キャリア教育コラム

平均学習定着率が向上する「ラーニングピラミッド」とは?

更新日:2018/07/12

「長時間がんばって勉強しているのに、勉強内容がなかなか覚えられない」という経験はありませんか?

 

それは勉強の進め方が適切でないだけかもしれません。覚えたい内容を効率よく脳に定着させるには、誰かに強制されてダラダラ勉強するのではなく「ラーニングピラミッド」に沿ったスケジュールで能動的・積極的に学習することが有効です。自分から何度も学習に関わっていくことで勉強への興味も高まり、それまでなかなか覚えられなかったことも実践・経験を通して確実に脳に定着していくでしょう。

 

1.ラーニングピラミッドとは

ラーニングピラミッド

アメリカ国立訓練研究所の研究によると、学習方法と平均学習定着率の関係は「ラーニングピラミッド」という図で表すことができます。学校の授業や会社の新人研修などでは、講義・実技・議論などさまざまな方法で学習を行いますが、学習時間が限られていて状況では、より効率の良い方法での学習がスムーズに学習内容を身につけることにつながります。いくら勉強してもなかなか成果が出ず困っている人は、この学習方法を見直すだけで思わぬ効果が出るかもしれません。

 

2.定着率向上のカギは、能動的な学習

 

ラーニングピラミッドを見ると、ピラミッドの下に行くほど定着率が高いことがわかります。では、各段階の内容について詳しく見てみましょう。

 

講義を受ける(5%)

学校の授業やセミナーなどに出席している状態です。ただ席に座って先生の話を聞くだけだと、よほど興味のある内容でない限り授業内容のほとんどを忘れてしまうでしょう。講義内容を効率よく覚えるには、話を聞きながら意欲的にノートをとることや丁寧な予習・復習などが有効です。

 

読書する(10%)

決められた参考書・課題図書などを読むか、学習内容に関係する書籍を自分で選んで読みます。自発的学習のために講義以外の時間を確保している点において、ただ講義に出るだけより能動的な行動と言えるでしょう。ただし学習内容にあまり興味が持てない場合は、書籍の内容を漫然と目で追っていてもなかなか覚えられないでしょう。

 

視聴覚〔ビデオ・音声による学習〕(20%)

講義への出席や読書に加えて、参考書の付録DVDや学習内容に関連したテレビ・ラジオ番組などを視聴します。単なる文字の羅列や静止画と比べて、動画・音声はより大きなインパクトを脳に与えます。ただ何となく聞き流すより、「覚えよう」という意欲を持って集中して聞くことでより身につきやすくなるでしょう。

 

実演を見る(30%)

いわゆるデモンストレーションであり、学習の場では「先生が行う実験を見る」「工場見学に行く」などの行為が該当します。実演内容によっては聴覚・嗅覚・触覚にも直接訴えかけられるので、解説文や動画よりもさらにインパクトが大きく記憶に残りやすくなります。また、わからないことがあればその場で質問して説明してもらえるメリットもあります。

 

他者と議論する(50%)

グループ内で自由に意見を交換しあうディスカッションや、あらかじめ決められた順番・内容・役割に従って発言するディベートなどを行います。リアルタイムの会話で意見を交換するには、頭の中で筋道立てて考えを整理することと自分の口で意見を伝えることが必要です。そのため、ただ見るだけ・聞くだけよりもさらに能動的な関わりが必要になります。また、ディスカッション中の他者の発言から新たな知識を得ることもできます。

 

実践による経験・練習(75%)

体育・美術・家庭科などの実技科目では、実際に自分の手や体を動かして感覚をつかむことが有効です。また、現場に出向いて自分で調査・研究を行うフィールドワークもこの段階に含まれます。国語・数学などのように実技のない科目や暗記科目を脳に記憶させるには、書き取り・音読・練習問題によって経験を積むことが有効です。

 

他人に教える(90%)

この段階には、これまでの学習の集大成とも言うべき研究発表や論文発表などが該当します。物事を他人に教えるためには、自分でしっかりと内容を理解していなければなりません。「他人が書いた文章を読み上げるだけ」「書籍・ネットの文章をツギハギしただけ」では自身の脳に与えるインパクトが足りず、また誰かから突っ込んだ質問をされると返答に詰まってしまうでしょう。いろいろな方法で何度も実践経験を積み、時には失敗も経験することで、より細やかに教えることができるでしょう。

定着率の高いラーニングピラミッド下方の学習法ほど、より自発的・能動的な働きかけが必要です。能動的に学習するためにはまず講義・自主学習などで十分に知識や興味を高め、その後議論・実践で理解を深めてから発表…というふうに、限られた時間を上手に使って学習スケジュールを立てましょう。

 

3.カクテルパーティー効果とラーニングピラミッド

「苦手な教科はなかなか覚えられないけれど、得意な教科や好きな歌の歌詞はすぐに覚えられる」という経験はありませんか?脳の容量には限りがあるため、必要と判断した内容(興味がある内容)を優先して記憶する仕組みになっています。これがカクテルパーティー効果です。

 

得意でない科目を身につけるには

カクテルパーティー効果を学習に応用するカギは、定着させたい学習内容を「脳にとって優先度の高い情報」にすることです。得意でない科目にいきなり興味を持てと言われても難しいですが、何度も繰り返し脳に情報を送ることで次第に脳内での優先度が上がります。何度も反復学習することは、得意科目はもちろん苦手科目の勉強にも有効なのです。このときにラーニングピラミッド下方の能動的な学習方法を積極的に取り入れると、学習内容をより効率よく脳に定着させられるでしょう。

 

4.ラーニングピラミッドを用いた学習法事例

 

近年、ラーニングピラミッドの中でもより能動的な「他者と議論する」「実践による経験・練習」「他人に教える」を重視した勉強方法「アクティブラーニング」が注目されています。国内の教育機関でも、アクティブラーニングを重視したカリキュラムが導入されています。

 

埼玉県教育委員会

埼玉県教育委員会は、東京大学CoREFと連携して生徒の学ぶ力を引き出すための「協調学習」を高校のカリキュラムに取り入れています。ここでは、協調学習の一例として「知識構成型ジグソー法」をご紹介します。知識構成型ジグソー法では生徒ひとりひとりが得た知識をジグソーパズルのように組み合わせ、全員で協力して課題の答えを導き出します。大まかな流れは、以下のとおりです。

 

1. 課題を受け取った生徒は、まず自分自身の現在の知識・経験から答えを導き出す。

 

2. 課題解決のヒントとなる教材を受け取る。このときクラスはいくつかのグループに分けられ、グループごとに異なる教材を受け取る。

 

3. 同じ教材を受け取ったグループ内でディスカッションを行い、教材の内容に関する知識・理解を深める。

 

4. 他グループの生徒と新しいグループを作り、ディスカッションを行う。めいめいが自分の教材から得た知識を持ち寄り、協力して最初の課題の答えを導き出す。

 

5. 4.で作ったグループ同士でクラス全体のディスカッションを行い、最初の課題について意見を交換する。

 

6. 1.~5.の活動で得た知識・意見をもとに、個人で最初の課題の答えをまとめる。

 

知識構成型ジグソー法では、話す・聞く・考えるといった活動を繰り返すことで考え方・学び方そのものを自然に身につけることができます。従来のカリキュラムのような一方通行の勉強ではなくディスカッションを重ねることで生徒ひとりひとりの学習に責任感が生まれ、積極的に理解しようという意欲がわきやすくなります。ディスカッションを通じていろいろな知識・意見を取り入れ、自分の考えを柔軟にアップデートさせる良い練習にもなります。

 

名古屋商科大学 都心型コース

名古屋商科大学では、全国に先駆けてアクティブラーニングに特化したビジネス教育を実施しています。一方的な講義や定期試験でいい点を取るための丸暗記ではなく、学生が主体になって意見を交わしあい、実践を重視しつつ授業を展開しています。

 

あるカリキュラムでは、レゴ®社が開発したメソッド「レゴ®️シリアスプレイ®️」を使って地元・中部国際空港の擬似プロモーションを行いました。まず、レゴブロックで「現在の中部国際空港の問題点」をテーマにした作品を作ります。その作品をもとに、空港にとって最良のプロモーションを行うためにどうすればよいかを話し合います。筋道を立てて説明するのが苦手な学生も、レゴブロックを使うことで抽象的な考えや概念を視覚的にわかりやすく表現できます。

 

このカリキュラムを通して学生たちは中部国際空港が持つブランドを正確に把握・伝達し、顧客のイメージをコントロールするイメージ戦略の重要性を学ぶことができました。

 

5.まとめ

 

米国の研究機関が発表したラーニングピラミッドでは、学習方法ごとの平均学習定着率の違いが示されています。効率よく学習したいなら、やみくもに丸暗記するのではなく能動的・実践的な方法を積極的に取り入れるのが有効です。近年多くの教育機関が取り入れている「アクティブラーニング」では、ラーニングピラミッド下部の能動的な学習方法「議論」「実践」「他人に教える」を重視したカリキュラムを組んでいます。

 

講義やテストを主体とした従来型カリキュラムに比べ、アクティブラーニングでは多くの生徒が意欲的・主体的に学習に取り組んでいます。アクティブラーニングはテストで点を取るための丸暗記ではなく物事の考え方やビジネスの手法、ひいては「生きる力」を身につけるのにも役立っています。

 

■参考

埼玉県教育委員会「「学びの改革」の推進

名古屋商科大学「アクティブラーニングとは

アクティブラーニングで学ぶ中部っ国際空港のプロモーション

株式会社ハートクエイク「レゴブロックを使ったワークショップ型研修「レゴシリアスプレイ」

Wikipedia「カクテルパーティ効果

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部