キャリア教育導入事例

STEM(ステム)教育の高校教育の事例や課題

更新日:2020/06/24

国際的に進むIT化によって科学技術への知見に長けた人材の創出が急務となり、2020年の学習指導要領の改訂とともにプログラミング教育や理数教育などを含めたSTEM教育に一層の注目が集まっています。そんな中で今回は、STEM教育を実践している高校の取り組みを取り上げつつ、STEM教育の課題に踏みこんでいきたいと思います。

STEM教育とは何か

 
ここで、STEM教育に取り組んでいる高校の活動を取り上げる前に、STEM教育とはどのようなものなのかを簡単にまとめておきます。前回掲載したこちらの記事と併せてご確認ください。
 
STEMの意味はScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathmatics(数学)のそれぞれの頭文字を取ったもので、これらの分野の教育に重点をおいて科学技術に精通する人材の育成を目的に注目を浴びるようになったとされています。
 
今では地球温暖化や人工知能の台頭などで不確実性が増す世の中を生きていけるよう、科学技術だけでなく環境や芸術など幅広い視点から物事を考えられる人材の育成のために、Art(芸術)を加えたSTEAM教育や Robotics(ロボット工学)を加えたSTREAM教育、Environmental Studies(環境研究)を加えたeSTEM教育など、STEM教育の中でも多様化しつつあります。ただ、STEM教育の「今まで個別に学ばれてきた学問分野を融合させていく姿勢」は、STEM教育が多様化しても変わらないでしょう。
 

STEM教育を実践する高校の事例

では、実際にSTEM教育を行っている高校の事例をいくつかご紹介しましょう。

芝浦工業大学附属高等学校

芝浦工業大学附属高等学校では、理工系大学の附属校という特徴を活かして大学の教授による授業「ものづくり特別講座 Arts and Tech」を高校1年生から開講しています。大学の教授がエンジン、ロボット、ユニバーサルデザイン、生命工学、アプリケーションソフトなどを多岐にわたるテーマについて実験・製作を通して指導しています。
 

自由ヶ丘学園高等学校

自由ヶ丘学園高等学校では、一部コースにおいてSTEAMの「プレミアム授業」を行なっています。具体的には、一般企業で研究開発の経験を持つ工学博士の専任講師を配置して、IT技術などを活用して課題解決型学習を提供し、時に企業や大学と連携しています。
 

宮崎県立宮崎西高等学校

宮崎県立宮崎西高等学校では、自分の興味関心をもとに卒業までに2本の論文を執筆するという探究活動を軸にした教育を展開しています。特に理数科では1人1台パソコンを持参することが推奨され、エクセルなどを活用して処理したデータを利用して論文を書き上げたり、ゲーム制作を通じてプログラミングを学んだりすることができます。
 

東京都立小石川中等教育学校

スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)に指定されている東京都立小石川中等教育学校では、6年間一貫して「小石川フィロソフィー」という課題研究の時間が設けられています。この授業では、統計学やプログラミングなどを学んだ上で、生徒自身が設定した課題に対して研究を進め、英語でディスカッションを行ったり論文にまとめたりしています。また、海外大学を含めた複数の大学と連携して課題研究の環境の整備も行なっており、令和元年度のSSH生徒研究発表会では最優秀賞である文部科学大臣表彰を受賞しています。
 

聖徳学園高等学校

聖徳学園高等学校では、STEAM教育を実施するための専門設備を集めた新校舎を建設して、問題解決への学びをサポートしています。新校舎には理科室や音楽室に加えて、映像撮影のためのスタジオなども整備され、生徒の自由な発想の具現化を支援しています。また、併設する中学校の生徒とともに紙だけ高くタワーを作るペーパータワーゲームの実施など、独自の施策で問題解決に向けた協働経験の場を提供しています。
 

高校教育におけるSTEM教育の課題

先ほどいくつかSTEM教育を実践する高校の取り組みを紹介しましたが、STEM教育には課題も残っています。
 
例えば、先ほど取り上げたSTEM教育を行う高校では積極的にIT技術を活用していましたが、日本の高校全体を見るとIT環境の整備状況は道半ばです。特に、ある九州の高校でのパソコン利用は、生徒による持参の推奨であり、生徒全員への販売や貸し出し利用ではないようです。昨今のコロナウイルスの流行による長期間の学校休校で教育におけるIT環境の重要性が浮き彫りとなったので、今後さらなるIT環境整備の加速が期待されます。
 
また、教える側のSTEM人材の確保も急務になっています。例えば、前述した大学教授による講座の提供は、大学附属という特徴を活かしたSTEM教育の1つの施策です。ただ、全国規模で見てみると、まだまだ大学教授などのSTEMの分野の専門的知識を持った人材との連携は活発ではないようです。今後は、高校や大学、企業などの機関を超えた連携の推進がより一層重要になってくるでしょう。
 
さらに、STEM教育の根幹部分である様々な学問分野の融合をどのように進めていくかも、今後さらに検討される必要があるでしょう。現在のところ、数学と理科など学問分野の近しいものの融合が多く見られますが、例えば工学と社会や国語など、従来は個別に学ばれてきた学問分野の融合による化学反応が期待されます。
 
ここまで日本の高校におけるSTEM教育の実践例や課題について触れてきましたが、高まる科学技術人材への需要に対して、日本ではまだまだSTEM教育が広く普及していません。今後、STEM教育が保護者が子供の教育機関を選ぶ際の1つのポイントになり、さらにはどこの教育機関であってもSTEM教育が標準的に受けられるようになることが、日本で科学技術人材を増やすにあたって必要になっていくでしょう。

【参考】

“教育目標・カリキュラム”. 東京都立小石川中等教育学校

“授業改革”. 自由ヶ丘学園高等学校

“STEAM型カリキュラム”. 芝浦工業大学附属高等学校

“特色”. 東京都立小石川中等教育学校

”未来イノベーションを牽引する人材を育成する中高一貫した宮西型「STEAM プログラム」の開発”. 宮崎県立宮崎西高等学校

”教育内容”聖徳学園高等学校

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部