キャリア教育コラム

PBL授業 ~PBL学習を活用した能動的課題解決型授業とは~

更新日:2019/03/13

近年多くの教育現場で取り入れられているPBLには、学びのモチベーションを高めてより総合的かつ実践的な知識・技能を育てる効果があります。

グローバル化や価値観の多様化がますます進むこれからの社会を生き抜くには、他者から与えられた仕事・作業をこなすだけでなく自ら進んで課題を発見する能力や決まった答えのない問題に取り組む能力が必要とされます。PBLをはじめとする新しい教育スタイルは子どもたちの「生きる力」を伸ばし、グローバル社会で活躍する人材の育成に役立つことが期待されています。

今回はPBL授業の2つの手法や標準的な授業の進め方、そして国内の教育現場におけるPBLの導入例について解説します。

PBL授業とは

PBLは学習者自らが問題を発見し解決することを目指す教育方法であり、近年の学習指導要領でも頻繁に取り上げられているアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)の一種です。現在多くの教育機関で導入されているPBL授業は、後述するPBL学習の手法にのっとって進められます。

PBL学習とは

PBLはProject Based LearningまたはProgram Based Learning(課題解決型学習)の略称であり、20世紀初頭にアメリカの教育学者・ジョン・デューイによってはじめて教育に取り入れられた学習理論です。

従来の学習方法では、教師から学習者へ一方的に知識を伝えることや正しい答えを導き出すことが重視されています。一方、PBLでは正しい答えを出すことよりも学習者が自分の力で問題を発見し解決することや答えを導き出すまでのプロセスが重視されます。

教師は、学習者のモチベーションを引き出し学びのサポートをするチューター(助言者)やファシリテーター(学習支援者)の役割を担います。

PBL授業の種類

PBL授業には、大きく分けて2種類のスタイルがあります。無理なく授業を進めながら高い学習効果を得るために、授業のスケジュール・学習者の知識レベル・授業へのサポート体制などを考慮しながらカリキュラムを決定します。

チュートリアル型授業

架空のシナリオを活用して、課題発見・仮説検証を行う方法です。数名のグループに分かれ、特定のシチュエーションを想定したグループワークや検証を行うスタイルが一般的です。

特徴

チュートリアル型授業は外部と連携しなくても進められるため、比較的簡単に実施できます。そのため、教育機関で実施されるPBL授業の多くはチュートリアル型授業となっています。

シナリオの内容はあくまで架空なのである程度の調整がきき、学習の難易度を調節することも可能です。そのため、まだ知識量が少ない学習者やPBL授業に慣れていない学習者でも取り組みやすいでしょう。

一方、チュートリアル型授業にはリアリティに欠けやすいというデメリットがあります。実地ではない教室(学校)の中でリアリティの低いシナリオを提示しても学習者に当事者意識を持たせることは難しく、学習のモチベーションが保ちにくい側面があります。

チュートリアル型授業で高い学習効果を得るためには、シナリオに過去の実例を盛り込んだり登場人物名・地名を工夫したりしてリアリティを持たせるとよいでしょう。

実践体験型授業

実社会の中で起こっていることを題材にして、課題発見・仮説検証を行う方法です。企業・団体や地方自治体などと連携して行う必要があるため、インターンシップとして導入される例が少なくありません。

チュートリアル型授業と同じく、数人のグループに分かれて学習を進めるスタイルが一般的です。

特徴

実践体験型授業では実社会に存在する本物の課題を扱うため、ただの「お勉強」にとどまらない実践的な知識・技能や高い責任感が身につきやすくなります。
学習者は課題が発生するシチュエーションを実際に体験でき、場合によっては課題に直面している人と直にコミュニケーションをとることもできるので、チュートリアル型授業よりも当事者意識を持ちやすく学習のモチベーションを保ちやすいでしょう。

ただし実践体験型授業には外部との連携が欠かせず、またチュートリアル型授業よりも事前準備やスケジュール調整などに手間がかかりやすいため、実施のハードルが高いというデメリットがあります。

三重大学の事例

医学部看護学科1年生を対象に実施された「人体機能学・人体構造学」には、学生ひとりひとりが受動的な学習から脱却し学習意欲を高めることなどを目的としたPBL授業が導入されています。
学生は前の週に出された課題に沿ってポートフォリオを準備しておき、授業は基本的にこのポートフォリオに沿って進められます。課題のシナリオには教科書に登場する内容などを使用し、まだ専門知識の少ない1回生でも取り組みやすいよう工夫されています。以下は、シナリオの一例です。

”ボストン出身の中年の大学教授が、天文学の研究をするため、1 年間の予定でスイスア ルプスに滞在することになった。2 日前に到着したが、到着以来、少しの運動で息切れがし、以前よりも疲れやすくなっているのに気付いた。しかし、これらの症状は次第に軽快し、2 か月後にはまったく消失した。1 年後、米国に戻って 健康診断を受けたところ、赤血球数が正常よりも(増加 or 減少;どちらかひとつ選べ)していると言われた。
(1)なぜこのような変化がみられたのか?
(2)この変化はもとにもどるか?それはなぜか?”

授業中はまず8~9名ずつのグループに分かれてグループ学習(情報交換など)を行い、その後各グループの代表者が全員の前で発表(ポートフォリオの紹介・説明)を行います。各グループにひとりずつ2回生のサポーターがつき、最初のグループ学習の誘導やポートフォリオ準備のチェックなどを行います。

PBL授業の利点

知識の詰め込みや正しい答えの追求を重視する従来の学習方法と比べて、PBLには以下のようなメリットがあります。

・成人教育にも適した能動的な学習方法である
・身近な問題を扱うことが多く、学生が興味を持ちやすい
・実用的で深い知識が身につく
・グループ学習によって、コミュニケーション能力や協調性などを伸ばすのに役立つ

もし従来型の学習方法で上記のシナリオの内容を学ぶとしたら、まず「高地に滞在すると赤血球数が変化する」という事実をそのまま覚える学生が少なくないでしょう。しかしその事実を丸暗記しただけでは、なぜ高地に行くと赤血球数が変わるのか・低地に戻ると赤血球数はどうなるかなどをうまく説明することは難しいでしょう。

学んだ内容についてポートフォリオを作成し、グループディスカッションや発表をスムーズに行うためには、自ら積極的に学習・調査を行って知識を深める必要があります。準備が不足しているとグループメンバーにも迷惑がかかるので、きちんと準備しようと心がけることでおのずと協調性も身につくでしょう。

また、身近で具体的な問題を扱うことで学生が当事者意識を持ちやすいというメリットもあります。すでに述べたようになるべく誰の身にも起こり得るような題材を扱うことでシナリオにリアリティが生まれ、自分にも関係があることだと実感を持って学べるでしょう。

PBL普及の目的

PBLが普及することで、以下のような教育効果が期待できます。

・学生自身が主体的に学ぶ力が育つ
・専門分野における基礎的な知識・技術とともに、高い応用力が育つ
・社会に出てから新たな問題に直面した時、自ら問題を発見し解決する力が育つ

主体的に学ぶ姿勢や高い応用力、そして自ら問題を見つけ解決する能力は、いずれも社会人に求められる資質として重要なものです。PBL授業は文部科学省の新しい学習指導要領にも登場する「育成すべき資質・能力の3つの柱」(学びに向かう力・人間性等、知識・技能、思考力・判断力・表現力等)の要素を全て満たし、「生きる力」を持った人材の育成に役立つと考えられます。

PBL授業のスキーム例

次に、PBL授業の標準的な進め方について解説します。

事例問題の提示

架空のシナリオ(文章・映像など)や実際の現場の中で、授業で取り組むべき課題が示されます。カリキュラムによっては、複数の授業で分割して提示されることもあります。

グループディスカッション

数人のグループに分かれて、チューター(教師)のもとでディスカッションを行います。グループメンバーと積極的に意見を交換し、わからないことがあればチューターに質問・確認しておきます。

ディスカッション中はメンバーの意見にむやみに同調したり頭ごなしに反対したりすることは避け、意見を交換することそのものを重視します。さまざまな知識・来歴を持つメンバーとの対話は、新たな知識や考え方を知る良いきっかけとなるでしょう。

自己学習

学習記録として、グループディスカッションの内容・参考文献のリスト及び内容の要約・図表・データなどをまとめます。必要に応じて調べ物やデータ作成などを行い、次回の発表内容をまとめます。

参考資料を使う場合は、内容が正確かつなるべく新しい資料を使います。複数の資料を使う場合は、内容が矛盾していないか確認することも重要です。

授業によっては、グループディスカッションを複数回行うこともあります。その場合は、過去のディスカッションや自己学習から得た知識をもとに発表内容を随時アップデートしていきます。

成果発表の準備

学習成果の発表方法は、レポート・プレゼンテーション・デモンストレーションなどさまざまな形式があります。発表形式に合わせて必要なデータや材料などを準備し、聞き手に伝わりやすいようなるべく簡潔にまとめます。準備作業は、授業時間外に行う場合もあります。

成果発表とフィードバック

成果発表は授業中に行う場合もあれば、合同セミナーなど不特定多数の人が集まる場で行うケースもあります。

成果発表が終わったら、聞き手からの意見・質問や他グループの発表内容をもとに学習内容のフィードバックを行います。授業を通して得た知識や新たな疑問は、今後のさらなる学びのきっかけとなります。

PBLを授業に上手に導入して、学びをもっと興味深いものに

学習者自らによる問題発見と課題解決を重視するPBL授業は、近年多くの教育現場で導入されているアクティブ・ラーニングの一種です。身近で実践的な問題を扱うことが多く、学習者が学習内容について興味を持ちやすいという特徴があります。

PBLは、チュートリアル型授業と実践体験型授業の2種類に大きく分かれます。それぞれにメリット・デメリットがあるので、無理なく授業を進めつつ高い学習効果を得られるよう授業スケジュールを組むことが大切です。

一般的なPBL授業は、課題提示・グループディスカッション・自己学習・成果発表準備・成果発表とフィードバックの順で実施されます。発表が終わったらそれでおしまいではなく、PBL授業を通して得た知識・疑問を新たな学びのきっかけとして学習を続ける姿勢が大切です。

■参考
甲南大学情報教育研究センター 井上 明「PBL情報教育のための7つのプラクティス」

三重大学地域人材教育開発機構「PBL形式の授業について」

三重大学「PBL授業での学習の進め方」

三重大学高等教育創造開発センター 「三重大学版 Problem-based Learning の手引き ー多様なPBL授業の展開ー 」

文部科学省 平成29・30年改訂 学習指導要領「育成すべき資質・能力の三つの柱」

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部