キャリア教育コラム

高校でも取り入れたい、金融教育の実施内容

更新日:2025/01/28

近年、日本でも金融教育の重要性がますます注目されています。2022年度から高等学校の学習指導要領に「公共」や「家庭科」において金融教育が明確に組み込まれました。しかし、現場の教員の方々にとって、実際にどのような内容をどのように教えるべきか悩むことも多いのではないでしょうか。今回は、高校で取り入れたい金融教育の実施内容について、具体的なアイデアやポイントを交えて解説します。

なぜ高校で金融教育が重要なのか

金融教育は、生徒たちが社会に出てから直面するお金に関する問題や意思決定を支援するために不可欠です。終身雇用制度が崩壊し、資産形成を日本国民一人ひとりが意識しなければならない中、金融リテラシーの基礎は社会に出る前に養っておくべきでしょう。実際、世界的にはOECD(経済協力開発機構)が「金融リテラシー」を重視しており、各国で取り組みが進んでいます。例えば、アメリカやイギリスでは、金融教育が義務化されており、成果を上げています。

また日本では、若者の消費者トラブルや借金問題が増加しており、早い段階での教育が重要視されています。これらを背景に、金融教育の必要性が叫ばれているのです。

金融教育で扱うべき主要なテーマ

高校での金融教育では、以下のようなテーマを重点的に扱うことが推奨されます。

1. 家計管理と予算作成

いきなりスケールの大きな話ではなく、生徒が身近に感じやすいトピックスを扱いましょう。家計簿をつけることや予算を立てるスキルは、経済的自立の基本です。“収入と支出をバランスよく管理する方法”や、“予算を守るための優先順位の付け方”を生徒の実生活を題材に学ばせることができます。

実施例:

  • グループワークで架空の家庭の月々の予算を作成させる。
  • 電気代や食費などを考慮して、節約できるポイントを議論させる。
  • 自分のお小遣いを整理し、何にお金を使っているかを洗い出してグラフにする。

2. 貯蓄と投資の基本

お金をただ貯めるだけでなく、将来に向けた運用方法を知ることは重要です。投資信託や株式などの仕組みを基礎から教えることで、生徒たちは自分の将来に備えた選択肢を増やすことができます。近年、NISAを中心に資産形成を行う人が増えており、若者でNISAを始める人も決して珍しくありません。投資ときくと難しく思ってしまう人も多いですが、実は100円から始められること、早く始めるほど資産形成においてはメリットが大きいことなども、知識として持っておくべきでしょう。

ただし、投資はリスクが伴うものでもあります。知識を正しく伝えた上で、自己責任自己判断で行うこともしっかり伝えましょう。

実施例:

  • 投資のリスクとリターンをシミュレーションゲームで体験させる。
  • NISAの基本的な仕組みを解説する。
  • 金利や複利計算のワークショップを開催する。

3. 借金とクレジットカードの仕組み

日本では、消費者金融やクレジットカードを利用した多重債務問題が深刻です。特に大学生になるとクレジットカードを自分で持つこともできるので、予期せぬトラブルに見舞われることもあります。借金のリスクや、クレジットカードの使い方を理解させることで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

実施例:

  • クレジットカードの利息計算を実際に行わせる。
  • 借金問題に関するケーススタディをグループで分析する。

4. 税金と社会保険の基礎知識

社会に出ると避けられない税金や社会保険の仕組みについても、高校生のうちから学ぶ必要があります。所得税や住民税、年金制度について基本的な知識を提供することで、将来役に立つでしょう。また、税金の基礎を学ぶことは政治に対する理解や関心のもとにもなります。

実施例:

  • 生徒に架空の給与明細を配布し、そこから控除される税金を計算させる。
  • 世界各国の税金事情を調べ、日本との違いを議論する。

金融教育に関する授業の進め方と工夫

金融教育は、単に知識を教えるだけでは不十分です。生徒が主体的に考え、実生活で活用できる力を養うことが求められます。以下のポイントを参考に、効果的な授業を設計しましょう。

  1. 実生活に即した教材を活用する
    新聞やニュース記事を基に、実際の経済問題を取り上げると、生徒の興味を引き出しやすくなります。
  2. アクティブラーニングを導入する
    ディスカッションやグループワークを取り入れることで、生徒同士が意見を交換し合い、理解を深められます。
  3. 専門家を招いた講演会の実施
    金融機関のプロフェッショナルやファイナンシャルプランナーをゲストスピーカーとして招くことで、リアルな視点を提供できます。

指導する担当教員自身の金融リテラシー向上につながる

金融教育に関わると、社会人でも意外と知らない情報が多いことに気づくはずです。当事者意識を持って指導にあたるためにも、担当教員自身も自分ごととして金融教育に取り組みましょう。

活用できるリソースや参考資料

金融教育を実施する際に活用できるリソースも数多くあります。以下にいくつかの例を挙げます。

  • 日本銀行の教育サイト
    https://www.boj.or.jp/education/
    こちらでは、金融や経済に関する基礎的な知識を学べる教材やクイズが無料で提供されています。特に高校生向けの講義資料が充実しており、授業でそのまま活用できます。
  • 金融庁の「金融教育プログラム」
    https://www.fsa.go.jp/ordinary/education/
    消費者保護や投資の基礎知識に関する情報が掲載されています。具体的な事例を基にした教材や、教員向けの研修資料も用意されており、現場ですぐに役立つ内容です。
  • OECD’s Financial Literacy Resources
    https://www.oecd.org/financial/education/
    世界的な視点から金融教育を学べるリソースが豊富です。特に、異文化における金融リテラシー教育の取り組み事例を知ることで、自校での教育に新たな視点を取り入れることができます。
  • 全銀協(全国銀行協会)の「お金の教室」
    https://www.zenginkyo.or.jp/education/
    銀行業務やお金の仕組みに関する分かりやすい解説が特徴です。ゲーム形式の教材もあり、生徒が楽しく学べる工夫がされています。
  • 日本証券業協会の「証券教育」
    https://www.jsda.or.jp/manabu/
    株式や証券投資について基礎から学べるコンテンツが揃っています。初心者向けの資料も多く、投資教育に適しています。

まとめ

高校での金融教育は、生徒たちが将来直面するであろうお金に関する課題に備えるための重要な学びです。家計管理や投資、税金などのテーマを取り上げることで、生徒たちはより実践的なスキルを身につけることができます。また、アクティブラーニングや専門家の講演を取り入れることで、興味を引き出し、学びを深めることが可能です。

     

執筆者:Strobolights