2020年度から大学入試制度が大きく変わります。しかしまだ未確定な点も多く、具体的に今のセンター試験と比べどう変わるのか、教員の皆さんも情報収集に忙しいところではないでしょうか。ここでは2018年2月現在までに決まっている点をわかりやすくまとめました。実際の制度変更までまだ2~3年ありますが、まずは現時点で情報公開されている点だけでも理解していきましょう。
1.2020年から開始される大学入学共通テストとは?
2020年度から大学入学試験が大きく変わろうとしています。(正確には2021年1月に新しい大学入試制度の導入が開始。)これまでは大学入試センター試験が全国の受験生共通の大学入試試験でした。しかしこの大学入試センター試験は2020年1月(2019年度)の実施を最後に廃止され、2021年1月(2020年度)より新しい大学入試共通試験である「大学入学共通テスト」の実施がスタートします。
そこで大学入学共通テストについて、まずは簡単な概要をご説明しましょう。この「大学入学共通テスト」は2021年1月より実施されるため、2018年4月に高校に入学する今の中学3年生から受験対象となります。また、現行の学習指導要領で学んでいる2020〜2023年度に大学受験をする生徒と、次期学習指導要領で学ぶ2024年度以降に受験する生徒では、出題・解答方法などの制度設計を分けて検討が進められています。現段階では2020〜2023年度の大学入学共通テストの出題教科・科目は現在のセンター試験と同じ30科目が予定されていますが、2024年度以降は簡素化する方向で検討がされています。ちなみに実施時期については現在のセンター試験と同じ1月中旬の2日間となります。
2.これまでのセンター試験との違い
では新しい大学入試制度「大学入学共通テスト」の簡単な概要について理解したところで、これまでのセンター試験と大きく異なる点はどのようなところか、みていくことにしましょう。(尚、本項目でご説明する大学入学共通テストについては2020〜2023年度に実施される試験内容です。2024年度以降は次期学習指導要領で学んだ生徒向けに試験内容が変わる可能性があります。)
まずこれまでの大学入試センター試験から大きく変更される点は、これまで全科目マークシート方式で実施されていましたが、数学と国語の試験に一部記述式問題が導入されることと、英語の試験では「読む、聞く、話す、書く」という4つの技能が評価されるという2つの点です。(ちなみに2024年度以降は地理歴史・公民や理科分野でも記述式問題の導入が検討されています。)
記述式問題については国語の場合、80〜120字程度で回答する問題が3問、古文・漢文を除く範囲の中から出題されます。これに伴い試験時間も現在の80分から100分程度に延長されます。数学の場合は、「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・数学A」の受験者を対象に「数学Ⅰ」の範囲より3問程度記述式問題が出題されます。これに伴い試験時間も現在の60分から70分程度に延長されます。そしてこれら記述式問題の評価については、3〜5段階程度の段階別で評価される予定です。
また英語の試験については大きく変わることが検討されており、民間の資格・検定試験を活用し「読む、聞く、話す、書く」という4つの技能を評価するものとなります。文部科学省が2017年7月に公表した「大学入学共通テスト実施方針」の中では、活用できる民間の資格・検定試験について確定したものを出してはいないので、今後どのような資格・検定試験が導入されるのか動向をチェックする必要があります。
また、受検者が活用できる英語の資格・検定試験は高校3年生の4〜12月の間の2回までの試験結果です。活用したい資格・検定の試験出願時に大学入試センターへ成績を送付することを申告すると、大学入試センター側が試験の成績をCEFR(外国語の学習・教授・評価のための国際指標)をもとに段階別評価をし、その評価結果が受験する大学へ送付されることになります。
(資格・検定試験の成績の有効期限や既卒者の対応については現在未定です。また、2023年度までは大学入試センターが実施する大学入学共通テストにおいても英語のテストは実施します。資格・検定試験と大学入学共通テストの試験結果いずれか、もしくは両方を活用するのかは各大学の判断に委ねられることになります。)
3.「思考力」「判断力」「表現力」を磨くために注目されるアクティブ・ラーニング
ここまで「大学入学共通テスト」がこれまでの大学入試センター試験とどのように異なるのか試験内容についてご説明しましたが、大学入学共通テストに向けて今後どのような試験対策を行えば良いのでしょうか。試験内容が一新されることにより、試験対策に関してもこれまでのような勉強をしていては太刀打ちできません。そこで試験対策について考える前に「大学入学共通テスト」ではどのような「力」が試されるのか理解する必要があります。
大学入学共通テストがこれまでの大学入試センター試験と大きく異なる点は記述式問題が導入されることです。この記述式問題では「思考力・判断力・表現力」の3つの力が必要となります。これまでの大学入試センター試験はマークシート方式で、「知識・技能」のみを問う試験でした。しかし一部記述式問題が出題されることで、「知識・技能」だけでなく「思考力・判断力・表現力」という新たな力が重要になってくるのです。
そこで注目されているのが「思考力・判断力・表現力」の3つの力を磨くことができる「アクティブ・ラーニング」です。「思考力・判断力・表現力」はこれまで主流であった「正解・解答のある課題」に取り組む勉強法では身につけることはできません。これら3つの力を身につけるためには、「正しい知識の修得ではなく、正解のない議論(課題)を通して問題解決へのアプローチ方法を身につける」必要があります。そしてこの力こそ「アクティブ・ラーニング」により学ぶことができるのです。
具体的な「アクティブ・ラーニング」の学習方法としては、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などがあります。また、グループディスカッション、ディベート、グループワークなどもアクティブ・ラーニングとして非常に取り入れやすい学習方法です。これらの課題に取り組むことで問題(課題)に対してより深いアプローチ方法で能動的に問題を解決する方法を学ぶことができ、「思考力・判断力・表現力」が養われていきます。よって「大学入学共通テスト」の試験対策には「アクティブ・ラーニング」を積極的に取り入れることが重要になっていきます。
4.アクティブ・ラーニングが導入される背景
「大学入学共通テスト」に向けた対策として「アクティブ・ラーニング」の必要性をご説明しましたが、教育現場で「アクティブ・ラーニング」の導入が積極的にすすめられている背景には他にも理由があります。その理由というのは現代日本の抱える社会問題と大きく関係しています。
少子高齢化、グローバル化への対応、人口減少など、これからの子どもたちがこの先成長して社会で活躍する頃には、これらの問題がさらに深刻化し厳しい挑戦の時代へ入ることになるだろうと言われています。そしてこれらの問題に立ち向かい、生き抜くためには「主体的・協働的に課題を発見し解決する力」が必要とされているのです。
この「主体的・協働的に課題を発見し解決する力」を身につけるためには、これまで主流であった「正しい知識の修得や正解・解答のある課題を教える」教育ではなく「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ」という学びの質と深さを重視した教育が必要であり、それが「アクティブ・ラーニング」なのです。
5.まとめ
2021年1月より正式にスタートする「大学入学共通テスト」。現段階ではまだはっきり決まっていないことも多く、教育現場では対策に向けて何をどう指導したら良いのかわからないところもあることでしょう。しかしこの大学入学共通テストで「問われる力」はこれまでのような「知識や技能だけで解決できる力」だけでなく、「問題(課題)に対してより深いアプローチ方法で能動的に解決し、示す力」も試されるということははっきりしています。
そこでまずは「大学入学共通テスト」に向けた第一歩として、新たな教育法「アクティブ・ラーニング」の活用に積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
■参考
NHKウワサの保護者会『入試が変わる?授業が変わる?アクティブラーニングって何?』
河合塾Kei-Net『こう変わる!大学入試』
文部科学省『新しい学習指導要領の考え方 用語集』