新学習指導要領の移行期にあたり、多くの新しい指導項目が挙げられています。その中の一つに「メディアリテラシー教育」があります。リテラシーとは「読み書き」を行う能力のことですが新要領において重点項目に挙げられているICT教育を行う上で「メディアリテラシー教育」は必須になってきます。メディアの形も複雑になってきている昨今、教育現場において必要なメディアリテラシー教育とはどのようなものでしょうか。学ぶべき項目やその意味などを考えてみます。
メディアリテラシーとは
「リテラシー」とは「読む能力・書く能力」を意味します。「メディアリテラシー」とは新聞、テレビ、近年ではwebなども含んだメディアが発する情報を受動的ではなく、主体的、能動的に、かつクリティカルシンキング(批判的思考)を用いて、どのような意図、意味を持って発信されているかを読み取り、咀嚼し、自分の意見も含めて発信することができる能力・スキルのことを意味します。
インターネットの普及によるメディアリテラシーの変遷
数年前までメディアリテラシーが示す「メディア」は新聞、テレビ、ラジオ、書籍などが
対象でしたが、近年ではそれらにwebやSNSなどのITメディアも含まれるようになりました。平成29年時点でインターネット利用者は1億人を超え日本の人口の8割を超える人が利用しています。年々利用者数は増加しており、ITメディアに触れる機会は格段に増加している状況にあります。またインターネット活用の低年齢化も進んでおり、低学年時からメディアリテラシー教育を学ぶ必要性が出てきています。
メディアリテラシー教育の必要性
メディアリテラシー教育の必要性が教育の現場でも取り上げられていますがその理由について考えてみます。
情報の本質や偏りを判断できる能力をつける
メディアの多様化、インターネットの普及によって私たちが情報に触れる機会は増え続けています。
情報を受ける前提として情報には作り手がいて、組織や立場により主義主張があるということを理解する必要があります。また、情報発信に関わる組織の成り立ちや教育環境、資本主義の仕組みなどから完全に平等であり偏りのない情報が発信されることは意図的でなくても難しいものだということを前提にし、個人が主体的にクリティカルシンキングなどを活用しながら、情報を正しく読み取るためにメディアリテラシーを身につける必要があります。
そして現在はITメディアの普及によって、個人レベルの情報発信が簡単に行える状況にあります。通常、メディアには情報を正しく発信するために検閲、精査する仕組みが構成されていますが、個人レベルにおいては事実確認や事前チェックを行わない情報が発信できてしまう環境にあります。そういった情報を鵜呑みにするのではなく正否の判断を自身が行えるようになるためにもメディアリテラシーは必要です。
新教育指導要領・ ICT教育
2020年から小学校教育から順次実施されていく新学習指導要領にもIT・ICTの活用が含まれています。新学習指導要領の主軸であるアクティブラーニングは従来の、教育者から一方向に学習内容を伝える方法ではなく、生徒が自主的、能動的に学ぶ力を身につけることを重点目標と定めています。生徒が学習時においてICTを活用し自らが課題に対しての解決手段や方法を収集し、それを用いて解決していく内容になりますので情報の正確さや意図を理解するメディアリテラシー教育はとても重要になります。
メディアリテラシー教育で学ぶべき項目
メディアリテラシー教育で生徒が学ぶべき項目として以下のようものが考えられます。
○情報モラル
○メディアに対する自己コントロール力
○情報をうのみにせず主体的批判的に受け取る力(クリティカルシンキング)
○情報機器操作活用能力
○情報発信能力
○インターネット操作活用能力
情報の受け方、捉え方に加えPCやモバイル端末(タブレット・携帯電話)の操作方法、情報発信の方法まで学ぶことが新学習指導要領で推奨されています。
教育事例 長野県教育委員会
長野県ではメディアリテラシーに関する教育を2006年から現在に至るまで続けており、小学校・中学校・高校と成長段階に合わせたカリキュラムや家庭との協力関係の構築など先進的な取り組みを行っています。
「メディアに対する自己コントロール力」 「情報をうのみにせず主体的、批判的に受け取る力 」「情報機器操作活用能力」 「情報発信能力」 「インターネット操作活用能力 」これらの項目を年代に合わせたシーンを想定した内容に落とし込みグループワークを中心に学びを深める内容になっています。
成長段階に合わせたカリキュラム
成長に合わせたカリキュラムの具体的な内容を紹介します。
小学校で学ぶ「情報モラル」の授業では、電話の受け方や手紙の受け取り方や書き方などインターネットにかかわらず情報のやり取りに関する基礎を学びます。中学校になると電子メールやチャット・掲示板のマナーなどインターネットを利用した学習に移行します。高校になると個別に携帯電話をもつ比率も増えてくることから携帯・SNS・グループチャットの使い方やマナーなどを学習します。
情報を受ける姿勢について小学校時はテレビやwebページのいい点、悪い点を生徒同士で話し合い、中学校になるとチェーンメールやネットショッピングの情報の信ぴょう性について考えます。高校では架空請求・出会い系サイトなど、より年代ごとに関わることが多いものを学ぶようにカリキュラムが組まれています。
これらリテラシーの教育に加え実際に使うパソコンややモバイル機器(タブレット・携帯電話)の操作法もOJTを介して学びます。
NHKのメディアリテラシー教育チャンネル
メディアリテラシー教育の基本、基礎的な内容をわかりやすくまとめているNHKの教育番組があります。NHKのEテレ内の番組「メディアタイムス」です。
・放送局:NHK Eテレ
・番組名:「メディアタイムス」
内容一例
・この記事どう思う? ネットニュース
・フェイクニュースを見抜くには?
・どこまでがOK?著作権
・何を選んで伝える? テレビニュース
子供だけでなく、指導する側も学ぶべき項目も含まれている番組です。断定的な解釈や解説ではなく、「みんなで考えてみよう」と問いかけを用い、教室内や家庭内で議論を深められる番組構成になっている点もおすすめです。
まとめ
時代の環境に合わせ、低学年時からIT/ICTを学ぶ必要性が高まってきています。新学習指導要領にもIT/ICT教育が採用されカリキュラムが組まれていますが、変化のスピードは想定を超えるものとなってきており、当初計画よりもより複雑になり、改訂や追加項目が出てくることも想定されます。
その中で基本となるメディアリテラシーの重要性をしっかりと教育し、理解してもらうことが欠かせません。また指導する側にもリテラシーやアクティブラーニングの理解と実践が求められています。
【参考】
デジタル大辞林「リテラシー」
デジタル大辞林「メディアリテラシー」
国立教育政策研究所紀要 国立教育政策研究所 2001年出版 「特集 メディア・リテラシーの総合的研究–生涯学習の視点から ; 第1部 子どもとメディア 第5章 メディア・リテラシー教育の重要性」
笹井宏益
長野県教育委員会 指導資料「メディアリテラシー教育の手引き」
NHK for school メディアタイムズ
文部科学省 「教科書の改善・充実に関する調査研究報告書(国語)-平成18、19年度文部科学省委嘱事業「教科書の改善・充実に関する研究事業」-第1章 4.2.(2)メディア・リテラシー教育の教材を改善・充実させる
総務省「情報通信白書29年版」