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インタビュー

事前授業でインターンシップの学習効果を高める。近畿大学生物理工学部の取組

更新日:2019/09/11


必要性が叫ばれながらも未だ各教育現場で模索が続いているキャリア教育。

このインタビューシリーズでは各教育現場でキャリア教育に取り組んでいる先生方の生の声をお届けします。インターンシップを授業に組み込み、事前学習を充実させている近畿大学の新田先生にお話を伺ってきました。 (取材・執筆:羽田 啓一郎)

お話を伺った方

新田 和宏さん 近畿大学 生物理工学部 教養・基礎教育部門

近畿大学生物理工学部のインターンシッププログラム


-新田先生は学内のインターンシップのプログラムのご担当をされていると伺いました。

もともと私はNGOで働いており、2002年に社会奉仕学習のカリキュラムを作るために近畿大学の非常勤講師になりました。2004年にキャリア教育の専任となったのですが、ちょうど当時、いわゆる”インターンシップ”が世の中に少しずつ出始めて来ました。

私含め、まだまだあらゆるところでインターンシップ自体が模索状態でした。その中で私が注力していたのが企業開拓はもちろんですが学生のレベルの底上げです。具体的にはインターンにいきなり送り込むのではなく「事前授業」をしっかりと行うという事です。受け入れてくださる企業様からすると、やはりレベルの高い学生に来て欲しい。事前授業の実施は企業側からのニーズでもあったのです。
 

-事前授業の概要を教えてください。
インターンに行く前の事前授業と企業でのインターンシップがセットになっています。正規課程の授業なのでこれで2単位です。1クラス16名を2クラス実施しており、両方私が担当して学生たちを見ています。授業に入るためには選抜試験があり、倍率としては2,3倍ですね。
 

-特徴を教えてください。

本学に限ったことではないと思いますが、多くの学生は大学3年生の4月になった段階でようやく就職や自分の将来について少し意識をし始めます。ただ、実際に何をやっていいのかわからない学生が多い。そもそも仕事とは、働くとは、というある種哲学的な問いについて考えたことすらない、キャリアについては本当に真っ白な状態なのです。私はこれを「キャリア・ゼロ」と呼んでいます。
 

この授業ではビジネスマナーや財務諸表の読み方などの基本的な事もレクチャーしますが、これらの講義の根底にあるのは「仕事の哲学」について考えることです。ほとんどの学生にとって初遭遇となる「仕事」「キャリア」について表面的や即物的なテクニックではなく「哲学」を学ぶことで今後のキャリア選択の基本的な判断軸を作って欲しいと思っています。
 

-具体的にはどのような事を行っているのでしょう。

事前授業ではレクチャーだけではなくワークショップや実践を繰り返し行っていきます。特にビジネスマナーについては全15コマ中5コマ使ってじっくりと行います。ビジネスマナーは社会で生きていく上である種「標準装備」だと私は考えています。その場その場でどのように振る舞うべきか、状況や文脈を把握し最適な対応をする。そうした事が実践できるような基礎的な地力がつくような講義を用意しています。
 

プレゼンテーションスキルも2コマ使って行います。自分の考えていることや頭の中にあることを他者にわかりやすく伝える力はどの仕事をする上でも重要なスキルセットです。ただプレゼンをして終わりではなく、学生は自分以外の誰かのプレゼンに投票する仕組みを設けています。プレゼンの中身はもちろんですが、別のセツションでは「着こなしスタイリッシュ大賞」という賞も設けているので自分がどういう見せ方をすれば評価されるのか、他者の視点を意識しながらプレゼンをしてもらいます。
 

また毎回の授業の前には指定されたテーマに沿って事前にエクササイズ(=宿題)が与えられ、期日までのメール提出を課しています。事前課題を経た上で授業当日を迎えるため、学生は問題意識を高めた上で臨んでくれます。
 

-かなりしっかりとしたプログラムですね。

ただのインターンシップ準備講座で終わるつもりはありません。先程も申し上げた「キャリアゼロ」から企業のインターンまでの橋渡しをどう接続するか。この事前授業を経て学生は自分の得意不得意を以前より理解することになりますし、ゼロの状態から少し社会を見ることができるようになります。その後、学生のニーズと企業側のマッチングを行い、5日から10日程度のインターンシップに参加することになります。
 

-企業のインターンプログラムはどのように企画されるのでしょうか

これはケースバイケースですね。企業様お任せの場合もあれば、議論しながら一緒に作っていくこともあります。中には経営者の方の前でプレゼンをする機会をご用意いただける企業様もいらっしゃいます。
 

-正規過程の授業だということですが、評価はどのように行っていますか?

レポートですね。一連のプログラムで学んだことをレポートという体裁でアウトプットしてもらいます。毎回の事前授業で課されるエクササイズ含め決して楽な授業ではないのでついてこれず消極的な姿勢の学生もたまに出てきます。稀ではありますが、そうした学生には履修リタイヤを勧告する場合もあります。それくらいじっくりしっかり学んでキャリアゼロから一歩踏み出すことがこの授業の目標です。
 

採用インターンシップとキャリア教育インターンシップは両立できるか?


-しっかりとコンセプトが具現化された授業だと感じましたが、何か課題感はありますか?

プログラム自体の課題はもちろんありますが、それよりもインターンシップの位置づけがこの日本の中でどう変わっていくのかが気になっていますね。これは私個人の定義ですが、日本のインターンシップは、企業の採用を目的とした「採用インターンシップ」と学生の職業観涵養を目的とした「キャリア教育インターンシップ」の2種類に分けられると考えています。そして1dayや3dayのようなインターンも登場し、採用インターンシップは益々今後増えていくと予想されます。表向きには採用とは関係ないとはいいながらも、その後の採用に多少なりとも影響はあるでしょうからね。
 

私がこれまで行ってきたのはキャリア教育インターンシップですが、学生側からすると入社志望度の高い企業の採用インターンシップとキャリア教育インターンシップの実施時期が重なった場合に採用インターンシップを優先してしまうと考えられます。実際、私もそうした経験がありました。
 

ただ採用インターンシップの前にキャリア教育を受講した学生は、その経験が採用インターンで発揮されることとなり、キャリア教育を受けていない学生に比べると結果的にアドバンテージを持つケースもあります。
 

そう考えるとキャリア教育を受けてから採用インターンに臨むのが学生にとっても有効。3年生になって採用インターンがピークを迎える前の、大学1,2年生時にキャリア教育インターンを経験できればいいのですが、大学1,2年生はまだまだ温度が高まっていない現実もあります。
私も1、2年生の冬休みにインターンを受け入れていただくべく、和歌山県の経営者協会の数社と地方創生を趣旨としたインターンプログラムを計画しています。
 

環境は変わっていきますが、学生が成長していく姿を目の前で見れるのはこの仕事の大きな魅力です。学生生活全体の中でインターンシップをどう位置付けていくのか。それによってカリキュラムも色々と改良を加えていきたいと思っています。

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部