学生同士の関係が希薄化しないように互いの意見を発表する機会を設ける。
・教員だけでなく、企業や学生同士の情報も交換するようにする。

3.文部科学省はどう考えているのか?

忙しい教員

これまで指導内容や評価の難しさ、絶対的に時間が足りていないなど問題点をいくつか見てきましたが、文部科学省は学習の「質」を転換する一方、「学習内容の削減はしない」というスタンスを示しています。

学習の質の転換と授業時間の増加によって、これまで幾度となく指摘されてきた教員の多忙に拍車をかけるのは間違いないです。文科省は、教員の多忙感を解消する必要性は理解しているとし、教員定数の改善など業務の適正化を進め現場を支援したいとしています。また、授業時間の増やし方としては、夏休みや土曜日の活用、授業1時間または15分の短時間学習などを提案しています。

4.まとめ

生徒と教師の相互理解

事例調査を中心にアクティブラーニングの問題点を検証していきました。アクティブラーニングを行う上でまず大切なのは、教員と学生がその意義をしっかりと理解し行っていくということです。その上で、知っておくべき知識や議論が進みやすい技法、課題への導入、適切な質問などの指導方法の検討があげられます。具体的には、今回ご紹介した「アクティブラーニングの失敗事例ハンドブック」の中で掲載しています。他にも細かく実際の運用の場で生じた問題点、対策を掲載していますので、是非参考にしてみてください。問題点と失敗事例を参考に課題を整理し、注意深く吟味しながら教育の設計をしていきましょう。

 

 

■参照
マスあくありうむ 高校数学が「苦手・嫌い」な人が,「好き」になることをお手伝いする学習支援サイト。『【高校数学】アクティブ・ラーニングの問題点(2017年2月)
大学ジャーナルオンライン『何故、アクティブラーニングがうまくいかないか
文部科学省 「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」中部圏の地域・産業界との連携を通した教育改革力の強化 『アクティブラーニング失敗事例 ハンドブック
毎日新聞 『学習指導要領 知識使う力、重視 異例の指導法言及(2017年2月14日)

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部