いま高校現場で起きている「静かな変化」
近年、高校の現場では次のような変化が顕著になっています。皆様も、日々生徒たちと接する中で感じている方もいらっしゃるかもしれません。
- 進路を「決めきれない」生徒が増えている
- 将来の話になると極端に不安が強くなる
- 失敗や回り道を過度に恐れる
- 正解が示されない問いを避けたがる
これらは単なる世代論の変化ではありません。社会構造そのものが変わった結果として現れている現象です。
職業の寿命は短くなり、AIやテクノロジーによって「学んだ知識がそのまま通用する期間」は急速に縮んでいます。こうした時代において、進路指導やキャリア教育の前提そのものを見直す必要があります。
そこで近年、教育・人材育成の分野で注目されている概念がキャリアレジリエンスです。
キャリアレジリエンスの定義
キャリアレジリエンスとは、
環境の変化や挫折に直面しても、自分のキャリアを立て直し、再構築し続ける力
を指します。
重要なのは、これが「精神論」や「根性論」ではないという点です。キャリアレジリエンスは、以下のような思考・態度・スキルの集合体です。
- 想定外が起きることを前提に考える力
- 失敗を「自分の否定」ではなく「学習」に変換する力
- 状況に応じて目標や手段を修正する柔軟性
- 他者や環境を活用して立て直す力
つまり、「一度決めた進路を貫く力」ではなく、決め直し続けられる力がキャリアレジリエンスです。
なぜ今、高校生にキャリアレジリエンスが必要なのか
① 将来予測がほぼ不可能になっている
「どの学部に行けば安定か」
「どの業界が将来性があるか」
こうした問いに、もはや明確な答えはありません。10年後、今の職業の多くが形を変えている可能性すらあります。
この状況で重要なのは、最初の選択を当てることではなく、外れたときに立て直せることです。
② 失敗経験が不足している生徒が多い
評価・内申・推薦といった制度の影響もあり、多くの生徒は「減点されない行動」を無意識に選びがちです。
結果として、
- 挑戦しない
- うまくいかない状況に極端に弱い
- 想定外が起きるとフリーズする
という傾向が生まれます。
キャリアレジリエンスは、失敗しても大丈夫だと認知できる状態があって初めて育ちます。
③ 自己決定感が低いと折れやすい
「親に言われたから」
「先生に勧められたから」
「周りがそうしているから」
こうした理由で選んだ進路は、壁にぶつかった瞬間に支えを失います。
キャリアレジリエンスの土台にあるのは、自分で選んだという感覚(自己決定感)です。
キャリアレジリエンスは「教えるもの」ではなく「育てるもの」
キャリアレジリエンスは、講義で説明して身につく力ではありません。日常的な教育活動の中で、間接的に育てていく力です。
探究学習との相性が良い理由
探究には次の特徴があります。
- 正解がない
- 試行錯誤が前提
- 仮説が外れることが前提
これは、キャリア形成の構造そのものです。
探究の評価で重要なのは成果物よりも、
- どこで行き詰まったか
- どう立て直したか
- 何を学び直したか
といったプロセスの言語化です。
進路指導で使えるキャリアレジリエンス視点
生徒への問いの変換例
×「失敗しない進路を選ぼう」
○「うまくいかなかったら、どう修正できそう?」
×「本当にその選択で後悔しない?」
○「途中で違うと思ったら、何を頼れそう?」
問いを変えるだけで、生徒は「固定された未来」ではなく「更新可能な未来」を考え始めます。
教師自身のキャリア観が、生徒に最も影響する
キャリアレジリエンス教育において、最も影響力を持つ教材は教師自身の語りです。
- 遠回りした経験
- 思い通りにいかなかった時期
- 想定外の選択をした理由
これらを語れる教師の存在は、生徒にとって「人生は修正できるものだ」という実例になります。
まとめ:キャリアレジリエンスは生きる力の再定義である
キャリアレジリエンスとは、
- 将来を完璧に設計する力ではなく
- 折れない強さでもなく
- 一貫性を保ち続けることでもありません
変わり続ける前提で、自分を立て直し続ける力です。
高校教育ができる最大の支援は、「正解の進路」を示すことではなくやり直せる感覚を生徒の中に残すことなのかもしれません。
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