キャリア教育コラム

「キャリア・パスポート」とは?その導入背景と特徴

更新日:2021/01/31

そもそもキャリア・パスポートとは何なのか?導入の背景は?

まずは今回の記事のテーマである「キャリア・パスポート」について、まとめておきましょう。文部科学省によると、キャリア・パスポートは小学校から高校までのキャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを児童・生徒自身で記述し、蓄積した記録を振り返ることができるポートフォリオのような教材のことを指します。

このキャリア・パスポートの導入が進んだ背景としては、新学習指導要領が挙げられます。時代の変化や子どもたちが置かれている環境の変化、社会のニーズなどを踏まえて約10年ごとに改訂されている学習指導要領ですが、小学校、中学校、高校で移行期間や全面実施の時期を迎えています。その新学習指導要領では、小学校から中学校、高校にかけて児童・生徒の発達段階を踏まえたキャリア教育の推進が新たに求められるようになりました。ここでいう「キャリア教育」とは就業体験や進路指導ではなく、児童・生徒自身のキャリアを形成するために必要となる様々な汎用的能力を育てていくという教育です。この意味でのキャリア教育は学校の教育活動の全体を通して行うべきものだという考えから、キャリア・パスポートの導入が進められることとなりました。

キャリア・パスポートの特徴

ここまで、キャリア・パスポートについて導入の背景を中心にお伝えしましたが、ここからはキャリア・パスポートの特徴について触れていこうと思います。

記録する活動は特別活動


まず、キャリア・パスポートに記録していく活動は日々の教科学習というよりも特別活動をはじめとした活動が中心です。この背景としては、新学習指導要領への改訂に先立って「キャリア教育の中核的な指導の場面で特別活動が大きな役割を果たすべきだ」という議論が行われたことが関係しています。そんな議論を踏まえてまとめられた新学習指導要領では、一人一人のキャリア形成と自己実現を支援するための具体的な特別活動として、以下のように記されています。

学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活の意欲につなげたり、将来の在り方生き方を考えたりする活動を行うこと(高等学校学習指導要領)

そして、上記のような特別活動を行う際に、「生徒が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること」と明記されており、これが今回の記事で取り上げている「キャリア・パスポート」にあたると考えられます。

小学校から高等学校まで引き継がれる記録


もしかすると、新学習指導要領に基づいた教育・指導が始まる前から、キャリア・パスポートのようなポートフォリオ教材を用いるキャリア教育を行なっていた教育機関があるかもしれません。では、そんな教育機関が利用していたポートフォリオと今回のキャリア・パスポートでは何が違うのでしょうか。

大きな違いと言えるのが、キャリア・パスポートは小学校から高等学校にかけて、記録が引き継がれるということです。今までは、一教育機関が独自でポートフォリオを活用したキャリア教育を実施してきましたが、これからは文部科学省の提示する新学習指導要領に基づき、初等教育から中等教育にかけて一貫した利用が求められます。これにより、生徒の進学先にかかわらず、教育機関を超えてキャリア教育を継続することが可能になりました。

記入するのは児童・生徒本人


キャリア・パスポートの記入については、成績表のように教員が記入するのではなく児童・生徒が自ら記入することが特徴です。これは、特別活動を中心に各教科の学習などと関連づけながら、自らの学習状況やキャリア形成の見通しを立てたり振り返ったりすることで、児童・生徒自身の変化や成長を自己評価できるようにすることが狙いだからです。

児童・生徒自身の自己評価スキルを向上させることが目的であるため、2020年8月に運用停止が決まった「JAPAN e-Portfolio」などのポートフォリオのように(大学)受験の評価材料の1つに利用されるということはないと言えるでしょう。しかしながら総合型選抜や学校推薦型選抜の受験のために、面接準備や自己PR文の作成に役立てることは十分にあり得る活用方法だと考えられます。

キャリア・パスポートの懸念点

先ほどのセクションではキャリア・パスポートの特徴についてまとめましたが、キャリア・パスポートの懸念点についても触れておこうと思います。

キャリア・パスポートの特徴の1つとして、小学校から高校までキャリア・パスポートを引き継ぐことができると先に述べました。しかし、引き継ぎに際して注意すべきことが1つあります。それは、キャリア・パスポートには特定の様式がないということです。

キャリア・パスポートは、特別活動におけるキャリア教育で活用されるポートフォリオ教材の総称であり、教育機関や教育機関を統括する自治体によって呼び名などが変わります。名称だけでなく、その中身も比較的自由に決めることができるため、自治体・教育機関によって異なることが考えられます。進学や引っ越しなどで教育機関が変わった際に、それまでの教育機関で重点的に記述してきた内容と、新しい教育機関で重視される記述項目に差がある場合だと、過去の記録を引き継いで新しく記入することが難しいと感じる場合もあるかもしれず、教員のサポートがより一層必要となるでしょう。

自由度が高いキャリア・パスポートの運用

今回は、キャリア・パスポートの導入背景や特徴、懸念点についてまとめました。VUCAの時代と言われ、早い段階から自分の将来について考えさせる重要性が高まっている中で、キャリア・パスポートは導入が進められています。必要性だけでなく、運用の自由度も高いキャリア・パスポート。児童・生徒がキャリア・パスポートを通じて自身の過去を振り返って自己評価し、将来についてより深く考えられるようになるためには、教員のサポートは欠かせないでしょう。自治体や教育機関によっては、キャリア・パスポートの独自の活用について公表しているところもあるので、それらを参考にしながら児童・学生に見合った活用ができるようにサポートすることが求められます。

参考資料

政府広報オンライン,「2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!」

文部科学省,「高等学校学習指導要領」

文部科学省,「「キャリア・パスポート」の様式例と指導上の留意事項」

文部科学省,「「キャリア・パスポート」Q&A」

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部