• HOME
  • お知らせ
  • 探究学習指導の上で教員も知っておきたいトピックス(経済編)

お知らせ

探究学習指導の上で教員も知っておきたいトピックス(経済編)

更新日:2025/10/29

高校の「総合的な探究の時間」において、生徒が社会や未来を自ら問い、調べ、考え、発表する力を養うことがますます重要になっています。

特に、マイナビキャリア甲子園のような校外のビジネスコンテストに生徒を参加させる際、ビジネスや経済に関する基本的知識を持っておくことは重要なポイントでしょう。

ビジネスや経済の視点を取り入れた社会課題は、「生徒のキャリア・将来観」ともつながりやすく、生徒の主体的な学びを促す絶好のテーマとなります。2025年10月現在、日本では賃金・物価・働き方・産業構造・技術革新といった経済変化が顕著で、これらを切り口に「社会課題×探究」の授業設計を考える好機です。本記事では、最新のデータ・時事トピックを踏まえ、高校生が扱いやすく、かつ教育的な意味も深いビジネス・経済系社会課題を3つ厳選してご紹介します。教員として、探究の出発点・問い立て・展開のヒントとしてご活用ください。


① 労働力不足と産業構造の変化 – 地域・企業・キャリアの視点

日本では、人口減少・少子高齢化の進展に加え、企業・地域が「人手が足りない」「働き手を確保できない」といった課題を強く意識する状況が続いています。例えば、OECDのレポートでは、2025年5月時点での日本の失業率は約2.5%と極めて低水準であるものの、雇用の伸びが鈍化し、労働市場のひっ迫感(タイトさ)が弱まりつつあると指摘されています。また、2025年8月には失業率が2.6%となり、前年同月から上昇傾向にあるとの報道もあります。
さらに、産業別にみると「宿泊・飲食」「小売」「介護・福祉」などでは需給ギャップ、つまり「働き手を求めても確保できない」状況が継続しています。
この背景を探究テーマとして扱うなら、生徒には以下のような問いを設定できます:

  • 「地域の〇〇業界(例:飲食、物流、介護)では、なぜ人手が集まりにくいのか?その構造的・社会的背景は何か?」
  • 「その人手不足に対して企業や自治体が行っている対策(賃上げ、働き方改革、外国人材、テクノロジー導入など)はどれほど成果を出しているか?」
  • 「この人手不足が地域の消費・賃金・業態・若者の就業意識にどう波及しているか?」
    探究の展開としては、地域企業や自治体へのインタビュー、求人統計や求人倍率の読み解き、若者(高校生・卒業生含む)へのアンケートなどを組み込むと説得力が増します。教員としては、統計資料(求人倍率・失業率・転職率など)を生徒とともに読み解く時間を設け、「問いを立てる→調査方法を設計する→分析する」という探究プロセスを伴走支援するのが効果的です。

② 賃金・物価・消費の変化 – 若者・企業・キャリアとの接点

2025年10月時点で、日本の賃金・物価・消費の関係性は「変化の端緒」にあります。例えば、実質賃金(物価上昇を差し引いた賃金)は、2025年8月に前年同月比で1.4%減少しました。これは名目賃金の上昇(1.5%)を物価上昇(3.1%)が上回った結果です。また、2025年9月にはサービス生産者物価指数(企業が企業に請求する価格)が前年同月比3.0%上昇しており、労働集約型サービス分野で価格上昇圧力があることが示されています。
これらを探究テーマとすると、生徒に次のような問いを投げることができます:

  • 「価格が上がる(インフレ)なかで、学生・若者の消費行動(外食・サブスク・ファッション・デジタルサービスなど)はどう変わっているか?」
  • 「企業が『値上げ』を検討・実施する背景と、消費者がそれを受け入れる条件とは何か?」
  • 「賃金上昇と実質賃金のギャップが、若者のキャリア選択・副業志向・就職観にどのように影響しているか?」
    探究の手法として、身近な商品の価格変動を追跡し、グラフ化・データ分析を行ったり、消費者(高校生・保護者)アンケートを活用したり、地域の店舗・チェーン店を訪問して値上げ実態をヒアリングする方法があります。教員としては、インフレ・実質賃金・可処分所得の関係性を整理した資料を配布し、生徒が「仮説→調査→分析→提案」の流れを意識できる支援を行うと良いでしょう。

③ グローバル連携・サプライチェーン変化・DX(デジタルトランスフォーメーション) – 地域×企業×未来

日本経済は、国内市場の縮小・人口減少という構造的課題を抱えるなか、グローバルなサプライチェーンの変化や技術革新(DX・AI・ロボット化)によって新たな産業・働き方のあり方を模索しています。例えば、International Monetary Fund(IMF)のワーキングペーパーでは、「人口高齢化が労働生産性・労働力確保を圧迫しており、AI・ロボット導入がその対策となりうるものの、日本は他先進国に比べてAIによる代替可能性が低く、技術移転・スキル移動が課題」と分析されています。
また、国内では2025年10月時点で最低賃金の全国平均上昇率が過去最高水準(約6.3%)となる見込みという分析も出ています。
生徒には、次のような問いを提示できます:

  • 「自分の住む地域・都道府県で、製造業またはサービス業のグローバル化・内製化・輸出依存の変化はどうなっているか?」
  • 「企業が製造・物流・販路を見直すなかで、地域の雇用・賃金・業態・若者の就業意識はどう影響を受けているか?」
  • 「DX・AI・ロボットを導入する企業や業界では、若者のキャリアパス・必要スキル・働き方はどう変わっていくか?」
    探究活動としては、地元企業・工場・スタートアップへのインタビュー、製造・サービス業の海外展開事例の分析、地域産業マップ(過去と現在)の比較などが効果的です。教員は、グローバル経済・貿易・地域経済・産業構造変化を整理した資料を用意し、生徒が「地域×世界」「企業×社会」「技術×人材」という視点を交錯させて問いを立てられるよう支援すると探究の深まりが期待できます。

総 括

今回は、2025年10月時点の最新経済・ビジネス状況を踏まえた探究学習のための社会課題3選として、「労働力不足と産業構造」「賃金・物価・消費の変化」「グローバル連携・構造変化・DX」をご紹介しました。いずれも、生徒が「社会の動き」「企業の戦略」「自分のキャリア・未来」の三つを同時に考えることができるテーマです。
教員としては、生徒が設定する問いに対して、現時点のデータ・報道資料・地域事例を整えておくことが非常に重要です。また、生徒が探究の過程で「問い立て→調査→分析→提案」の流れを意識できるよう、探究設計のフレーム(問い設計・手法・振り返り)を共有しておくと好ましいでしょう。

     

執筆者:Strobolights