キャリア教育コラム

現代の教育で育むべき学力の3要素

更新日:2018/10/11

今、学校教育では育てようとしている学力の質が変わってきています。
以前は暗記に頼る詰め込み式の学習方法や、教師が一方的に生徒に授業を行う学習方法が主でした。しかし、現在はそういった、生徒が受け身で学習する方法から、これからの社会で必要になる力を育てる方向にシフトしています。現代の教育現場ではどういった学習方法で、どのような学力を生徒に持たせる目的で授業を行っているのか見ていきましょう。

 

学習指導要領の改訂で生徒に求められることは

 

2016年の学習指導要領の改訂によって、日本の教育は時代に即した学力を育てることが目的となってきています。例えば、2022年度に学習指導要領に沿って実施予定の必修科目「情報I」では、高校生全員がプログラミングを学ぶようになります。他にも生徒が自ら積極的に学習する姿勢を育むアクティブ・ラーニング教育など、今後はこういった社会変化に対応するため様々な学力が求められるようになってきているのです。

 

教育の現場でもIT

生徒たちもスマホを使いSNSなどで交流を行っている時代ですので、教育の現場でもITが取り入れられてきています。高校でのプログラミングが2022年から必修になるのは、先ほどご紹介した通りですが、小学校から「学習の基盤となる資質・能力」として「情報活用能力」の育成を軸にプログラミング教育が始まります。

 

学ぶ姿勢を育てる

生徒たちは授業中受け身であるのが今までの学習方法でした。しかし、学習指導要領の改定により、「主体的・対話的で深い学び」により「何ができるようになるか」を明確化することを主眼に置いて教育が変わってきています。
つまり、減点方式のテストで良い成績を取ることを目的とした学習方法から、「何のために学ぶのか」ということを教師と生徒が共有して、生徒自ら主体的に学ぶ姿勢を育てる事も重要な要素に位置付けられています。

 

学力の3要素とは

時代に合わせ必要とされる能力が変化し、学習指導要領が改訂される中で、「ゆとり」か「詰め込み」か、などと対立する議論を一つにまとめることを目的に示されたのが学力の3要素になります。
学力の3要素は生徒が新しい社会を生き抜くために育てるべき力として3つの要素が設定されており、それを総合して「生きる力」と規定されています。

 

要素1.知識・技能

教育現場で教えようとしている「生きる力」の最初の要素は社会の中で生活し働くための「知能・技能」の習得です。
これは「何を理解しているのか、何ができるのか」を示すものです。学力の3要素の土台であり、個別の知識のみならず、学習内容が相互に関連づけられて社会の中で生きて働く知識をさします。

 

例えば、今まで歴史の授業で習った過去の出来事を年表通りに暗記するだけではなく、なぜその出来事が起こったのか、そしてその後にどのような影響を後の世に及ぼしたのかなど学習に盛り込む事で、深い理解につなげることができます。
また、歴史上の出来事は現在にどう関わっているのかといった現代まで地続きの学習を行い、社会で生きるための知識と技能に繋げます。

 

要素2.思考力・判断力・表現力

2つめの要素は知識・技能の上に築かれる「思考力・判断力・表現力」です。
「理解していること・できることをどう使うか」を育てることによって未知の状況にも対応できる力を養います。
現代は変化が激しく将来の予測が困難な社会です。そういった状況の中でも物事の中から問題を見つけ、解決の方向性を決め、方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行して次の問題発見と解決に繋げられる力を養うことです。

 

要素3.主体性・多様性・協調性

そして2つの土台の上に作られるのが、学びを人生や社会に生かそうとする「主体性・多様性・協調性」です。この要素によってどのように社会と関わり、より良い人生を送れる力を身につけられるようにします。
これは、学びを人生や社会生活に生かそうとする「学びに向かう力と人間性」を育てます。
培った知識・技能をもとに、思考力・判断力・表現力を使って情報をもとに自分の考え方を作り上げ主体的に学び、さまざまな考え方を理解したり、多様な方法で自分の考えを表現してグループとしての意見を形成したりといったことが含まれます。

 

 

大学一般入試でも学力の3要素が求められる

学力の3要素は、今後学校教育の柱となって行く考え方です。もちろん、大学の一般入試でもそれらの要素は求められるようになります。
今までは、学んだことをどれだけ間違えずに答えを出せるか、そして学んだことからどういった応用ができるのかが、大学入試で試される主な項目でした。これは、学習の3要素の中の2つである知識・技能と思考力・判断力・表現力を判断するテスト形式でした。
しかし、平成33年度からは主体性・多様性・協調性も入試で試されることになります。

 

大学入試の新しいルール

文部科学省は「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告について(通知)」のなかで新しい大学入試のルールの趣旨として以下のことを述べています。

“各大学の入学者選抜において、卒業認定、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針を踏まえた入学者受け入れの方針に基づき、「学力の3要素」(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」)を多面的・総合的に評価するものへと改善する。”

今まではAO入試など一部の試験でのみ取り入れられていた主体性・多様性・表現力が必要とされるアクティブ・ラーニングの能力やグループワークの技能が一般試験でも取り入れられるようになります。

 

どんな入試になるの?

具体的に学力の3要素を試す入試というものはどういうものになるのでしょうか。
まず土台の2要素を的確に評価するため、「大学入学共通テスト」の積極的な活用と、記述式の問題の導入・充実を目指しています。そして、「筆記試験に加え、「主体性を持って多様な人間と協働して学ぶ態度」をより積極的に評価するため、調査書や志願者本人が記載する資料等の積極的な活用を促す」とあります。
本人が記載する資料には、エッセイや面接、ディベート、集団討論、プレゼンテーションなどに関するものや面談などで判断するとしています。

 

学力の3要素の伸ばし方

 

学習指導要領も時代に合わせて変化していますそれは、時代によって求められる力が変わってきているからに他なりません。
義務教育の場、そして高校教育、そして大学入試に必要不可欠になってくる、教育現場の最大の柱となる学力の3要素ですが、どのように伸ばしていけば良いのでしょうか。
その一つの答えとなるのが学校全体で、教科を超えて各教科のカリキュラムを考える「カリキュラム・マネジメント」です。

 

横断的な教育内容

今までは国語、算数、理科、社会など各教科ごとに科目が分かれていました。しかし、今後は教科に縛られることなく、学習内容が相互に作用し合うカリキュラムを組む必要があります。

また、学習指導要領には、学ぶ時間と総授業時数だけが定められているのを利用して、生徒の実態や教育目標に応じて学習内容を編成することが重要になります。

 

PDCAサイクルを確立する

人と同じく学校もそれぞれ特色があります。教育の基礎となる学校教育目標や重点目標をもとに、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」を普段から生徒と接している教員と共に学校全体で「学校のグランドデザイン」を作る必要があります。
これによって、学校に通う生徒に身につけさせたい学力やどのような力をつけさせたいのかを意識したカリキュラムを組むことができるようになります。

 

地域の資源も含めて教育に活用する

指導要領にもあった通り、社会で生きる力をつけさせるのが、学力の3要素の目指すところの一つです。これを生徒に意識させるためには、「子供に学びと社会のつながりを意識させるために、地域と連携したカリキュラムにすべき」です。
地域と協力して共に生徒たちを育てて行くことをカリキュラムに盛り込むことが必要になります。

 

今までの学習方法の土台の上に第3の要素を育てよう

学力の3要素は新しい要素ばかりではありません。土台となる知識・技能は今までの知識や技術を蓄える学習方法となんら変わりはありません。まずは土台となる知識を蓄えた上で、思考力・判断力・表現力をその上で学び、それらの要素を持って主体性・多様性・協調性を学んで行く、土台の上に山を築くように育てて行く必要があります。グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションなどの今後求められている能力はあくまで、基礎学習の先にあります。学習の3要素をひとつひとつ積み上げて今を生きる力を持てるようにしましょう。

参考:
文部科学省 「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」平成30年3月

文部科学省「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告について(通知)」

VIEW21 教育委員会版 2 016 Vol. 4「「学力の3要素」をバランスよく育むため、学校全体でカリキュラム・マネジメント推進を」横浜国立大学 名誉教授 髙木展郎

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部