キャリア教育コラム

PBLとは?基礎からわかる問題解決型学習まとめ

更新日:2018/09/10

教育現場で最近話題になっている問題解決型学習(PBL)。どんな教育方法なのかご存知ですか。問題解決型学習という言葉だけ独り歩きしてしまい、どのように実施するもので、どんな効果があるのかわからない点が多いのではないでしょうか。ここでは問題解決型学習の基礎知識に加え、従来の記憶型学習(SBL)との違いや導入事例を解説いたします。

問題解決型学習(PBL)とは?

問題解決型学習(Project Based Learning)。これは別名「課題解決型学習」とも呼ばれ、知識の暗記などのような生徒が受動的な学習ではなく、自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とした教育法のことを指します。生徒自身の自発性、関心、能動性を引き出すことが教師の役割であり、助言者として学習者のサポートをする立場で授業を進めて行きます。

また正しい答えにたどり着くことが重要ではなく、答えにたどり着くまでの過程(プロセス)が大切であるという学習理論のことで、1900年代初頭アメリカの教育学者ジョン・デューイが初めて教育現場で実践に取り入れたとされています。

PBLが注目される理由

このPBLは現在文部科学省が進める「アクティブラーニング」の教育方法として非常に注目を集めています。なぜ注目されているのか、理由を探っていきましょう。
そこでまずはPBLが重要視されている理由を知る前に、文部科学省が力を入れている「アクティブラーニング」について理解する必要があります。アクティブラーニングの目指すところは「正解・解答のある課題に取り組み知識・技能を得ること」ではなく、「正解のない議論(課題)を通して問題解決へのアプローチ方法を身につけること」です。最終的に「主体的・協働的に問題を発見し、解決する能力」を養うことを目的としており、文部科学省が力を入れているのは、そういった能力をこれからの子どもたちに身につけさせたいからです。

問題解決型学習の2つの方法

ここまで問題解決型学習の定義と教育現場へ導入することが注目されている理由について述べてきましたが、今度はPBLの教育方法について触れていきましょう。まずはPBLの大まかな流れをご説明します。PBLでは次に挙げる6つのステップを踏んでいきます。

① 問題に出会う(テーマを決める)

② どうしたら解決できるのか実践的・論理的手法によって考える(解決策を考える)

③ 相互に話し合い、何を調べるのか明確にする

④ 自主的に学習する

⑤ 新たに獲得した知識を問題に適用する

⑥ 学習したことを要約する。

このすべてのプロセスを経ることで、最終的にこれらの過程で答えにたどり着くまでの過程(プロセス)自体が重要であるということを学習するのです。

PBLの教育方法には「テュートリアル型」と「実践体験型」の2つ方法があります。「テュートリアル型」は一つの課題に対して仮説をたて、仮説を先ほど紹介した6つのステップにそって検証していく方法です。一方「実践体験型」は課題を実社会の中に設定し、民間の企業など実社会に入り込みながら、6つのステップを踏んで問題を検証していく方法です。2つの方法のうち「テュートリアル型」の方が実施が容易なためPBLの主流な学習方法として行われています。

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PBLとSBL(subject-based-learning)はどう違うのか?

PBLはもともと医学教育から始まっています。なぜ医学教育の現場から始まっているかというと、SBL(Subject-based Learning)と呼ばれる旧来の暗記型、基礎から応用に順次進んでいく学習法では、自分たちが学習している膨大な知識を医療の現場と結びつけて考えることが難しいという問題点が医学教育にあったからです。そこで解決策として、PBLにより、医療現場には知識が必要であるということを実感してもらい、共に医療現場で従事するグループに貢献することの重要性を学習するとともに、医療現場につながる知識学習に対するモチベーションを維持する方法として考案されました。

PBLについて書いたDonald R Woods著「Problem Based Learning – how to gain the Most from PBL」という本にはPBLとSBLについて、以下のように例示してあります。

”従来の学習方法であるSBLでは、生徒たちははじめに電気に関する一般的な知識を学習させられ、その中で電気の熱エネルギーへの変換が解説されます。続いて電気機器の原理や構造について学習し、機械の機能が想定した通りに動いているか確認するためテスターの使用方法などを学びます。最後に「故障したトースターを修理する方法」を課題として出されます。

PBLではSBLの学習順序とは真逆で、はじめに「故障したトースターがあります。これをトースターとして機能するように修理するか、修理が難しいようであれば、少しでも機能するようにしなさい」という課題が出されます。生徒は故障したトースターを修理するためには、どんな知識が必要であるのか、その知識を得るためにはどの分野について学習しなければならないのか、どういった道具が必要であるのか、道具を正しく使うための知識などの課題を生徒自身が見つけ出し、トースターを修理するという問題解決に向けてさまざまなアプローチを行います。

例えば、はじめに斜め45度の角度からトースターを叩くと機能するという仮説を立てて機能回復を図ろうとする生徒がいるかもしれません。しかし、その方法では最終目標の修理までは到達できないことがわかり、構造を学び、電気に関する知識を学び、熱エネルギーについて生徒自身が自発的に学んで行き、課題であるトースターの修理まで能動的に学んでいくということがSBLとのプロセスの違いです。

教育効果の高いPBLの3つの特徴

すでに多くの大学がPBLを取り入れ、生徒の学習意欲を高めて、効率的な学習につなげています。教育効果が高いPBLには以下のような特徴ががあることが調査により判明しています。次からはその特徴をおさえ、チュートリアル型、実践型の授業をおこなっている学校の好例を紹介いたします。

■特徴①

教育効果を高めるための実践的なプログラムとして工夫されていること

(長期、有給、PBL型、海外、地域連携、低学年向けなど)

■特徴②

生徒・企業に対するサポート体制が確立されていること

(コーディネーターを配置している、実習内容を適切に評価する仕組みを整備しているなど)

■特徴③

大学などにおいてはインターンシップの実施にあたって組織的に関与していること

(単位化している、希望者全員を受け入れる体制を整備等)

チュートリアル型PBL授業の進め方 三重大学

三重大学ではPBLを「学生による主体的な学習活動が中心の授業」のことと定義しており、教員の役割は何かを教えることではなく、学生の学習を支援することとしています。またPBL授業には次のような特徴があるとしてます。

・4〜8人(授業によって変わります)の学生で1つのグループを作り、学習に取り組む

・予備知識に関わらず取り組むべき問題事例が示される

・グループで問題解決のための学習計画を立てる

・授業時間外に個人で自己学習を進める

・学習に必要な学習資源(文献・資料)も自分出て適切なものを選択する

PBLの授業の進め方の一例として、次のようなものが示されています。

まず、授業時間内で生徒にとって身近な、もしくは卒業後の仕事の場面で直面する問題や課題を示す事例問題が教師から提示されます。次に教師から提示された課題について、生徒たちが主体となって全体で問題の本質が何か考え、解決のために何を学習すべきか決め、またどのような学習資源で学ぶかを決め、次回までの学習計画を立てます。生徒たちが話し合っている間、教師はファシリテーター(促進者)として支援を行います。

そしていよいよ、生徒が能動的・自主的に動き出す場面です。授業時間外に自己学習として行った活動や調査など学習内容を記録して、生徒のグループメンバーに報告する用意を整えます。

次の授業時間では、全体で自己学習成果の報告を行い、学習内容に基づいて問題解決案の作成や追加的に学習すべき内容をリストアップしていきます。必要であればもう一度授業時間外で自己学習を行い、また全体で自己学習の成果報告・課題解決案の作成を繰り返す場合もあります。

そして、授業時間内もしくは授業時間外で教師の支援を受けながら、生徒自身で行った自己学習をもとにグループとしての課題に対する成果発表の準備を行います。ここでも効果的なプレゼン方法はどういったものかなど生徒たち自身が考え、より良い方法をグループで作り上げて行きます。

最後に自己学習とグループで学習した成果を全体の前で発表し、教師の評価を受けて、PBL授業は終了となります。

あくまでPBL授業の一例ですが、三重大学が取り入れているPBL授業では、いかに学生が主体的に授業に取り組まなければならないのか、教師の役割はどんなものかがよくわかる好例となっています。

(出典:三重大学 学生向けPBLガイド 1.PBL形式の授業について)

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実践型 PBL授業の進め方  小樽商科大学

小樽商科大学では、実践体験型のPBLとして小樽を中心とした北海道後志エリアの自治体や民間企業等との協働で実施しています。地域課題解決や経済活性化のプロジェクトを3〜6ヶ月間の中長期に渡って実施しています。そしてその過程において、学習動機や理論・手法の応用力の獲得、プロジェクトマネジメントを通して社会人基礎力の獲得や向上を目指しました。

次からは、実際に行われた授業の流れを紹介します。

①事前学習

このPBLを実践した授業では学生がプロジェクトを考えて取り組む「提案課題型」コース、または大学から与えられたテーマに取り組む「選択課題型」コースの2つのコースから学生が自らコース選択をすることができます。選択後にはプロジェクトの事前学習として、目的や課題の確認、対企業のマナー講習、スケジュール作成、達成目標の設定などを行います。

②実習

事前学習が終わると実習に入ります。6ヶ月の実習の場合、1ヶ月目は商店街の現状把握、観光客動向調査などを実施。2ヶ月目〜3ヶ月目は、商店街でのヒアリングを実施しました。さらに調査などでわかった結果を踏まえて、認知度アップのための事業を商店街振興組合と共同で検討を開始。4ヶ月目~5ヶ月目には、事業内容の検討結果などの中間発表会を開催しています。また、その発表会での意見を踏まえて、商店街振興組合と事業の再検討を実施。最後の6ヶ月目には、再検討結果を最終成果報告会で発表して、成果物を大学と商店街振興組合に提出しています。

■実施結果

これらの実習により、地域コミュニティの課題への学生の関心や理解度の向上、またプロジェクトを通して実践知の向上などが見られました。学生が自らコースを選択できるので、より自分が関心のあることに意欲的に取り組めるようになっています。また、商店街振興組合とのやり取りも多くあり、学習できる機会が確保されていることが好事例の要因と言えるでしょう。

まとめ

PBLの基礎的な知識から導入のポイント、手法や事例についてご紹介してきました。PBLを実践する際には、導入事例を参考に各校の評価のポイントを抑えて学習すれば、より質の高い学びの機会を得ることができるでしょう。この記事で紹介したことを活かして、PBLを日々の授業に取り入れてみてください。

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部