キャリア教育コラム

高校2400校の実態調査から見るアクティブ・ラーニングへの意識と効果

更新日:2018/03/07

アクティブ・ラーニングという教育方法・学習方法をご存じでしょうか。教育に関心のある方であれば、近年の指導に取り入れられ始めているアクティブ・ラーニングをご存じの方も多いのではないかと思います。しかしアクティブ・ラーニングという言葉は知っていても、その実態の把握はできているでしょうか。言葉だけ知っているけど最近の実態は把握しきれていないという方向けに、この記事では2015年に東京大学と日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)が全国の高校2400校を調査した『高等学校における参加型学習に関する実態調査』の結果を参考に、学校関係者のアクティブ・ラーニングへの意識とその効果についてご紹介します。ではまずは、アクティブ・ラーニングという言葉を知ったきっかけからみていきましょう。

 

高校教諭 参加型事業実態調査

 

 

(調査前提条件)
調査期間:2015年7月~9月
対象:全国の高等学校の校長、各教科主任、参加型授業を実施している教員
回答学校数:2,414校(対象校数3,893枚 回収率62%)

 

 

1.高校関係者の「アクティブ・ラーニング」という言葉を知ったきっかけ

徐々に浸透してきた、アクティブ・ラーニング。実際にアクティブ・ラーニングという言葉を、高校関係者はどのようなきっかけで知ったのでしょうか。高校2400校の実態調査から、はじめてアクティブ・ラーニングを知ったきっかけが浮き彫りになってきました。この調査では、学校代表者と教科主任にリサーチをしています。

 

アクティブ・ラーニングを知ったきっかけ

 

まず『教科主任』への調査ですが、「校務として参加した研修・勉強会で取り扱われた」が44.0%で、もっとも高くなっています。「テレビ・ インターネット・新聞の記事で見聞きした」が21.4%と続いており、この2つが主なきっかけと言えるでしょう。他のきっかけとしては、「自主的に参加した研修・勉 強会で取り扱われた」は9.7%、「雑誌・書籍等の記事で見聞きした」が7.9%、「知人から聞いた」は4.2%、「中央教育審議会の諮問を読んだ」が3.9%、「その他」は3.6%と続いています。「この調査ではじめて知った」という回答もあり、5.4%という結果になっています。

 

次に『学校代表者』は、「校務として参加した研修・勉強会で取り扱われた」が46.3%となっており、もっとも高いです。2番目に高いのは、「テレビ・インターネット・新聞 の記事で見聞きした」で14.6%。「中央教育審議会の諮問を読んだ」が14.2%、「雑誌・書籍等の記事で見聞きした」は11.6%と続いています。これ以降は「自主的に参加した研修・勉強会で取り扱われた」が7.9%、「知人から聞いた」 は2.0%、「その他」が2.9%と並んでいます。学校代表者の「この調査ではじめて知った」の回答は0.6%と少数ながら回答がありました。

 

学校代表者への調査結果では、「中央教育審議会の諮問を読んだ」が14.2%となっており割合が高くなっていますが、教科主任は「この調査ではじめて知った」が5.4%という高いと思わざるをえない結果が出ています。学校代表者と教科主任では、アクティブ・ラーニングの認知度や理解度、そして教育への関心度に差があると言えるでしょう。

 

 

2.高校での「アクティブ・ラーニング」に対するイメージ

次に、アクティブ・ラーニングという言葉のイメージについての調査結果を紹介します。

 

イメージ

 

『教科主任』への調査では、「生徒の力の向上に効果的な学習である」が54.9%ともっとも高い結果となりました。「積極的に取り組むべき学習である」は36.4 %、「教員の時間的な負担が増えそうだ」が33.5%、「いまさら取り上げるまでもなく、以前から取り組んできた学習である」は27.9%と続いており、これ以降は20%を下回ります。「教員は困惑するだろう」が17.7%、「カタカナ横文字に違和感がある」は15.2%、「最先端の学習である」が11.1%、「授業が混乱するだろう」 は10.0%となっており、「あまり効果があるとは思えない」が6.0%、「イメージが湧かない」は5.8%、そして「その他」が8.8%と続く結果が出ました。

 

『学校代表者』への調査でも、「生徒の力の向上に効果的な学習である」が68.0%で、もっとも高いことがわかりました。「積極的に取り組むべき学習である」も52.1%と高く、「いまさら取り上げるまでもなく、以前から取り組んできた学習である」は34.4%、「教員の時間的な負担が増えそうだ」が30.4%と30%台をキープしています。続いて「教員は困惑するだろう」は22.0%、「カタカナ横文字に違和感がある」が12.9%、「最先端の学習である」は8.6%、「授業が混乱するだろう」が6.4%、「あまり効果があるとは思えない」は2.5%、「イメージが湧かない」が同じく2.5%、そして「その他」は7.7%という結果になりました。

 

教科主任と学校代表者とで、似たような調査結果となっています。しかし、教科主任は、「教員の時間的な負担が増えそうだ」が3番目となっていることから、学校代表者の方が、より前向きにアクティブ・ラーニングに取り組んでいる、もしくはいいイメージを持っていることがわかります。

 

 

3.高校での実施された「アクティブ・ラーニング」の活動とそのねらい

参加型授業を進める上で、教科として力を入れて取り組んでいる学習活動を「1. 取り組んでいない」から「4.とても力を入れて取り組んでいる」までの選択肢のなかから、あてはまるものを1つ選ぶ調査をしています。この調査では、リッカート尺度という幅広く使われている調査方法を使用しており、4段階の形式で進めています。また、その回答を1〜4点で得点化して、集計をしています。以下に出てくるMは平均、SDは標準偏差を表しています。

 

 

『教科主任』への調査では、「教員による思考の活性化を促す説明や解説」はM=2.50, SD=0.884となっており、もっとも力を入れられているということがわかりました。これに続くのが、「生徒による発表(プレゼンテーション)」はM=2.49, SD=0.892、「生徒同士で意見を出し合う活動(ブレインストーミング)」がM=2.36, SD=0.882で、ここまでが上位となっています。一方で、「音楽や美術などの芸術活動」はM=1.13, SD=0.415、「演劇やダンス などの身体活動」がM=1.13, SD=0.432、「地域の課題解決やボランティアなど、地域の人の役に立つ活動」はM=1.26, SD=0.612などが下位となりました。

 

この調査で因子分析をした結果、これらの学習活動は、理解深化型、探求活動型、意見発表・交換型、社会活動型、芸術・ 創作活動型の5つに大きく分類することができました。

 

アクティブ・ラーニングねらい

また、参加型授業を通して生徒が身につけることをねらっている力についても調査をしています。先ほどと同様に「1.あまり重視していない」から「5.とても重視している」までの選択肢から1つずつ選ぶ5段階のリッカート尺度をして、回答を1〜5点で得点化して集計をしています。その結果、「自分の考えを言語で表現する力」はM=4.34, SD=0.759、「主張・傾聴・討論 などのコミュニケーション力」がM=4.15, SD=0.878、「各教科で身につけた知識・技能を活用する力」はM=4.14, SD=0.842)という回答が得られました。一方、「勤労観や職業観」はM=2.77, SD=1.109、「社会の一員としての市民性意識」がM=2.91, SD=1.153、「これまでにない発想をしようとする創造性」はM=3.30, SD=1.07という結果で、下位であることがわかりました。

 

先ほどと同様に因子分析をすると、これらのねらいは思考・表現力、課題解決力、主体性、市民性、協働性、教科基礎力の6つに大きく分類できることがわかっています。

 

上記を踏まえて、学習活動がどのようなねらいから取り入れられているのか、関連を検討するため相関分析をしています。「教科で身につけた知識・技能の活用」や、「教科を超えた知識や理解の統合」をねらった授業設計は、アクティブ・ラーニングによる授業改善の鍵であると考えられることがわかりました。このようなねらいを意識した学習活動の設計が重要ということがわかっています。

 

 

4.高校での「アクティブ・ラーニング」の効果の実感度合い

次は、アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の実施により実感度合いです。この調査も、先ほどと同様に5段階のリッカート尺度を使用しています。その結果、学校代表者と教科主任はともに上位5つに挙げられた効果は同じということがわかりました。

 

実感する効果

『教科主任』への調査では、「生徒と教員間のコミュニケーションが深まってきた」がM=3.73, SD=0.756でトップとなっています。次が「生徒が他者と一緒に学ぶ楽しさを理解するようになった」でM=3.68, SD=0.799、「生徒の自分の考えを言語で表現する力が高まった」が(M=3.66, SD=0.763)、「生徒に主張・傾聴・討論などのコミュニケーション力が身についた」はM=3.64, SD=0.749)、「生徒が自分の考えを深められるようになった」がM=3.59, SD=0.737といった効果が上位に挙げられました。

 

『学校代表者』では、「生徒に主張・傾聴・討論などのコミュニケーション力が身についた」がM=3.76, SD=0.653、「生徒と教員間のコミュニケーションが深まってきた」はM=3.74, SD=0.663、「生徒の自分の考えを言語で表現する力が高まった」がM=3.73, SD=0.679、「生徒が他者と一緒に学ぶ楽しさを理解するようになった」はM=3.69, SD=0.665、「生徒が自分の考えを深められるようになった」がM=3.61, SD=0.65という結果が出ています。

 

学校代表者と教科主任は、順番は違いますが同じ効果の実感度ということがこの調査からもわかります。やはり教科主任の方が生徒により近い距離でいるため、「生徒と教員間のコミュニケーションが深まってきた」がトップになっているのかもしれません。

 

 

5.高校での「アクティブ・ラーニング」を実施する上での悩み

アクティブ・ラーニングを実施するときにも、どの高校も悩みがあります。ここでは、参加型授業を実施する上での困難、課題、不安などの悩みに関して5段階のリッカート尺度の調査結果を見たいと思います。

 

先生の悩み

 

『教科主任』への調査では、「授業前後の教員の負担が増加する」がM=3.76 , SD=1.040、「授業の進度が遅くなる」はM=3.73 , SD=1.102となっており、「授業の時数が足りない」がM=3.63 , SD=1.148が上位に挙げられています。

 

『学校代表者』では、「授業前後の教員の負担が増加する」がM=3.75, SD=0.875となっており、「必要な施設・設備が足りない」がM=3.60 , SD=1.099で2番目、「授業の時数が足りない」がM=3.52 , SD=1.015が3番目となっています。

 

双方ともに教員の負担が増加することを懸念していることが浮き彫りになっています。その他の悩みは異なっており、立場によって違う懸念点があることが調査からわかっています。

 

 

6.学校種別の参加型授業の実施率と悩み

最後に取り上げる調査は、アクティブ・ラーニングのような参加型授業の実施率と悩みです。学校全体でのアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業への取り組み状況に関して、学校の設置者別に集計した校長調査の結果を見てみましょう。

 

学校別実施率

 

「教科として参加型学習に取り組んでいる教科がある」と回答した学校の割合は、国立は100%というアクティブ・ラーニングの実施率において、素晴らしい数字となっています。これに次ぐのがその他公立は79.7%、都道府県立が76.2%、私立は72.6%と続いています。「参加型学習の内容を含む行内研修を行っている」と回答した学校の割合も、国立が55.6%ともっとも高くなっています。その他公立が40.5%、都道府県立は29.3%、私立が27.4%と同じ並びになっているのが特徴と言えるでしょう。

 

アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の実施をする際の困難なことや課題、そして不安についても調査しています。都道府県立や私立の回答では、「授業内容に関係のない生徒の私語が増える」、「生徒の集中力が低下する」、「参加型学習になじめない生徒や、ついてこられない生徒がいる」、「参加型学習をしても生徒の思考が活性化しない」という回答が多く見られました。参加型学習への取り組みが国立に比べて低い結果が出た都道府県立や私立には、まだまだ課題が多く残ることがわかる調査内容でした。

 

 

7.まとめ

2400校の高校へのアクティブ・ラーニングに関する調査をまとめてみました。これほど大規模な調査結果を簡単に知ることができる機会はあまりないので、参加型授業に関心のある方には、参考になったのではないかと思います。この調査でわかった実感や悩みを知ることで、アクティブ・ラーニングの実態を少し理解できたのではないでしょうか。この調査を知ることで、アクティブ・ラーニングの理解を深めてみてください。

 

 

 

■参考
木村充, 山辺恵理子, 中原淳 (2015). 東京大学-日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究 『高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査 2015: 第一次報告書』.

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部