インタビュー

PBLで福島の復興支援を。いわき明星大学と昭和女子大学

更新日:2019/05/15

今春から宮城大学・大嶋ゼミの学生達と複数の新プロジェクトに着手


 

必要性が叫ばれながらも未だ各教育現場で模索が続いているキャリア教育。
このインタビューシリーズでは各教育現場でキャリア教育に取り組んでいる先生方の生の声をお届けします。今回は地域密着型PBLや東京の学生とのコラボ型プロジェクトに取り組む宮城大学教授の大嶋先生にお話を伺ってきました。*大嶋先生は2019年3月まで、いわき明星大学教授
(取材、執筆:羽田啓一郎)
 

お話を伺った方

大嶋 淳俊さん
三菱UFJ系総合シンクタンクにて政府のリサーチ業務や民間企業のコンサルティング、また事業運営などに従事。2016年からいわき明星大学で教授として教鞭をとりつつ、立教大学の講師や昭和女子大学の現代ビジネス研究所 研究員としても活動。地域連携型のPBL授業に力を注いでいる。2019年4月より宮城大学 事業構想学群 教授に着任。

アウトプット型PBLで復興支援

いわき湯本温泉に学生が訪問調査し、自ら体験した内容を映像化

 
-大嶋先生が民間企業から現在のお仕事に転職された経緯を教えてください。

もともと私は、東京の総合シンクタンクでリサーチやコンサルティングの仕事をしていました。その頃、2011年の東日本大震災の時に経済産業省の最上階の会議室で会議をやっていて自分も帰宅できなくなるという体験をしましたが、その後、政府のプロジェクトで東北に行く機会が増えました。何年たっても復興に時間がかかっている様子を目の当たりにして、徐々に復興支援・地域活性化への想いが強くなり、福島県で教授を募集しているのを見つけて「これだ」と思って転職したという経緯です。
 

-その中でどうしてPBLを始めたのでしょうか。

私はずっと東京で仕事をしており、学生時代も東北にいたわけではありません。東北復興のお手伝いがしたいと思って民間企業から福島の大学の教員になったのですが、実際に着任して感じたのが「東北の学生が必ずしも東北について詳しくて愛着を持っているわけではない」ということです。これにはちょっと驚きました。外から見るとみんな一丸となって復興活動をしているように見えていたので。
 
一方、いわき明星大学が色々と構造改革に取り組んでおり、私もその手伝いをしていたのですが、地元学生の意識改革を行うためには一方的に講義を聞くスタイルではなく、主体的に学ぶアクティブラーニングを取り入れようとなったのです。

私自身はPBLの指導経験はありませんでしたが、企業幹部向けの研修などは数多く実施したことがあり、教育研修において実践性を非常に重視してきました。復興支援をしていくために現地の学生の意識改革が必要だと感じており、大学全体としてもそのような方向にあったので、PBLに取り組むことにしました。
 

-どのようなPBL授業を行なっているのでしょうか

私は2016年から教員として仕事をしていますが、試行錯誤しながら毎年バージョンアップをしているので「これだ!」という方程式があるわけではありません。ただベースにしているのは東北地域の課題を学生のアイデアと力でお手伝いをすることです。

当時、私が在籍していたいわき明星大学の教養学部では数テーマのPBLが走っていたのですが、私が担当したのは震災で客足が遠のいていた「いわき湯本温泉の活性化」です。PBL教育として学生の指導をしつつ、この温泉の支援が両立できないだろうかと考えました。といっても、学生がアイデアを出して提案だけで終わるのは物足りないので、何か形として残せるものがないかと思案した結果、若者目線を取り入れた“いわき湯本温泉をPRする映像作品を作る”という授業にしたのです。
 

いわき明星大学の学生は、終日の動画撮影で計画力と機動力の大切さを深く学んだ。


 

-映像を作る、というのは面白いアイデアですね。映像作りのスキルは学生たちにあったのですか?
いえ、ありませんね。私はシンクタンクで働いていた時に政府のプロジェクトで映像をつくったことは何度かありましたが、技術的なノウハウがあったわけではありません。そこは学生も私も試行錯誤しながらです。初年度の2016年度の講義では20名強の学生でしたが、いくつかのグループに分けた後は、全員の当事者意識を出すために映像作りも出演含め全員なんらかの役割を持たせて作っていきました。ただいきなりうまくいったわけではなく、シナリオ設計という概念が抜けていたので12分間もの動画ができてしまった。「こんな長い動画、誰が見るんだ」という。
 
なので、その映像を再度編集してCM動画として仕立てたらこれが意外と良い出来で、各所で使ってもらうことができました。学生たちも達成感もあったようで、形として残っているからその後の就活ネタなどにも大いに使ったようです。2017年度は更に発展させて、学生がスマホで撮影した写真やミニ動画を組み込んだ観光客向けWebサイトを制作しました。地元の温泉旅館協同組合や商工会議所、市役所は以前から様々な面で協力してくれていましたが、2018年度からは予算面での支援も少し頂き、動画撮影・編集の面で協力的な外部専門家に依頼できるようになりました。

昭和女子大学のプロジェクトで福島と東京の学生でコラボ

福島県の日本橋アンテナショップでのイベントの様子。学生が企画、運営。


 

-大嶋先生は昭和女子大学でもお仕事をされていると聞きました。
昭和女子大学では現代ビジネス研究所の研究員として2017年度から活動しています。その際、昭和女子大学の学生が“東京の女子大生目線のいわき湯本温泉の旅行プランを策定したり商品開発のアイデアを出したりして、東京の女子に観光PRを行う”というPBLのプロジェクトを立ち上げました。昭和女子大学の学生たちは完全に有志です。いわきへの交通費の補助は出しましたが、学生も自腹を切ることはよくありました。彼女たちの一部は東北出身だったりと、なんらか東北に縁がある学生達が多く、それだけ熱心でした。
 
そんなに熱を持って取り組んでくれるので、旅行プランを作るといってもただのアイデア出しでは意味がないと考え、じゃらんの方に協力いただいて観光に関する講義を行っていただき基本的な知識を身につけてもらったり、複数の地元のキーパーソンに地元の状況と課題についてお話頂くなど、より良いアウトプットが出るようサポートできる部分はしたつもりです。
 

-いわき明星大学の学生とのコラボはどのようにして行ったのですか?

昭和女子大学の学生は旅行プランを作るために何度か福島を訪れているのですが、2018年度からは、いわき明星大学の私のゼミの学生が一緒に活動することにしました。やはり、福島の学生は刺激を受けて学びも大きかったように思います。昭和女子大学の学生たちは自主的に参加している学生だからというのもありますが、とにかく熱心。福島の学生からすると「こんなに一生懸命取り組むのか」とまず驚きますし、議論の進め方やチームワークの取り方、プロジェクトの段取りの仕方など、同じ学生がやっていることに刺激を受けたようです。
 

昭和女子大学といわき明星大学の学生が地元と協力して湯本温泉で撮影。


 

-それまでのPBLでは映像作品やWebサイトという成果物がありましたが、昭和女子大学のプロジェクトの成果物は旅行プランの策定ということでしょうか?

2年目にあたる2018年度は旅行プランのブラッシュアップに加えて、学生達が考えたフラダンスやつるし雛作りの体験プログラムを実践したり、女子大生イチオシの観光スポットで自分たちが楽しんでいる様子を見せたりする観光PR動画を作成しました。この映像は昭和女子大学のキャンパスの中や福島県、いわき市役所、観光協会、温泉旅館協同組合のホームページやSNSに掲載されるなど、各所で使っていただいています。また日本語だけでなく英語や中国語バージョンも作成し、観光プロモーション映像としての面をより強化しました。
 
そしてこのプロジェクトの集大成が、日本橋でのイベントです。福島県の首都圏情報発信拠点『日本橋ふくしま館 MIDETTE』という施設があるのですが、ここでPRイベントを2019年2月に開催しました。イベントは映像やWebサイトとは異なり、お客様との双方向のコミュニケーションがリアルタイムで発生することもあり、準備は大変でしたが盛り上がりも生まれますし達成感も大いにあったようです。

PBLで苦労する点。PBLの評価方法

学生が実際に使った、街頭インタビューボード。


 

-ありがとうございます。年々進化していっているのがわかりました。では先生がPBLを行っていく上で苦労する点を教えてください。

試行錯誤を繰り返していますし、まだまだ課題はたくさんあります。その中でもやはり学生のモチベーションの差や維持が苦心するポイントですね。熱心な学生もいる一方で受動的でなかなか活動をしない学生もいます。私はなるべく強制的にやらせるということはしないようにしています。理想は学生たちが自走してくれるようになること。そのために仕組みをどう作るかという点で苦労していますね。
 

-学生が自走するために具体的に何か工夫していることはありますか?

月並みですが、学生一人ひとりとちゃんと向き合って対話することですね。あとはやはり学生の中でリーダー的な役割を果たす人が重要になってきます。学生との対話や学生同士のディスカッションの様子を見ながら学生の特性をなるべく早い段階で見極めていく。そしてそれぞれにあったポジションを、自分たちでも考えて貰いながら決めていきます。ただ、そのポジションや役割は固定化させずに、学生グループの様子を見ながら調整を常にしていくことが重要です。
 
いわきでは学生から「大変だからこの授業は嫌だ」と言われてしまったこともあります(苦笑)。学生が主体的に動いてもらえるように、わかりやすいアウトプットを用意してモチベーションを上げて続けさせないといけません。なので、私のPBLは成果、アウトプットにこだわっています。学生が作ったアイデアや動画はなるべく地元で継続して使ってもらい、「地域に目に見える形で貢献する」ということを学生に実感してもらうのです。またPBLにおいては、教員は必要以上に介入せず、あくまでファシリテーターに徹しないといけません。なるべく学生自身に考えさせてやるので、指導側からすると不本意な方向に走ることもある。ただ、私がやっているPBLの場合はアウトプットの機会がありますし、学生は全員クレジットとして名前を出すので、やはり高いクオリティにする必要があります。なので、学生のプロジェクトの軌道修正など、どのように学生に気づかせ、どう導くかは腕の見せ所です。その為にも学生との対話や意見交換は絶えず行う必要があります。学生からは「こんなに先生や地域の人たちと密に関わることは今までなかった」とも言われました。PBLを通じて「大人」とどのように一緒に仕事をするのかも体験してもらいたいと思っています。
 

-ありがとうございます。では最後に、評価方法について教えていただけますでしょうか。

PBLの評価は難しい面があるのは事実です。まず出席点がありますが、ただ単に出席だけして何もしていないのは出席とは認めないようにしています。そこで、授業では毎回250文字以上のリフレクションシートを書かせています。これが出ていないと出席と認めません。
 
そして、授業の最後に相互評価シートを学生同士でつけてもらっています。これは、自分の評価を誰がつけたかわからないように工夫しています。と言っても学生の相互評価シートを成績に直接反映させるわけではなく、あくまで参考資料として扱っています。ただここで面白いのが、学生同士がつけた印象点と教員がつけた評価があまり変わらないという事です。PBLは当事者意識やコミットメントの意識も大事。教員の視点と、共に活動している学生の認識はそうずれていないということだと思います。そういう意味でも、参考資料として非常に心強いのが、学生の相互評価シートです。
 
やはりPBLは学生からすると他の授業の何倍の時間とエネルギーも使っていることが多いので、PBLの評価を個別でつけるのは納得感が必要です。大きく差をつけるのは難しい部分があるのは事実ですが、学生が主体的に取り組むような仕組みを作り、その学びの過程をしっかりと評価していく方針にこれからも変わりはありません。

最後に、私は4月から拠点は宮城県ですが、PBL手法を引き続き活用して、学生達や地域の方々と一緒に東北の復興支援・地域活性化に取り組んでいきたいと思っています。
 

ご参考

【公式サイト『フラってあなたも湯本女子!』】 ※旅行プラン、観光PR動画、イベントまで
https://oshima-lab.wixsite.com/yumoto-joshi

【観光PR動画『ブロンズ像とめぐる いわき湯本♨旅』(いわき明星大学PBL授業の成果)】
https://youtu.be/ASZ1tg6mm4E

【地域活性化 x IT事務局】 ※2016年から3年間で制作した観光PR動画20本以上掲載
https://www.youtube.com/channel/UCWpN-1t9pN4YimVkFAvsvpw

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部