「探究学習は何を・どのように・どうやって評価したらいいの?」
探究学習に取り組むにあたって、多くの教師が同じ悩みに直面していることでしょう。
そこでこの記事では、探究学習の評価方法について、総合的な探究の時間の探究事例も交えて解説していきます。
実際に各学校がどのような評価の観点・評価規準・評価方法を用いているのか、について知りたい方は、ぜひ最後まで目を通してみてください。
探究学習の評価は各学校が学習目標に沿って作成する
探究学習は、各学校が創意工夫を凝らし、育てたい生徒の資質・能力に沿った特色ある活動を設定するよう求められています。
そのため、学習内容は学校によって異なり、学習目標と評価規準・評価方法も各学校で異なります。
探究学習を通して生徒にどのように成長してほしいか、どのような資質・能力を身につけてほしいか、を学習目標として定めた上で、生徒の状態を適切に把握できる評価規準・評価方法を設定しましょう。
評価方法で重要な3つの観点
学習指導要領では、探究学習の評価方法で重要な観点として以下の3つを示しています。
- 信頼される評価方法である
- 多面的に評価できる方法である
- 学習状況の過程を評価する方法である
探究学習の評価を考えるときには、この観点をもとに、どのような評価方法を採用し、どのように評価するのかを決めましょう。
ここからは3つの観点についてそれぞれ解説していきます。
信頼される評価方法である
信頼される評価方法であるためには、以下のポイントが重要です。
- 評価規準を共に作成するなど、教師間で評価規準についての共通理解がある
- 学習活動と評価規準に整合性があり、その評価方法も適切である
- 評価の回数が観点毎に一定程度確保され、偏りがない
- 評価規準や評価方法などについての見直しが行われている
- 生徒の多様な姿を幅広く評価している
引用元:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(高等学校編)第4章」p.110
信頼される評価方法とは、生徒一人ひとりが教師の違いや評価観点・方法の偏りによって左右されることなく、公平かつ適切に評価される方法のことです。
多様な観点での成長がみられる探究学習で生徒を適切に評価するためには、教師同士の連携や多様な評価方法の確保が重要となります。
また、探究学習の評価においては、教科よりも一層この考え方が求められます。
「『生徒にどのような力が身に付いたか』という学習の成果を的確に捉えた上で、教師が指導の改善を図るとともに、生徒が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにすること(太字引用者)」引用元:文部科学省「【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)」p.133 2〜4行目
探究学習の第1の目標は、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成すること(太字引用者)」です。
長い期間をかけて何度も探究のサイクルを繰り返す探究学習だからこそ、生徒が適切に自己を振り返って次の学習に活かせるような評価が求められます。
多面的に評価できる方法である
探究学習では、教科のようにペーパーテストで具体的な点数を出して評価することはできません。これは、探究学習を通して生徒がさまざまな観点で成長していくためです。
生徒の成長を適切に捉えるためには、多様な評価方法を用いたり、複数の評価者による評価を活用したりして、学習を通して起きた変化を多面的に分析する必要があります。
具体的な評価の方法の例としては、以下のようなものがあります。
- プレゼンテーションやポスター発表,総合芸術などの表現による評価
- 討論や質疑の様子などの言語活動の記録による評価
- 学習や活動の状況などの観察記録による評価
- 論文・報告書、レポート、ノート、作品などの制作物、それらを計画的に集積したポートフォリオ(小学校中学校からの蓄積があると望ましい)による評価
- 課題設定や課題解決能力をみるような記述テストの結果による評価
- 評価カードや学習記録などによる生徒の自己評価や相互評価
- 保護者や地域社会の人々等による第三者評価
引用元:文部科学省「【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)」p.135~136
成果物の評価はもちろん、学習活動中の話し合いの様子や作成した資料なども評価の対象です。
学習過程も評価できる評価方法を用いることで、たとえ成果物やプレゼンテーションで本来の実力が出なかった場合でもしっかり評価ができます。
学校で定めた評価の観点を、どのような評価方法なら適切に見取ることができるかを考え、どの生徒も適切に評価できる方法を選びましょう。
学習状況の過程を評価する方法である
探究学習は、1つのテーマを学期や年単位で研究していく長期的な活動です。そのため、学習のまとめ段階での評価だけでなく、適切なタイミングで評価を実施する必要があります。
具体的には「学習活動前」「学習活動中」「学習活動週末」の各過程で、評価を実施しましょう。
この3つの過程で評価を行うことで、探究学習を通して生徒がどのように成長したかを見取ることができます。
指導要領における総合的な学習(探究)の時間の評価は、数字ではなく文章で、生徒にどのような力が身についたかを具体的に記録します。そのため、学習の過程を評価する方法は、教師が生徒一人ひとりの成長を敏感に捉えるために重要なものです。
そして教師が生徒の成長を的確に捉えて評価することで、生徒は自身の学習を振り返ったり、良い点や成長の様子に気づいたりすることができます。
探究学習の評価において、学習の過程をしっかり見取れる評価方法を用いることは、教師にとっても生徒にとっても重要なことと言えるでしょう。
探究学習の評価方法の事例を紹介
最後に、国立教育政策研究所 教育課程研究センターによる「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」から、探究学習の評価方法の事例を紹介します。
この記事では、高等学校における総合的な探究の時間の事例を紹介しますが、その他の事例については国立教育政策研究所 教育課程研究センター公式サイトをチェックしてみてください。
事例①「町民の健康寿命を延ばすために」(福祉・健康)
1つ目は、過疎化・高齢化が進む地域で「町民の健康に関する問題と、健康寿命の改善に向けた具体的な取組」という探究課題に取り組んだ事例です。
単元の評価規準と指導と評価の計画はリンク先のようになっています。
この事例では、小単元1と3で2回発表の機会を設けています。それぞれの発表の様子や発言、質疑応答を評価するのはもちろんのこと、研究計画書や研究日報といった生徒自身が作成する書類も評価しているのが特徴的です。
また、他の部分を見ると、「発言」「行動観察や発言」「データ分析資料」など学習への取り組み姿勢や学習過程で作成した資料の出来栄えを評価する方法も取り入れています。
成果物の評価だけにとらわれず、探究学習を通じた生徒の成長を多面的に評価できるバランスの良い事例です。
事例②「自己を探る」(地域・キャリア)
2つ目は、全体計画に定めた探究課題「職業の選択と社会貢献及び自己実現」の集大成として、3年生が個人で卒業研究を行った事例です。
単元の評価規準と指導と評価の計画はこちらをご参照ください。
この事例は、個人の学習活動がメインとなるため、生徒自身が記入する研究シートを評価する場面が大部分を占めています。小単元3の論文発表では評価シートを用いて、自己評価だけでなく相互評価も取り入れています。
特徴的な評価方法は、最後の学習活動で実施している「単元振り返りポートフォリオ(作文)」と「キャリアカウンセリング」です。
単元振り返りポートフォリオでは、3年間の総合的な探究の時間の学習を振り返り、今後の新たな課題を設定できるような学習活動を行います。そして、自己評価や作文の記述だけではわかりにくい部分をキャリアカウンセリングで共有する、という流れになっています。
事例③「地域のプロフェッショナルと探究しよう」(環境・文化の創造等)
3つ目は、地域で活躍する産業・文化・歴史のプロフェッショナルからの講義などを通して、生徒自身が課題を発見していくことを目的とした探究学習です。対象は1年生です。
単元の評価規準と指導と評価の計画はこちらです。
この事例では、探究計画書や研究記録といった書類や発表の内容、作成した成果物を用いて評価を行っています。
課題の設定・情報の収集と整理/分析・まとめと表現という探究学習の各段階で評価を実施しており、生徒の成長がその都度見取れるように工夫されています。
グループでの学習活動がメインのため、話し合いの様子や成果物の作成状況を評価する方法をさらにいくつか取り入れるとよりバランスが良くなるでしょう。
まとめ
今回は、主に総合的な探究の時間で行う探究学習の評価方法について解説してきました。
探究学習の評価の観点・評価規準・評価方法は、各学校の裁量に委ねられており、学校で定めた全体目標に応じて適切に設定する必要があります。
「信頼される評価方法」「多面的に評価できる方法」「学習状況の過程を評価する方法」という3つの観点を大切にして、評価の観点・評価規準を適切かつ多面的に評価する方法を用いましょう。
評価方法は、プレゼンテーションやポスター発表などの評価・論文や作成した資料をまとめたポートフォリオ評価・評価カードや学習記録による自己評価/相互評価など、実に多様です。
ただし事例で紹介した通り、どのようなねらいを持った学習活動なのか、どのような学習方法なのか、によって適切な評価方法は変わります。
探究学習の評価を考える際には、教師同士でよく話し合い、生徒の成長を的確かつ多面的に評価できる方法を選ぶように心がけることが大切です。