キャリア教育コラム

MOOCとは?無料で世界中の講義が受けられる⁈進むオンライン教育改革

更新日:2020/12/02

大学で興味のある学問を学びたいと思った時、自宅の周辺に学べる学校が無かった場合、希望する大学で学ぶために自宅を出て一人暮らしをしければならないことがしばしばあります。また、海外の大学で学ぶために住み慣れた日本を離れる人もいます。しかし、いくら学びたいという意欲があっても、すべての人がそうした選択ができるとは限りません。

今回はそういった悩みを解決できるかもしれない、パソコンとインターネット環境さえあればどこでも誰でも原則無料でオンライン講義が受けられるMOOC(ムーク)について解説します。MOOCがもっと世間に浸透すれば、これからの教育の可能性が飛躍的に拡大するでしょう。

MOOC(ムーク)とは

MOOC(Massive open online course)は、インターネットを利用した大規模なオンライン講座を意味します。なお、複数形で「MOOCs」と表現されることもあります。

MOOCの場合、ほとんどの講座は年齢・性別・学歴などに関係なく誰でも受講できます。講座の提供元の多くは国内外の有名大学や研究機関であり、質の高い講義を無料または低額で受けることができます。たいていの講義は専門知識が少ない人でも内容・説明を理解しやすいよう構成されているので、とりあえず気軽に受講してみるのもよいでしょう。

MOOCの仕組み

多くの場合、大学が映像配信用のWebサイト(プラットフォーム)を利用して講義の動画を公開しています。受講者はプラットフォームの利用登録や好きな講座の受講登録をすることで、動画を視聴できるようになります。

国内のMOOCポータルサイト「JMOOC」の場合、講座によって差があるものの1回10分程度の動画が週5~10本のペースで配信されます。各動画の後に、理解度を確認するための小テストが課されます。1ヵ月コースの場合はこれを4週間繰り返し、最後に総合課題(レポートなど)を提出します。

JMOOCでは、オプションとして教師への質問や他の受講者との意見交換を行うための掲示板が設けられています。また、一部の講座ではオンライン授業後に動画に登場する教師に直接教わることができる対面学習コースが開設されています。

MOOCが教育の構造を変えると言われる理由

MOOCを活用すれば、わざわざ留学や上京をしなくても一流大学の講義を低コストで受講することができます。学習意欲さえあれば、世界中のあらゆる教育を受けることも不可能ではありません。

現役の学生はもちろん社会人・主婦・高齢者や健康上の理由などで通学が難しい人も、MOOCによって上質な学びが得られるチャンスを獲得できます。また、卒業してから過去に学んだことを学び直したりより深く学んだりするのにもMOOCが役立ちます。このように、MOOCは生涯学習のツールとしても有用と言えるでしょう。

学習者側だけでなく大学の立場から見ても、MOOCは大きな可能性を秘めています。MOOCを活用することで大学の知名度やブランド力を上げるのに役立ち、国内はもちろん海外に対しても教育・研究内容をアピールできるよい機会となります。単に外国人教員や留学生を増やすだけでなくMOOCの活用によって学生・卒業生・教員のグローバルなネットワークを育て、教育・研究によって国際的に貢献することで国益を上げるのに役立つでしょう。

MOOCのメリットとデメリット

次に、MOOCを使って学ぶメリットとデメリットについて解説します。

MOOCのメリット

・利用者(受講者)や場所を選ばない
普通は、大学で学ぼうと思ったらその大学の入試に合格しなければなりません。しかしMOOCには入試はなく(一部の講座は受講前提条件が定められている)、ネット環境と端末と学習意欲さえあれば誰でも気軽に学ぶことができます。

・実際に大学で学ぶよりコストが低い
MOOCの講義は、たいてい無料で受講することができます。一部有料の講義もありますが、大学に入学して学ぶよりはずっと低コストです。経済的理由から大学進学を諦めざるを得ない(または諦めた)人にとって、MOOCは大きな学びのチャンスとなります。

・講義のバリエーションが多く、興味がある内容だけを選択できる
MOOCでは、さまざまな分野の講義が公開されています。中には、パズルを活用したプログラミング学習や音楽レッスンのように趣味の延長感覚で楽しめるものもあります。

社会人や主婦の中には、学びたいという意欲はあるものの仕事・家事・育児などが忙しく学習時間を確保しにくいために躊躇している人が少なくありません。興味がある講義だけを選んで受講できるMOOCなら、忙しい人でも学習時間を確保しやすくなるでしょう。

・言葉の壁を越えやすい
海外の大学で学びたい日本人にとって、しばしば言葉の壁は大きな問題となります。反対に、日本の大学で学びたい外国人にとっても同じことが言えます。

一部のMOOC講座では、動画配信中に日本語字幕を表示することができます。字幕がつくことで、言葉の壁を気にせず自由に学ぶことができます。また、外国語スキルを上げるために敢えて字幕を表示しないで講義を受ける人もいます。

特に英語圏のMOOCではさまざまな言語の話者による受講が想定されており、レポートなどを評価する際は英語の上手下手ではなく内容を重視することが定められています。たとえ英語表現が上手でなくても講義内容をしっかり理解できていると判断されれば、良い評価をもらえるでしょう。

・一部の講座では、修了証明書を発行してもらえる
MOOCでは、一定の条件を満たせば修了証明書を発行してもらえることが多くあります。MOOCの修了証明書は大学・研究機関の公式な証明書であり、発行を受けるためにはしっかりした本人確認が必要なので、信頼性の高い書類と言えます。発行された修了証明書は、SNSで公開したり履歴書などに添付したりして活用できます。

MOOCのデメリット

・他の学習者の気配を感じにくい
ひとりで学習していると、自分から積極的に教授や他の学習者と交流しない限り他者からの刺激を受けることができません。そのため、途中でモチベーションが下がって学習を投げ出してしまう人もいます。

・無料なことがモチベーションの低下につながる
多くのMOOC講座は無料で受けられますが、それがかえってデメリットとなってしまうことがあります。普通の大学や通信教育と違って「せっかく授業料を払ったのだから途中で投げ出せない」という制約がないことも、モチベーション低下の要因となり得るためです。

しかし、今後の技術発展によってこうしたMOOCのデメリットは解消されるかもしれません。例えばMOOCの講義にVRを取り入れることで大勢の生徒がいる講義室で講義を受けている気分を味わうことができ、他者からの刺激を感じることで学びのモチベーションを保ちやすくなるかもしれません。

MOOCを導入している主な大学

ここでは、現在MOOCを導入している国内外の大学および2019年1月現在開講されている講義内容の一例を紹介します。

ペンシルバニア大学(アメリカ)

Coursera(世界的に有名なMOOCプラットフォームのひとつ)で公開されている専門講座「Business foundations(ビジネス基盤)」では、まず5つの専門講座でマーケティング・経理・運営・財務の基礎を学びます。各専門講座の修了後に課される実践型プロジェクトを終了させると、修了証が発行されます。
https://ja.coursera.org/specializations/wharton-business-foundations

フローニンゲン大学(オランダ)

イギリス発のMOOCプラットフォームであるFuture Learnにおいて「Young People and Their Mental Health(若者とその精神的健康)」を公開しています。現在、10代の若者の5人に1人が何らかの精神的健康問題を発症しています。この講座では一般的な精神的健康問題がどのようにして発症するか、それらの問題についてどのように対処または予防するかを学びます。
https://www.futurelearn.com/courses/young-people-mental-health

中央音楽学院(中国)

中国大学MOOCで公開されている「从零开始学钢琴(ピアノを一から学ぶ)」では、ピアノの基礎的な演奏方法を学びます。各講義では初心者向けの練習曲が紹介され、受講者は動画を視聴しながら手元のピアノや電子キーボードを使って練習します。

受講者からは「親切なレッスンで、初心者の自分でもスムーズにピアノを弾けた」という声が多く寄せられています。
https://www.icourse163.org/course/CCOM-1003673002

筑波大学(日本)

JMOOC内のプラットフォームのひとつgaccoで公開している「嘉納治五郎とオリンピック・ムーブメント」では、筑波大学の前身である東京高等師範学校元校長・嘉納治五郎が招致に成功した1940年東京オリンピック(日中戦争の影響によりオリンピック開催は返上)と、オリンピックを通じてこれからのグローバル社会に何を伝えていくべきかを学びます。

講座内容は、2020年開催予定の東京オリンピック及び2019年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」の内容を意識したものになっています。それまでスポーツに興味がなかった人にとっても、歴史的側面からスポーツやオリンピックへの理解を深めるよい機会となるでしょう。
https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga101+2019_01/about

大手前大学(日本)

gaccoで公開されている「パズルで情報活用」では、オンライン授業のみの通常コースを修了すると対面授業コース(有料)を受講することができます。数独やセレクトワーズなどのパズルを楽しみながら、Excel関数についての知識や情報活用能力を伸ばすことができます。

対面授業では、情報活用力の概要や習得方法・活用するべき場面について学びます。決まった答えのない命題についてディスカッションを行いながら、情報活用力について理解を深めていきます。
https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga110+2018_11/about

代表的なMOOCのサービス

JMOOC

無料で学べる日本最大のオンライン大学講座サービスです。340講座、100万人以上が受講(※2019年10月時点)しているとのこと。講座内容は大学生向けの「データサイエンス」から高齢者向けの「家族と健康」といった幅広い講座が開かれています。

Coursera(コーセラ)

東京大学、イェール大学、スタンフォード大学などの名門大学や Google、IBM など世界を代表する企業がプロデュースするコースを無料でオンラインで受講できます。世界中に受講者がおり、グローバルな授業を家にいながらにして受講することができます。

edX(エデックス)

2012年にマサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立されたMassive open online courseのプラットフォームで、世界中の学生にむけ多岐にわたる分野の講座を無料で提供しています。日本の大学では京都大学が参加しており、2019年10月時点で、2,400講座、2,000万人の受講者が参加している世界を代表するMOOCです。

MOOCを受講すれば学位が取得できる?

現在国内でMOOCを導入しているほとんどの大学では、各講座の修了証明書は発行しているものの学位取得には対応していません。MOOCは素晴らしい学習環境のひとつですが、学位や単位を得たいならやはり大学に入学して学ぶ必要があります。

一方、海外の大学の中にはペンシルバニア州立大学のようにオンライン専門のコースを設けるなどして対応しているところが少なくありません。ペンシルバニア州立大学のオンライン専門コースは年間のうちに何回か繰り返して開講されるので、仕事などが忙しくない時期にあわせて受講することも可能です。

MOOCの普及で、学びのハードルはぐっと下がる

MOOCは、インターネット環境と端末さえあれば誰でもどこでもオンライン講義を受けられる教育システムです。国内はもちろん海外の大学の講義も受講でき、講義によっては日本語字幕を付けることもできるので、言葉の壁や地理的・経済的・時間的制約にとらわれずに学ぶことができます。

ほとんどの講義は現役の学生はもちろん社会人・主婦・高齢者でも気軽に受講できるため、生涯学習のツールとしてMOOCを役立てることもできます。日本国内ではまだあまり知名度が高くないMOOCですが、これからの教育の可能性を拡大することが期待されています。

【参考】
JMOOC 無料で学べる日本最大のオンライン講座

日本私立大学協会 飯吉 透(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)
オープンエデュケーションの新たな潮流

Coursera内 ペンシルバニア大学 Business Foundations専門講座

Future Learn内 フローニンゲン大学 Young People and Their Mental Health

中国大学MOOC内 中央音楽学院 从零开始学钢琴

gacco内 筑波大学 嘉納治五郎とオリンピック・ムーブメント

gacco内 大手前大学 パズルで情報活用

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部