クリティカルシンキング(Critical Thinking/批判的思考)は単なる物事のあら探しではなく、物事の本質を見つめ、最適解を追求するためのポジティブな思考法です。クリティカルシンキングを身につけておくと、ビジネスだけでなく学習や日常生活にまつわる課題の発見・解決にも役立ちます。
このコラムでは、クリティカルシンキングの定義や思考方法に関する説明とクリティカルシンキングを学ぶために役立つ参考書籍を紹介します。
クリティカルシンキングとは その意味と定義
課題の解決方法を探るとき、自分の感情や誰かの意見に流されたり物事の一部だけを見たりすると的確な判断が難しくなります。クリティカルシンキングは、あらゆる物事や意見を客観的に捉え「なぜそうなるのか」「本当に正しいのか」と自ら問い続けることで物事の本質を見つめ、最適解を追求します。
クリティカルシンキングは、しばしばロジカルシンキングと混同されることがあります。ロジカルシンキングは、情報を整理・分析することで物事を論理的に考える思考法です。課題解決に際してロジカルシンキングだけを用いた場合、思考の目的や前提条件が変わると結論が大きく変わることもあります。
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次に、クリティカルシンキングの基本的な進め方や注意点について解説します。
思考の目的を常に意識する
思考を始める前に、思考の目的を明確にする必要があります。目的をはっきり決めないまま思考や議論を始めると、目の前の問題や小手先の解決手段に気を取られて思考の本質を見失いやすくなります。また、途中で論点がどんどんずれて本来の目的からかけ離れてしまうこともあります。
例として、「グループワークをもっと効率よく進めるにはどうすればいいか」という目的について考えてみましょう。
現状を整理し、仮説を立てる
まずは現在明らかになっている事実を確認・整理し、これらの事実をもとにしてさまざまな切り口から仮説を立てます。
今回の例では、「メンバーのひとり(Aさん)が自身の担当作業を十分進めていないことが多く、そのためにグループ全体の作業が遅れる」という事実が明らかになったとします。Aさんが自分の担当作業をうまく進められない理由について、次のような仮説を立ててみます。
・Aさんがアルバイトなどで忙しく、自主学習時間を十分確保できていない
・Aさんの担当作業が他の人の担当作業と比べて難しすぎる
・作業の割り振り方に問題があり、Aさんの作業内容が多すぎる
仮説に対して検証する
仮説を検証するために以下のようなリサーチを行い、あるいは実際に行動してみます。
・Aさんの担当作業の量や内容を見直す
・Aさんの担当作業の一部を他のメンバーに割り振れないか検討する
・Aさんが現在置かれている状況を確認したうえで、自主学習にもっと時間を割けないか確認してみる
仮説の内容と検証から得た情報を照合し、仮説が間違っていれば(または目的達成につながる結論を導き出すことができなければ)仮説を修正します。こうした仮説と検証を繰り返しながら、少しずつ結論を探っていきます。
思考の癖を意識する
人には、置かれた状況や性格・価値観・経験などによって作られる思考の癖があります。自身や他者の思考の癖が原因で議論がすれ違ったり、客観的に物事を捉えにくくなったりすることも度々起こります。
客観的な結論を効率よく導き出すためには、思考の癖に影響された意見と明白な事実をしっかり区別することが重要です。「この作業は〇時間もあればできるはず」「Aさんは真面目に作業していないのでは」といった思い込みや偏見を捨てて、客観的かつ冷静に事実を見つめましょう。
常に問い続ける
クリティカルシンキングは、ただ問題を解決して終わりではありません。結論を出した後も「今回のような問題を未然に防ぐにはどうするべきか」「他にも困っているメンバーがいないか」と考え続ける必要があります。しばらく時間を置いて考え直すと、違う結論が出ることもあります。
当たり前のような事柄や、すでに解決した事柄についても積極的に疑問を持ち続けることで、新たなチャンスや問題が見えてくるかもしれません。また、常に問い続けることによって考える習慣が自然に身に付いていくでしょう。
クリティカルシンキングは、なぜ社会に出ると必要なのか
社会に出ると、決まった答えのない課題に取り組む機会が多くなります。重要な仕事を進めるときはもちろん、日常業務や日常生活の中で起こるさまざまな問題の解決にもクリティカルシンキングが役立ちます。
クリティカルシンキングの習慣を身につけておくと、以下のようなメリットを得ることができます。
問題解決・意思決定の効率化
データが示す事実を読み取り、その事実に基づいて的確に判断する能力を伸ばすことで、課題解決のための思考や集団としての意思決定を進めやすくなります。
物事の決断や意思伝達を苦手とする人は、自分の意見の根拠が曖昧であるためにはっきり説明できないことが少なくありません。明確な事実に基づいて物事を考える習慣をつけることで、自信をもってスムーズに決断できるようになるでしょう。
コミュニケーションの円滑化
コミュニケーションをスムーズに行って説得・交渉・教育などを円滑に進めたいときにも、クリティカルシンキングが役立ちます。課題の本質を的確に捉え、また自分と相手それぞれの思考の癖を理解することで、誤った議論を回避して効率的に話し合いを進められるでしょう。
ビジネスシーンはもちろん、学生のグループワークなどでもクリティカルシンキングが大いに役立ちます。例えばディスカッションで遠回りせず議題の本質を議論することができ、効率よく進めることで時間ロスを減らし、空いた時間を有効活用できるでしょう。
チャンスや脅威に気付きやすくなる
過去の慣習や多数派の意見に囚われずに物事の本質を見つめ、また一旦導き出された結論に対しても常に疑問を持ち続けることで、見落とされがちなチャンスや脅威を素早く発見できるようになります。
現状に満足することなく新たなアイデアを生み出し続けることができれば、一歩踏み込んだ思考・行動が可能になるでしょう。
クリティカルシンキングを学べる参考書籍
クリティカルシンキングについて学ぶためには、書籍を読むことも有効です。初心者向けから中級・上級者向けまでさまざまなレベルの書籍があるので、自分に合ったものを選びましょう。
※各書籍の価格表示等は2019年11月現在のものであり、予告なく変更される可能性があります。
改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング (グロービスMBAシリーズ)
グロービス経営大学院で最も人気の高い科目「クリティカル・シンキング」の教科書として活用され、クリティカルシンキングの入門書として幅広く読まれています。改訂3版では、「仮説と検証」の章が追加されました。
本書には、演習問題や事例が豊富に盛り込まれています。初めてクリティカルシンキングを学ぶ人は、ただ本文を読むだけでなく演習問題を解きながら読み進めていくことでスムーズに内容を理解できるでしょう。
著者:グロービス経営大学院(著)
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2012/5/25
価格:3,080円(書籍版)、2,772円(Kindle版)税込
改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング (グロービスMBAシリーズ)
図解ポケット クリティカル・シンキングがよくわかる本
クリティカルシンキングの思考法やクリティカルシンキングに役立つ思考ツールの使い方、ビジネスに活用する手法について、多くの図表を交えながらわかりやすく解説しています。
また、本書にはビジネス以外の事柄にクリティカルシンキングを活用する方法も記載されています。クリティカルシンキングを学業やキャリアプラン作成に活かしたい学生にも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。
著者:今井 信行(著)
出版社:秀和システム
発売日:2018/9/11
価格:935円税込
クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法
秋月りす氏の人気漫画「OL進化論」を例にして、クリティカルシンキングの基礎をわかりやすく学ぶことができます。心理学専門用語を交えつつ平易な表現で説明されており、また各項目がコンパクトにまとまっているため、難しい本が苦手な人でも楽しく読めるでしょう。
漫画では会社に関わる人々の日常がユーモラスに描かれており、ビジネスから日常生活にまつわる事柄までさまざまな例が紹介されています。本書の読了後にさらに知識を深めたい場合は、読書案内ページで紹介されているクリティカルシンキング関連書籍が参考になるでしょう。
著者:道田 泰司・宮元 博章(著)、秋月りす(イラスト)
出版社:北大路書房
発売日:1999/4/1
価格:1,540円税込
クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法
大学生のためのクリティカルシンキング:学びの基礎から教える実践へ
アカデミックスキル(学問をするためのスキル)と、クリティカルシンキングを同時に学べるテキストです。教育学や心理学を専攻する人をメインターゲットとしていますが、他の分野を学ぶ人にも有用な情報が多く盛り込まれています。
前半のメインテーマはアカデミックスキルの育成であり、思考を組み立てるために必要な論証・情報リテラシー・統計などのスキルを伸ばす方法を解説しています。後半では、自己・他者評価や協同活動、教育現場における応用方法について扱っています。また、各章には練習問題と振り返り課題が記載されています。
著者:レスリー-ジェーン・イールズ-レイノルズほか(著)、楠見 孝ほか(訳)
出版社:北大路書房
発売日:2019/11/13
価格:2,420円税込
大学生のためのクリティカルシンキング:学びの基礎から教える実践へ
考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
この本では、おもにクリティカルシンキングをビジネスライティングに活用する方法について解説しています。著者が考案した「ピラミッド原則」に基づいて物事を論理立て、「他者の注意を惹く文章の書き方」「相手を説得するためのロジックのまとめ方」などさまざまなフレームワーク(思考ツール)が紹介されています。
情報量が多く本文中のサンプル事例の内容もやや複雑ため、ある程度クリティカルシンキングに慣れている中~上級者におすすめです。
著者:バーバラ・ミント(原著)、山崎 康司(訳)
出版社:ダイヤモンド社
発売日:1999/3/1(新版)
価格:3,080円税込
日々の活動や読書を通じて、クリティカルシンキングを身につけよう
クリティカルシンキングは、課題をさまざまな切り口から見つめて論理的かつ客観的に分析する思考法です。クリティカルシンキングを身につけるためには、思考の目的を定めることや思考の癖を理解すること、そして常に疑問を持ち続けることが大切です。
今回ご紹介した書籍やインターネットなどを通して、クリティカルシンキングに関するさまざまな知識を得ることができます。さらに日々の学業や業務、ディスカッションの中で課題を見つけて深く考える練習をすることで、自然にクリティカルシンキングができるようになるでしょう。