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お知らせ

企業と取り組む探究学習 〜石垣島プロジェクトについて〜

更新日:2022/11/02

高等学校学習指導要領の改訂により、2022年度から総合的な探究の時間が必修となりました。しかし、まだまだどのように探求学習を進めるべきか悩んでいる先生方も多いのではないでしょうか。学内だけで完結させず、民間企業と連携して取り組むことに関心をもつ先生方もいらっしゃると思います。

今回は、沖縄県立八重山高等学校が企業と共に取り組んだ「石垣島プロジェクト」をご紹介します。学校と企業が共にプロジェクトを進めることのメリットや難しさなどをお伺いしました。


石垣島プロジェクトの概要

−学校内で石垣島プロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

「沖縄県立八重山高等学校」伊集満枝先生(以下 伊集):石垣市役所の観光人材プロジェクトに参画していたことがきっかけとなりました。

もともと、石垣市役所観光文化課が数名の高校生と共に行う人材育成プロジェクトに私も伴走者として関わっていました。

その後、さらに石垣市役所の観光人材育成プロジェクト​​​​​​​​「Change Maker Development Program」が立ち上がり、自然電力株式会社等の企業さんが伴走者として加わることを知り、勤めている高校でもエネルギー関係のプロジェクトを立ち上げたいと思いました。

「Change Maker Development Program」とは?
石垣市観光文化課が中心となり、石垣島を拠点としてバイオディーゼル燃料の開発を行う株式会社ユーグレナ、太陽光・風力・小水力等の再生エネルギー発電に取り組む自然電力株式会社、持続可能でリジェネラティブな社会を目指すアースカンパニー社などが伴走者として参加。学習会やプロジェクトの実施、パンフレット制作等を通じて、さまざまな角度から石垣島のためにできることを考え・実行した。2020年度に終了し、その後は八重山高校の探求の時間や、放課後の時間を活用して継続。

−生徒はどのような経緯でプロジェクトに参画したのでしょうか。

伊集:当時私が学級担任をしていた、1年生の生徒数名に声をかけてプロジェクトを立ち上げました。学校で総合的な探究の時間に取り組むことが決まり、担任に裁量権があったことから私が責任を持ってプロジェクトを見守ることができると確信し、行政の「Change Maker Development Program」に便乗する形で学校の探求プロジェクトとしても動き出したという経緯です。当初はクラスの男子生徒6名でスタートいたしました。

−伊集先生はどのようにプログラムに関わっていたのでしょうか。

伊集:最初の1年間は私が生徒の活動をリードしていましたが、2年目以降は生徒を見守るようになりました。プロジェクト発足当初は、生徒にいかに多くの情報と体験を積ませるかを大切にしていました。積極的に情報提供を行うなどのリードをする中で、どこで手を引くべきか悩んでいました。そんな中、生徒が「自然電力の低引さんと関わっていきたい」と言ってくれたので良い機会だと思い、生徒の自走をサポートするようになりましたね。

−自然電力株式会社 低引さんのプログラム参画の経緯を教えてください。

「自然電力株式会社」低引稔さん(以下 低引):企業として石垣島との関わりがあったこと、そして私自身のこれまでの経験があったことが参画の理由です。

まず、弊社は「1% for Community」という地域貢献事業を行っています。発電所のある地域の発展に寄与するような伴走支援をしていく中で、次世代人材の育成に力を入れることになりました。石垣島に太陽光発電の案件もあり、地域の方々と関係性があったことから「Change Maker Development Program」のお話をいただきました。私は元々、教育系のNPOで活動していた経験があり、キャリア教育には個人的な思いもありました。良い機会なので、また再び高校生の活動に伴走したい、と考え、今回参加させていただきました。

−シティラボ東京 平井さんのプロジェクト参画の経緯を教えてください。

「シティラボ東京」平井一歩さん(以下 平井):自然電力株式会社さんよりお声がけがあり、参画しました。

シティラボ東京はサステナビリティやまちづくりを考える企業が集うコミュニティスペースを運営しています。そのなかの一つにシティラボベンチャーズというサステナビリティに特化したスタートアップのコミュニティがあります。そのメンバーに、自然電力株式会社さん、株式会社ユーグレナさん、アース・カンパニーさんが入っていたこと、自分達の使命とも合致していることから参画を決めました。

探求学習における学校と企業の課題

ゼロカーボンチャレンジイベントに取り組んだ高校生

−探求学習を企業とともに進めていくことの課題はありましたか?

伊集:学校としては教育に軸足をおかなければいけないことを企業に理解してもらえるかどうかが課題だと思います。企業様の中には教育現場のことをご理解いただけず、企業側の事情やスピード感で物事を進めようとする方もいらっしゃいます。もちろん企業側の立場もあるのは理解できるのですが、生徒たちを指導する担当教員としてそこは線引きをする必要があります。 今回は、自然電力の低引さんをはじめ皆さんが教育的立場を理解してくださりました。学校側のペースを大切にしていただけたことが成功に繋がった。したがって、企業と連携する際には、どのような目的を持っているのか、生徒にどのような成長をしてほしいのかを伝え、そのために制限もあることを理解してもらえるかが大切だと感じます。

−自然電力の低引さんは企業として高校生のプログラムに伴走する難しさについて教えてください。

低引:会社の主な業務とプログラムの親和性がなければ伴走は難しいと思います。今回、弊社は石垣島での太陽光発電の事業案件があったため、プロジェクトを通して地域の方々とより密な関わりが持てれば、会社としてもメリットとなります。だからこそ、弊社はスムーズに参画することができました。

ただ、今回の石垣島のプロジェクトでは1年目に一定程度の成果、地域キーマンとのつながりや、広報発信機会などが得られたことで、2年目以降に難しさを感じるようになりました。地域還元に取り組む限りある人材を石垣島のプロジェクトに投じ続けることで、さらに成果が見込めるのか、コロナ禍ということで、遠隔での伴走支援に限界がないのか。明確な答えはありませんでしたが、私たちと高校生の目指す社会像、アプローチは共通していましたので、2年目以降はペースを落とし、半分ボランティアとして伴走していた面もありました。持続的にサポートをする枠組みが作れたとは言えず、そこは課題として残っています。

−シティラボ東京の平井さんはどのような点に難しさを感じましたか?

平井:私も1年目である程度の成果が出たため、その後も継続させていくことに難しさは感じました。特に手をひこうという意見もなかったため、人の縁で半ば個人的に続けることができましたが、やはり何らかの形でシティラボ東京の活動に結びつけたいと考えていました。

−伊集先生はこのような企業側の事情に対してはどのようにお考えでしょうか?

伊集:プロジェクトに伴走していただく企業にもメリットがなければ申し訳ないと思う反面、学校という立場上難しい。心苦しく感じました。

なぜなら学校にはお金がなく、支援料等をお支払いすることができません。だからこそ、プロジェクトの活動を企業広報等さまざまな場面で使っていただき、できる限りwin-winな関係性を目指していました。

双方に得られる効果・メリット

定例ミーティングの様子。生徒、学校、企業が一体となって得られることは大きい

−企業と協働して総合的な探求の時間を行うことで得られたものはありましたか?

伊集:生徒が社会課題に関心を持つことができたこと、社会人と関わる経験ができたことが大きいと思います。学校内で行う活動は机上の学習が中心となるため、企業の視点から社会的に通用するかどうか等のコメントをいただけることで納得感が増し、生徒の社会課題に対する関心が上がっていきました。さらに、低引さんをはじめとする企業の社会人との関わりを持つことができたことも学びに繋がりました。教員と生徒にはどうしても上下関係がありますよね。そんな中、企業の社会人は生徒にとって斜め上の存在になってくれました。生徒は新たな立場の人との関係性づくりを学ぶことができたと思います。

−生徒達はどのように成長しましたか?

伊集:最初は大人のサポートがなければプロジェクトが進んでいきませんでした。しかし、3回目のプロジェクトでは私が直接リードする必要はほとんどなく、生徒たちが自分達でやり遂げることができたのは大きな成果だと思います。

−低引さんが企業としてプロジェクトに伴走して得られたものはありますか?

低引:成功事例を作ることができた点が大きいです。私たちは様々な地域で発電所の建設をするに当たって、「発電所ができたら地域還元をさせていただく」という話をします。その地域の産業をより発展させるため、そして次世代人材を育成するための取り組みを行っています。特に今後は後者の次世代人材の育成に力を入れていきたいという思いがあるため、石垣島プロジェクトはこれから関わる地域にとっての貴重な先行事例となります。

私個人としては3年間高校生に伴走したことで彼らの成長を見るのがとても楽しかったですし、自身の成長にも繋がりました。

−平井さんはいかがでしょうか。

平井:高校生の意見を聞けたのは貴重だと思います。

普段の業務で関わるのは企業や自治体の方が多いため、大人でもビジネスマンでもない、高校生という新しい視点から生の意見を聞くことができたのは大変参考になりました。ラボのプログラムの中で高校生の最終発表の場を設けることもできたので、メンバーの方にも刺激となっていれば嬉しいです。

−最後に、伊集先生より学校と企業が連携していく上でメッセージをお願いいたします。

伊集:総合的な探究の時間で行うプロジェクトは、企業の皆様にとってすぐに実績が出るものではないため、3年の時間をかけられるケースは稀だと思います。ただ、今回のプロジェクトで再生エネルギーに取り組んだ生徒の多くは、より専門的に学ぶためエネルギー関係の大学進学を考えています。

企業の皆様には次世代の人材を育成させ、地球をより持続させていくといったスタンスで学校でのプロジェクトに関わっていただけたらと思います。

今回のプロジェクトに伴走してくださった企業の皆様には感謝しかありません。ぜひ、子どもたちの成長のために共に取り組んでいただけたら幸いです。

     

執筆者:Strobolights