昨年からニュースで話題になっていた大学入試制度改革。記述式テストや民間英語試験の活用など、いろいろな改革案やそれらに対する反発が出ていました。また、大学入試制度改革とともに高大接続という言葉を目にしたり、耳にしたりした方もいらっしゃるはず。しかし、結局のところ来年度の大学入試はどうなったのでしょう。また、現在猛威を奮っている新型コロナウイルス感染症の大学入試への影響はあるのでしょうか。今回の記事では、高大接続に触れつつ大学入試改革や来年度の大学入試について取り上げます。
高大接続改革の中の大学入試制度改革:改革推進の背景
グローバル化やAIなどの科学技術の台頭によって将来の予測が困難な中、子供たち自身で新たな価値を創造できるように教育していくことが求められています。そのためには、従来の「知識・技能」を教育するだけではなく、「思考力・判断力・表現力」や「主体的に様々な人と協働し学ぶ姿勢」を合わせた「学力の3要素」を育成することが欠かせません。
このような背景から、3要素の育成するための高校教育、高校までに培った力をさらに向上・発展させて社会に送り出すための大学教育、学力の3要素を多面的・総合的に評価するための大学入学者選抜制度の3つを改革しようと文部科学省は進めています。これら3つの一体的な改革がいわゆる「高大接続改革」というものです。
大学入試制度改革の経過
大学入試制度改革が始まったのは2013年。教育再生実行会議という首相官邸に設置された会議で、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価できるような大学入学者選抜制度への提言がなされました。従来の、知識偏重で1点刻みの試験のみによる選抜や学力不問の選抜への懸念から、学力水準の達成度の判定に加えて、面接や論文、高校の推薦書や生徒が主体的に取り組んだ活動経験、大学入学後の学修計画案などの評価が勧められました。
また、推薦入試やAO入試では高校教育への影響を考慮した受験日程が提言されました。そして、2014年の中央教育審議会で英語民間試験の活用と記述式問題の導入が提言され、翌年に文部科学省から「高大接続改革実行プラン」というこれから重点的に取り組むべきとされた施策とスケジュールを示したものが公表されました。このプランのもと、高大接続システム改革会議にてさらに具体的な方策について検討され、2017年に高大接続改革の実施方針が策定されました。
ここでは、いわゆる一般入試において国語と数学の記述式問題を出題し、採点には民間事業者を活用することなども提言されています。さらに、AO入試や推薦入試において、2019年6月に大学入学共通テストの問題作成方針が策定されました。しかし、その5ヶ月後の2019年11月に英語民間試験の利用が、経済的負担や受験機会の不公平性、試験の公平性などの問題で見送られ、その翌月の2019年12月には大学入学共通テストでの記述式問題の導入が、採点の質の担保などの問題から見送られました。
来年度の大学入試の内容
では、来年度(2021年度)の大学入試はどうなるのでしょうか。一般選抜(従来の一般入試)と総合型選抜(従来のAO入試・推薦入試)、学校推薦型選抜(従来の学校推薦入試・指定校推薦入試)に分けて取り上げます。
まず、ニュースで度々話題になっていた、一般選抜について取り上げましょう。従来のセンター試験と同じ位置づけである大学入学共通テストについては、センター試験と大きく変わりません。科目はセンター試験と同様ですが、時間配分に変更がある科目もあるようです。その後に受ける2次試験については、従来のような個別の学力検査だけでなく、小論文や面接、ディベート、プレセンテーションなどによる多面的・総合的な能力・意欲・適性の判定が望ましいとされています。ただ、これらのことを実施するには多くの時間と労力が必要で、準備時間があまりない中でどこまで実施されるかは未知数です。
続いて、従来のAO入試や推薦入試に当たる総合型選抜について見てみます。総合型選抜は公募制という性質を鑑みて、入学志願者自ら記載する活動報告書や志望理由書、大学入学後の学修計画などを積極的に活用するよう勧められています。また、これらの書類だけでなく、小論文やプレゼンテーション、実技などを活用して、大学教育を受けるために必要な知識・技能、思考力・判断力・表現力などを測ることも求められています。
学校推薦型選抜についてはどうなるのでしょうか。学校推薦型選抜は、出身高校の学校長の推薦に基づいて調査書を主な資料として活用する選抜方式です。ただ、大学教育を受けるために必要な知識・技能、思考力・判断力・表現力などを測るために、総合型選抜と同様、小論文やプレゼンテーション、面接、集団討論などを必ず1種類以上は活用することが求められています。
新型コロナウイルス感染症の大学入試への影響
大学入試への新型コロナウイルス感染症の影響はあるのでしょうか。まず、試験日程についてですが、大学入学共通テスト(従来のセンター試験)の日程は維持されたままとなっています。しかし、感染症の影響に伴う学業の遅れや感染症罹患に対応するため、追試験(本試験日の2週間後)や特例追試験(追試験日から2週間後)の日程も提示されています。総合型選抜については入学願書の受付を9月15日以降に遅らせ、合否発表もそれに伴い11月1日以降になります。
学校推薦型選抜についても入学願書の受付が11月1日、合否発表が12月1日に延期されました。また、各大学での個別の学力検査については、通常高校3年次に学習するとされる科目において配慮するよう、文部科学省は促しています。
大学入試の今後
ここまで、大学入試制度改革について取り上げてきました。現状は、新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、理想とする大学入試制度への移行はまだ道半ばですが、多様な入試形態が準備できれば、未来の子供の個性や可能性を伸ばすことのできる高校教育から大学教育への引き継ぎが達成されることでしょう。そのためには、大学側には個性の評価を実現できる評価手法の確立が求められていきます。生徒にとってはいかに学力偏重の学生生活ではなく自分で自分の可能性を広げられるかが、高校にとってはそんな生徒の活動をサポートする体制の構築が必要になってくるでしょう。
参考資料
教育再生実行会議
「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」
文部科学省
「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の見直しについて」
国立国会図書館