キャリア教育コラム

英語学習を通したキャリア教育 グローバル人材として生きる力の醸成

更新日:2019/07/11

日本の教育水準は、世界的に見ても高い部類に入ると言われています。しかし、学力向上ばかりを重視した教育の弊害として「学生時代の成績は良かったが仕事はあまりできない」「将来の目標(あるいは目標達成のためにするべきこと)がわからない」という人が多く現れました。

 

目まぐるしく変化するこれからの社会で社会人として力を発揮するためには、社会に出る前からしっかりと職業観・勤労観を身につける必要があります。また、話者数世界一の言語である英語のスキルを伸ばすことも重要視されています。

 

近年多くの教育機関で導入されているキャリア教育は、社会人に必要とされる価値観・スキルの習得を目的とした教育手法です。英語学習に力を入れたキャリア教育が浸透することで、次世代を担うグローバル人材の育成に役立つことが期待されています。

 

キャリア教育とは

 

キャリア教育は、「ひとりひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」のことを指します。

 

キャリア教育の始まりは、1970年代にアメリカ教育局長官であったマーランドが説いたcareer education(キャリア発達の観点から、幼稚園~成人教育までの全体を再編成しようとする教育改革)とされています。

 

国内では、1999年からキャリア教育が政策として進められてきましたす。取り組みの主な目的は学習者に職業観と勤労観を養い職業に関する知識・技能を身につけさせること、そして学習者ひとりひとりが自らの個性を理解し主体的に進路を選択する能力・態度を育てることです。

 

キャリア教育は、小学校から大学までの発達段階に合わせて実施されています。社会見学・ボランティア活動・インターンシップやオリジナル商品開発などの体験を通して、働くことや専門的な知識・技能を得ることの大切さを学ぶねらいがあります。

なぜキャリア教育が必要なのか

近年の少子高齢化や雇用の流動化、そしてグローバル化などによる日本の社会構造の大きな変化は、若年世代の就職・就業状況にも少なからぬ影響を与えています。

 

また、若年世代の中には「将来の目標を決められないまま卒業せざるを得ない」「学校の勉強はよくできたが、仕事では思うように成果を上げられない」という人が多いと言われています。学校教育を終えて社会に出る際に生じるこれらのギャップは、学力向上だけを重視した教育が一因とも言われています。

 

子どもたちの勤労観・職業観や社会人としての資質を育てて精神的・社会的自立を促すには、学力とともに豊かな人間性と健康・体力を身につけて「生きる力」を伸ばす必要があります。これからの社会で求められる「生きる力」を伸ばす手段として、キャリア教育が注目されています。

 

キャリア教育の概念や国内での実践例について知りたい方は、こちらも併せてご覧ください。

【基礎編】キャリア教育とは?キャリア教育の3つの事例と国の取り組み

英語学習を通したキャリア教育

 

これからのグローバル化社会で活躍するために欠かせない教育のひとつとして、質の良い英語学習が挙げられます。

 

従来の英語教育では試験などでよい成績を取ることが重視されており、実際に英語を使ってコミュニケーションすることよりも文法・単語などを正しく理解することを求められることも少なくありませんでした。そのため、多くの日本人は何年もかけて英語を学んだにもかかわらず英語をうまく操れないと苦手意識を持っている人が多いと言われています。

 

キャリア教育では英語のスキルに加えてグローバル社会で必要とされる素養や情報収集・発信スキルを身につけること、そして海外の文化に関する興味・理解を深めることを目的としたカリキュラムが組まれています。

英語学習とキャリア教育 事例

 

次に、国内の大学における英語学習の中で行われているキャリア教育実施事例を紹介します。これらの大学では、ただ英語を学ぶだけでなく学生が自然に海外の文化に興味を持ちグローバルな視点を持てるような取組が進められています。

 

また、日本人学生はもちろん海外からの留学生にとってもより良い教育の場となるようさまざまな工夫が凝らされています。

 

東京女子大学

2~4年生を対象とするキャリア・イングリッシュ課程は、英語で発信し国際社会で活躍する力を育てる独自の英語力養成プログラムです。

 

キャリア・イングリッシュ課程の受講者は1年次の応募者から選抜され、英語でのプレゼンテーションや論理的ディスカッション、クリティカルシンキングのスキルを学びます。さらに国際社会で生き抜くために必要な知見や素養、情報分析・発表方法を習得するための科目を履修し、柔軟な思考力や独創性を育てます。

 

またキャリア・イングリッシュ課程とは別に、全学生が参加できる「キャリア・イングリッシュ・アイランド」という取組もあります。専用の施設で行う英会話・プレゼンテーションの訓練や、外部講師によるセミナー・講演会を通して、キャリア展望を育てるねらいがあります。

 

全学生必修となる英語科目でもネイティブスピーカーによる授業を実施し、実践的な英語力を育てています。CALL学習センターでは自習室や自宅でも練習できるeラーニングシステムを整備し、自主的に英語スキルを高められる環境が整っています。

 

さらに海外留学制度や語学研修制度、そして海外からの留学生受入制度などのバックアップ体制を整えることで、留学や国際交流を通じて多様な学びを実現しています。

 

拓殖大学

拓殖大学では、キャリア教育の英語学習においてTOKYO GLOBAL GATEWAY(以下TGG)の大学生プログラムを活用しています。TGGは新しいタイプの体験型英語学習施設であり、幅広い世代が英語を使う楽しみ・必要性を実感し学習意欲を高めるために創設されました。

 

TGGでは2019年4月から大学生向けのプログラムが開始されており、拓殖大学商学部国際ビジネス学科の1年生が新入生オリエンテーションの一環として初めてプログラムを体験しました。

 

学生たちは書店や病院などを想定したロールプレイングゲームやランチ中の雑談、個別のテーマに沿ったグループ学習などをすべて英語で体験し、エージェントと呼ばれる英語のネイティブスピーカーと交流を図りました。最後にエージェントとともにプログラムを振り返り、プログラムの感想や自身の弱点などを確認しました。

 

また、TGGで実施されている小中学生向けプログラムでは拓殖大学の学生がインターンシップ生としてエージェントたちのアシスタントを務めています。TGGでは多様な国籍・年齢・性別のエージェントが活躍しており、学生たちはインターンシップを通してプログラム受講よりも濃密な異文化交流の機会を持つことができます。

 

崇城大学

熊本県の崇城大学もまた、グローバル教育に力を入れている大学のひとつです。2018年にリニューアルオープンした英語学習施設「SILC」には、活きた英語を身につけるための最新設備が揃っています。

 

SILC

英語学習に特化した専門施設「SILC(SOJO International Language Center)」にはBLS(Blended Learning Space)と呼ばれる英語学習専用の講義室やカフェ・イベントスペースが整備されており、英語を本格的に学ぶことができます。

 

英語は全学科1・2年生の必修科目となっており、授業はすべてネイティブスピーカーの教師が担当します。授業は基本的にアクティブラーニング方式となっており、ディスカッションやロールプレイを通じて楽しく英語でのコミュニケーション能力を伸ばすことができます。

 

BLSには軽くて動かしやすい机・椅子が設置されており、自由なスタイルで学ぶのに役立ちます。BLSで利用できる学生用タブレット端末は、学習用音声・画像へのアクセスやプレゼンテーション準備などに役立てられています。

 

また、スマホやタブレットでアクセスできるSILCオンライン学習コミュニティも整備されています。コミュニティを活用することで、いつでもどこでも課題を進めたり教師と英語でチャットしたりすることができます。

 

SILCの2階には、学生の自主学習に役立つSALC(Self-Access Learning Center)が設置されています。英語の4つのスキル(聞く・読む・書く・話す)のうち、自分が伸ばしたいスキルを好きな時に好きなペースで学べる施設です。

 

SALCには教師との交流を楽しめるカンバセーションラウンジ、教師とマンツーマンでスピーキングを練習できるスピーキングセンター、論文や履歴書作成に必要な英作文スキルを伸ばせるライティングセンターなどが整備されています。この他、海外ドラマやアニメを見ながらリスニング力・会話力を伸ばせるエデュテイメントブースもあります。

 

国際交流センター

崇城大学国際交流センターでは海外留学・研修や外国人留学生の受入サポートや海外協定校との国際交流活動に力を入れており、2017年度には約250名の学生が海外研修に参加しました。

 

語学研修はもちろん、異文化体験や専門分野の学習などを目的とした短期間の研修制度も整っています。返済がいらない独自の海外留学奨学金システムを利用することで、費用面の負担も軽減されます。

 

センター内では、日本人学生と外国人留学生からなるサークル「GC(グローバル・コミュニケーションズ)」が国際交流イベントを企画・運営しています。過去には餃子パーティーやそうめん流しイベントなどが実施され、多くの学生が異文化交流を楽しみました。

 

また、日本人学生によるボランティア活動「国際交流サポーター」も行われています。崇城大学に在籍する外国人留学生が授業や日本での生活について困難を感じたとき、日本人学生がサポートを行います。

グローバルな視点から生きる力を育てる、英語学習のキャリア教育

 

次世代を担う若者たちの職業観・勤労観を育ててこれからのグローバル化社会を生き抜く力を伸ばすために、英語教育に重点を置いたキャリア教育が注目されています。

 

実践的な英語スキルを身につけるためには、従来型の英語教育(文法・単語を正しく覚えることを重視した教育)から一歩踏み込んだコミュニケーション重視型の英語教育が必要と考えられています。

 

今回紹介した大学では、ICT教育・アクティブラーニングなどの新しい教育手法を用いた英語教育が行われています。ネイティブスピーカーとの会話や異文化交流を楽しみつつ自然に英語スキルを身につけ、また独創性や柔軟な思考力などを伸ばすことで、国内外で通用する「生きる力」を効率的に育てられると期待されています。

 

■参考
一般財団法人日本職業協会「わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―」

文部科学省「キャリア教育の必要性と意義」

東京女子大学 キャリア・イングリッシュ課程

拓殖大学 国際ビジネス学科の新入生がTGGのプログラムを体験しました

TOKYO GLOBAL GATEWAYオフィシャルサイト

崇城大学 グローバル教育

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部