キャリア教育コラム

PBL(問題解決型)授業とSBL(科目進行型)授業との違いは

更新日:2018/07/11

最近アクティブラーニングという言葉が教育現場で使われています。アクティブラーニングは生徒が自主的に学習を進めるよう促す一つの方法ですが、そのひとつにPBLという学習方法があります。今までの学習方法と言われているSBLとの違いはどこにあるのか、また、PBLの授業はどのように行われており、どのような効果が期待できるのか見ていきましょう。

 

 

1.PBLとは

「PBL」という言葉をご存知でしょうか。PBLはProblem-based Learning、直訳すると課題を基にした学習法となり、生徒が答えが一つに決められていない問題について、解決する経験を通して学んでいく学習方法を指します。アメリカの教育学者ジョン・デューイによって提言された学習理論で、暗記型の学習法ではなく、生徒たちは答えが一つではない課題に対して、仮説をたて、自分たちで調査し、仮説が間違っていればまた新しい仮説を立てて検証していくということを繰り返します。既存の学習方法では問題を解決することが目的に設定されてきましたが、PBLでは問題解決に到達するその過程が学習であるとされています。

 

PBLを取り入れた教育現場では、生徒が主体となり、提示された課題についてまず生徒個人で考え、その意見をグループで話し合い、意見交換の中で課題への回答を出して行く過程を学ぶというように活用されています。

 

また、PBLとは別に「アクティブラーニング」という言葉が教育現場でよく聞かれるようになってきています。

 

突然ですが、今までのよくある授業風景を想像してみてください。教師が教壇に立ち、生徒に一方通行で語りかけ、重要なことを板書しており、授業を受けている生徒は先生の話を聞き、先生の質問に答え、板書をノートに写す風景が思い起こされるでしょう。

 

一方、アクティブラーニングは生徒が能動的に課題に取り組む学習方法のことを指します。今までの授業との違いは、生徒は課題について自分で回答を考え、同じ課題を共有するグループメンバーと回答についてディスカッションを行い、知識を交換して課題に対して答えを出して行く、能動的に課題に取り組む学習方法であることです。

 

PBLとアクティブラーニングには類似点が見出せますね。PBLはアクティブラーニングの一つの手法とされています。

 

2.PBLとSBL(subject-based-learning)はどう違うのか?

PBLはもともと医学教育から始まっています。なぜ医学教育の現場から始まっているかというと、SBL(Subject-based Learning)と呼ばれる旧来の暗記型、基礎から応用に順次進んでいく学習法では、自分たちが学習している膨大な知識が医療の現場と結びつけて考えることが難しいという問題点が医学教育にあったからです。そこで解決策として、PBLにより、医療現場には知識が必要であるということを実感してもらい、共に医療現場で従事するグループに貢献することの重要性を学習するとともに、医療現場につながる知識学習に対するモチベーションを維持する方法として考案されました。

 

 

PBLについて書いたDonald R Woods著「Problem Based Learning – how to gain the Most from PBL」という本にはPBLとSBLについて、以下のように例示してあります。

 

”従来の学習方法であるSBLでは、生徒たちははじめに電気に関する一般的な知識を学習させられ、その中で電気の熱エネルギーへの変換が解説されます。続いて電気機器の原理や構造について学習し、機械の機能が想定した通りに動いているか確認するためテスターの使用方法などを学びます。最後に「故障したトースターを修理する方法」を課題として出されます。

 

PBLではSBLの学習順序とは真逆で、はじめに「故障したトースターがあります。これをトースターとして機能するように修理するか、修理が難しいようであれば、少しでも機能するようにしなさい」という課題が出されます。生徒は故障したトースターを修理するためには、どんな知識が必要であるのか、その知識を得るためにはどの分野について学習しなければならないのか、どういった道具が必要であるのか、道具を正しく使うための知識などの課題を生徒自身が見つけ出し、トースターを修理するという問題解決に向けてさまざまなアプローチを行います。

 

例えば、はじめに斜め45度の角度からトースターを叩くと機能するという仮説を立てて機能回復を図ろうとする生徒がいるかもしれません。しかし、その方法では最終目標の修理までは到達できないことがわかり、構造を学び、電気に関する知識を学び、熱エネルギーについて生徒自身が自発的に学んで行き、課題であるトースターの修理まで能動的に学んでいくということがSBLとのプロセスの違いです。”

 

3.PBL授業の流れの一例

 

実際にPBLを利用した授業の内容を見ていきましょう。

三重大学ではPBLを「学生による主体的な学習活動が中心の授業」としており、教員の役割は何かを教えることではなく、学生の学習を支援することとしており、次のような特徴があるとしています。


・4〜8人(授業によって変わります)の学生で1つのグループを作り、学習に取り組む
・予備知識に関わらず取り組むべき問題事例が示される
・グループで問題解決のための学習計画を立てる
・授業時間外に個人で自己学習を進める
・学習に必要な学習資源(文献・資料)も自分出て適切なものを選択する ”

 

PBLの授業の進め方の一例として、次のようなものが示されています。

 

 

まず、授業時間内で生徒にとって身近な、もしくは卒業後の仕事の場面で直面する問題や課題を示す事例問題が教師から提示されます。次に教師から提示された課題について、生徒たちが主体となって全体で問題の本質が何か考え、解決のために何を学習すべきか決め、またどのような学習資源で学ぶかを決め、次回までの学習計画を立てます。生徒たちが話し合っている間、教師はファシリテーター(促進者)として支援を行います。

 

そしていよいよ、生徒が能動的・自主的に動き出す場面です。授業時間外に自己学習として行った活動や調査など学習内容を記録して、生徒のグループメンバーに報告する用意を整えます。

 

次の授業時間では、全体で自己学習成果の報告を行い、学習内容に基づいて問題解決案の作成や追加的に学習すべき内容をリストアップしていきます。必要であればもう一度授業時間外で自己学習を行い、また全体で自己学習の成果報告・課題解決案の作成を繰り返す場合もあります。

 

そして、授業時間内もしくは授業時間外で教師の支援を受けながら、生徒自身で行った自己学習をもとにグループとしての課題に対する成果発表の準備を行います。ここでも効果的なプレゼン方法はどういったものかなど生徒たち自身が考え、より良い方法をグループで作り上げて行きます。

 

最後に自己学習とグループで学習した成果を全体の前で発表し、教師の評価を受けて、PBL授業は終了となります。

あくまでPBL授業の一例ですが、三重大学が取り入れているPBL授業では、いかに学生が主体的に授業に取り組まなければならないのか、教師の役割はどんなものかがよくわかる好例となっています。

 

(出典:三重大学 学生向けPBLガイド 1.PBL形式の授業について

 

4.まとめ

 

PBLは従来の授業形式と授業目的が全く違うことがわかります。PBLは生徒たちに大きな課題を与えて、その課題解決に至るであろう方法を生徒たち自身で学習し、探し出すという過程そのものが学習内容です。従来の学習と違うのは生徒たち自身が課題や問題を解決するために自発的に情報を集めたり、学習するという点にあり、より生徒の学習に対するモチベーションを保ちやすくなっているのがわかります。

 

今までの系統立てて必要な知識を生徒に暗記させる学習方法と比べると一見非効率な学習方法に見えるかも知れません。しかし、PBLであれば、課題や問題を生徒自身が主体的に個人で、もしくはグループメンバーと協力しながら解決していくという能力が養われることが良くわかると思います。生徒が社会に出て直面する多くの課題や問題は暗記した知識だけで解決できないものが多くあります。そこでPBLで培った問題解決の方法論やプロセスが生徒たちの社会を生き抜く力になるのではないでしょうか。

 

 

■参考
東北福祉大学 TFUリエゾンゼミ・ナビ 『学びとの出会い』 「8章 学びの基本編

サイエンティフィック・システム研究会 2008年度 教育環境分科会 第1回会合 「PBL(Problem Based Learning):問題解決型授業事例報告 甲南大学情報教育研究センター 井上 明

三重大学 「学生向けPBLガイド 1.PBL形式の授業について

EdTech Media「PBL型授業とは?アクティブラーニングで教育的効果が高まる?

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部