コーオプ教育は大学が主体となって行われるアメリカ発祥の就業体験プログラムであり、学生が企業などで就業体験するという点でインターンシップと似ています。しかしコーオプ教育における就業体験は大学教育や学生の専攻分野と密接に結びついており、多くのインターンシップよりも実践的な内容になっています。
また、就業体験が単位として認められることや報酬(給与)が出ることもコーオプ教育の特徴です。コーオプ教育を通して学生・大学・企業それぞれが最大限のメリットを得られるよう、さまざまな工夫が凝らされています。
コーオプ教育とは
コーオプ教育(Cooperative Education)は大学などの教育機関が企業・団体などと連携して実施する就業体験プログラムであり、「CO-OP教育」「産学連携教育」などと呼ばれることもあります。
学生が企業などで就業体験をするという点においてコーオプ教育とインターンシップはよく似ていますが、両者の間にはさまざまな違いがあります。
コーオプ教育の成り立ち
1906年、アメリカ・シンシナティ大学のハーマン・シュナイダー教授が考案した「大学のカリキュラム(理論)と、カリキュラムと同程度の教育価値を持つ就業体験(実践)が強く結びついた教育システム」がコーオプ教育の始まりとされています。
当初コーオプ教育は主に工学系学生を対象として実施されてきたものの、1919年以降は次第に他の学部にも浸透していきました。その背景には、当時の大規模な産業構造変革に伴う労働力への需要の高まりがありました。また、経済的に恵まれない学生や社会人に対して働きながら学ぶ機会を提供するという側面もありました。
1960年代にはアメリカ政府がコーオプ教育に対する財政支援を実施し、コーオプ教育が飛躍的に発展しました。ピーク期となる1986年には、米国内の全高等教育機関の約3分の1に当たる1,012校でコーオプ教育プログラムが開講されました。
しかし1990年代に入り政府の財政支援制度が終了すると、プログラム実施校は大幅に減少しましたが、産業人材の育成において確実な成果を上げてきたことでコーオプ教育に対する社会からのニーズは確実なものとなりました。現在でも、アメリカでは年間約20万人がコーオプ教育プログラムを受講しています。
コーオプ教育の定義
コーオプ教育は学内での授業と学外での就労経験型学習を組み合わせたプログラムで、学生・大学・企業それぞれが最大限のメリットを得られるよう設計されています。現在、コーオプ教育は先進諸外国・アジア諸国・アフリカ諸国など世界各国に広がりつつあります。
学生は一定期間企業などで就労することで、就業経験とともに大学の単位や企業からの報酬(給与)を得ることができます。単なるアルバイトや社会見学とは異なり、専門分野と関連の深い生産的な業務に従事します。
コーオプ教育において就業体験は複数回(大学での学習時間の3〜5割程度)設けられ、正式に成績評価・単位認定の対象となります。就業体験中の指導や評価は企業が実施しますが、大学側でもこまめに進捗確認やフォローを行います。
アメリカでの定義
全米コーオプ教育委員会では、コーオプについて以下のように定義しています。
教室での学習と、学生の学問上・職業上の目標に関係する分野での有益な職業体験とを統合する、組織化された教育戦略。これにより理論と実践を結びつける漸進的な経験を提供する。コーオプ教育は学生、教育期間、雇用主間の連携活動であり、当事者それぞれが固有の責任を負う。
(引用元:平成29年度「全国キャリア・就職ガイダンス」講演資料_京都産業大学・松高先生)
コーオプ教育実践時に重視されること
コーオプ教育の詳細な定義や受講生の選抜方法・実践方法などに関して、実践する教育機関によって微妙に異なる場合があります。しかし、どの機関においても以下の項目は必ず重視されます。
・組織的教育戦略
・漸進的(段階的)
・学生・企業・学校の連携活動
・全当事者が固有の責任を持つ
これらの項目を前提としてコーオプ教育における人材育成の目標を企業と大学が設定し、その目標を実現させるプログラムや指導方法をともに開発することで、学生の能力や意欲を継続的に高めるねらいがあります。
インターンシップとコーオプ教育の違い
日本国内では、大学生・高校生などを対象とする実践型人材育成プログラムとしてインターンシップが有名です。インターンシップとコーオプ教育の間には、以下のような違いがあります。
インターンシップは基本的に企業主体でカリキュラムが作成され、就業体験そのものが重視されるために業務内容と専門分野の関連性が低いケースも少なくありません。一方コーオプ教育は大学主体でカリキュラムが作成され、学生は自らの専門分野と関係が深い業務を体験することができます。
インターンシップの場合、多くの場合、実施期間は数日〜1ヶ月程度と短めです。一方コーオプ教育の実施期間は2~3ヶ月以上がほとんどでとインターンシップよりも長く、大学側からのフォローもこまめに行われます。また、就業体験に必要なビジネスマナーなどは事前に大学で教育されます。
インターンシップはあくまで就職活動の一部と見なされ、大学の単位として認められないケースが大半です。また、短期インターンシップの多くは原則無給(就業体験そのものが報酬と見なされる)となります。一方コーオプ教育は大学の単位として認められ、原則として学生に給与が支払われます。
コーオプ教育 国内の事例
日本の大学では、1990年代から欧米で実施されてきた単位認定型インターンシップを参考としてコーオプ教育が導入され始めました。
国内におけるコーオプ教育の実施例について、以下に解説します。
東京工科大学
東京工科大学は、国内でいち早く「単位認定される正規授業」としてコーオプ教育を導入した大学のひとつです。
工学部で実施されているコーオプ教育は2015年度に文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(Acceleration Program)」に採択され、最長5年間国から支援を受けながら実施されています。また、2018年度には同省「大学などにおけるインターンシップ表彰」で優秀賞を受賞しました。
工学部では、1年次からコーオプ教育の一連の流れを履修するカリキュラムが整えられています。1~2年次では準備として主体的・協働的に学ぶ姿勢や経済社会についての知識などを身につけ、自己分析や就業目標設定などを行います。2~3年次に約8週間の就業体験を行い、成果報告や討論会を経て卒業課題につなげます。
コーオプ教育の運営は、学内に設置されたコーオプセンターで行われます。センターにはコーオプ教育専門のスタッフが常駐しており、コーオプ教育を実施する企業の開拓や企業・大学双方の意見を反映したプログラム開発などのさまざまなサポートを行っています。
実際にコーオプ教育を体験した学生からは、「大学の研究活動に役立つスキルを得られた」「コーオプ実習の経験を活かして自国の産業発展に貢献したい(海外からの留学生)」などの声が寄せられています。
京都産業大学
京都産業大学の実践教育重視プログラム「O/OCF (オン/オフ・キャンパスフュージョン)」は、サンドイッチ方式(学内と学外で交互に学びを繰り返す方式)のコーオプ教育プログラムです。このプログラムは、2004年度には文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に採択されました。
この採択がきっかけとなって現在の「キャリア教育センター」が発足し、さらにPBLとO/OCFを組み合わせた「O/OCF-PBL」が開講されました。(PBL授業については、キャリア教育コラム「PBL授業 ~PBL学習を活用した能動的課題解決型授業とは~」などでも詳しく解説しています)
2008~09年度には、経済産業省「体系的な社会人基礎力育成・評価システム開発実証事業」のモデル大学に採択されました。2010年度にはそれまで教養教育として実施してきたコーオプ教育を学部専門教育と協働させることを目指し、全学展開を図ることになりました。
2012年度以降、この取り組みは「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業【テーマB】インターンシップ等の取組拡大」「大学間連携共同教育推進事業」などに採択されています。
卒業生を対象としたアンケートでは、「満足できる大学生活を送れたか?」という問いに対してコーオプ教育プログラム履修経験者の80%以上が「そう思う」「ややそう思う」と回答しています。一方、同じ問いに「そう思う」「ややそう思う」と答えたプログラム履修未経験者は70%程度にとどまっています。
立命館大学
立命館大学のコーオプ演習は、3回生以上の学部生及び1回生以上の大学院生を対象とした産官学連携による課題解決型学習(PBL)です。さまざまな学部・研究科の学生からなるチーム(5~8名)で、企業・団体から提示された現実の課題に取り組み課題解決に向けた企画提案を行います。
原則として学生が課題提示先の企業・団体へ通うことはなく、約半年間キャンパス内で自律的に調査・企画立案作業を進めます。過去の課題テーマ例として「インターネットを利用したピアノ卸売りの方法の模索」「取出ロボットの省電力化」などがあり、学生ならではの企画が課題提示先で実際に採用された例もあります。
プログラムを受講した学生からは「辛いこともあったが、大きく成長できた」「多様性のあるチームで課題に取り組むことで、貴重なアイデアや議論が生まれた」などの声が挙がっています。
全ての当事者が最大限のメリットを得られるコーオプ教育
20世紀初頭にアメリカで生まれたコーオプ教育は、現在世界各国に普及しつつあります。日本国内ではインターンシップに比べてまだ知名度が低いですが、企業主体で実施されるインターンシップに対してコーオプ教育には大学主体で実施されるという特徴があります。
コーオプ教育における就業体験は、インターンシップよりも長期です。しかし、コーオプ教育には就業体験を通して大学の単位や報酬を得られる、そして専攻分野と深く関連する業務の中で自分の強みを活かしやすいなどのメリットがあります。
学生が高いモチベーションを保ちつつ自身の強みをしっかり活かして働くことで、受け入れ先企業もまたメリットを得やすくなります。全ての当事者が最大限のメリットを得られるコーオプ教育は、今後ますます注目されるでしょう。
■参考
独立行政法人日本学生支援機構 平成29年度「全国キャリア・就職ガイダンス」講演資料_京都産業大学
・京都産業大学
京都産業大学経済学部、京都産業大学キャリア教育研究開発センター 田中寧「(研究論文)コーオプ教育の歴史と現状、および、日本における展開とその課題」(高等教育フォーラム第3号抜粋 平成25年3月)
「コーオプ教育(Cooperative Education)」
「コーオプ教育(Cooperative Education)紹介パンフレット」
・立命館大学
「インターンシップ・コーオプ教育」