新学習指導要領で新たに登場した「探究学習」は、総合的な学習の時間だけでなく、各教科にも取り入れられています。2022年度からは高校で「総合的な探究の時間」が開始され、探究学習は日本全国で展開している真っ最中です。
ところで、これまで総合的な学習の時間でよく行っていた「調べ学習」と新学習指導要領で導入された「探究学習」には、どのような違いがあるかご存知ですか?
調べ学習と探究学習は共通点が多く同じような学習と思われがちですが、実は明確な違いがあります。この記事ではその違いについて詳しく解説しているので、探究担当の先生方はぜひチェックしてみてください。
調べ学習と探究学習の違いは三つ
調べ学習と探究学習の違いは主に3つの観点があります。
- 課題を決める人
- 学習の目的
- 学習の方法
課題を決めるのは先生?生徒?
調べ学習と探究学習の違い1つ目は、課題を決める人が誰かという点です。
基本的に調べ学習の課題は先生、探究学習の課題・テーマは生徒が決めることになっています。
調べ学習はテーマを決める過程よりも、与えられた課題について情報を集め、整理し、相手に伝わりやすいようまとめるスキルが求められます。必要な情報を自分で探すことや、情報の信憑性を確かめながら答えにたどり着くことを学ぶための学習とも言えるでしょう。
一方で探究学習では、生徒自身で課題を決めます。探究学習は、身近にある「なぜ?」から出発し、たくさんの事柄を調べて学びを深めていく過程でようやく課題を見つけられます。そのため探究学習は生徒が解決したいと思う課題を見つけるための学習と言っても過言ではありません。実際に課題・テーマの設定は多くの先生方・生徒が頭を抱える部分であり、探究学習の最も難しいとされるところです。
学習の目的はまとめること?学びを深めること?
2つ目の違いは、学習の目的です。それぞれの目的をまとめると以下のようになります。
- 調べ学習の目的…課題の答えを探し出して情報をまとめること
- 探究学習の目的…課題の設定・調査・整理・まとめを繰り返して主体的かつ対話的に学び、解決したい課題に対して自分なりの答えを出すこと
調べ学習の目的は、あるテーマについて調べて知識を得ること・調べ方を知ること・情報のまとめ方を知ることなどが挙げられます。調べ学習という名前の通り、調べることが学習の主な目的です。
では探究学習の目的はどのようなものでしょうか?ここでは、高等学校学習指導要領『総合的な探究の時間編』に記載されている総合的な探究の時間の学習目標を紹介します。
第 1 目標
探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)探究の過程において、課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究の意義や価値を理解するようにする。
(2)実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。
(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う。
引用元:文部科学省「【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)」p.11
探究学習には、実社会と自己の関わりから問いを見出し、学習を通して自己の在り方や生き方を考えることが求められています。これは卒業後のキャリア形成にも深く関連するものです。また、他者と協働して互いの良さを生かすこと、協働のなかで新たな価値の創造やより良い社会実現のための態度を育成することも求められています。
つまり、探究学習を行う目的は調べ学習よりもさらに深く、生徒の将来的なキャリアや社会での活躍を見据えたものが含まれていることがわかります。
対話的な学び・他者との協働はある?
3つ目の違いはそれぞれの学習における他者との関わりです。
基本的に調べ学習は個人・グループで、与えられた課題に対する調査・情報の整理・まとめという流れで学習を進めます。成果物の作成がゴールとなっているグループ制の調べ学習を除くと、学習の中で生徒同士で一緒に取り組む場面はほとんどありません。
反対に探究学習は、対話的な学びや他者との協働が学びを積極的に取り入れるよう求められているのが特徴です。
第1 目標(中略)
(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う。
引用元:文部科学省「【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)」p.11
課題の設定や発表の振り返りなど、学習の節目節目で生徒同士の関わり合いを取り入れるケースが多くみられます。また場合によっては地域住民の方や企業、大学教授などにインタビュー調査などを行うこともあるでしょう。 探究学習では内外問わずさまざまな人と対話し、協働しながら学びを深めることが求められています。
調べ学習と探究学習の境目は?
調べ学習と探究学習は共通する点が多く混同しがちなものですが、明確な違いがいくつかあります。学習の目的や方法の違いを見ると、探究学習は調べ学習をさらに主体的・対話的で深い学びに進化させたものであり、調べ学習は探究学習の学習プロセスの一つと考えられるでしょう。
では、調べ学習と探究学習の境目はどこにあるのでしょうか?
ここでは探究学習であると判断できる大きなポイントを2つ紹介します。
①生徒自身が問題意識を持って課題設定できている
②知識を習得・理解した先にさらなる疑問を持てている
探究学習は、生徒自身で身近な課題を見つけて設定すること・学習が一区切りしたあとも学びが続くことが学習のポイントとなっています。 興味を持った課題について調べて「〇〇がわかった」だけで終わってしまい、のちに続く学びにならなければ、それは調べ学習の域を出ていません。課題の設定・情報収集・整理分析・まとめという一連の学習プロセスを何度も繰り返して学びを深めることが探究学習に求められている学習の姿勢です。
そしてこのように学びを深めていくためには、生徒自身が興味関心・問題意識を持っている課題を設定することが重要です。ただ調べ学習で終わってしまうのではなく、探究学習としてきちんと学びを深めさせたいと思うなら、この2つのポイントを達成できるように意識してみましょう。
探究学習を成功させるポイント
最後に、生徒にとって実のある探究学習を実施するためのポイントをいくつか紹介します。
まだ答えのない、自分なりの課題を見つけさせる
1つ目は課題の設定についてです。
課題の設定は、まず生徒の興味関心がある分野で「なぜ?」と思うことをピックアップすることから始まります。そして大きなテーマから徐々に小さな課題を見つけていき、調べる課題としていくのです。
最初は答えがある問いばかり出てくるため、一通り調べればほとんど答えがわかるでしょう。しかしここで重要なのが、調べ学習を何度も繰り返してより深い課題を見つけることです。
すでに先人によって答えが出されている課題を調べても、それは単なる調べ学習で探究学習とは言えません。丹念に調べた先にある、まだ誰にも解決されていない課題を見つけましょう。 誰にも解決されていない課題が見つかれば、結論も生徒オリジナルのものになります。答えのない問いを調べて深く考える経験は、生徒の将来まで役立つ貴重な経験値になるはずです。
対話・協働が生まれやすい環境を整える
2つ目は学習の方法や環境についてです。
探究学習では生徒同士の対話や他者との協働を積極的に行うよう求められています。そのためグループディスカッションや関係者へのインタビュー調査など、周りの人と関わる機会はなるべくたくさん設けましょう。 生徒が主体的に学ぶには、失敗や間違いを許容する空気感や互いを認め合い応援し合う関係性を作ることが重要です。ディスカッションや発表のフィードバックをするときのルール決めを行うなど、生徒がのびのびと探究できる環境を整えてあげましょう。
まとめ後にも学び続けられる環境を整える
3つ目は学び続けられる環境を整えることです。
探究学習は課題の設定・情報収集・整理分析・まとめを一連の学習プロセスとし、その学習を何度も繰り返して学びを深めていくような姿が想定されています。そのため、1回発表が終わったら終了ではなく、単元ごとにつながりを持たせてあげることが大切です。
生徒の主体的な学びの姿勢が見え始めたなら、それを積極的に支援してまた次の学びに取り組めるような環境を作ってあげてください。
まとめ
探究学習は調べ学習をさらに発展させ、主体的・対話的で深い学びになるように設定されたものです。そして調べ学習もまた探究学習の中の大切な学習プロセスであり、生徒の知識や興味関心、問題意識を深めることに大いに役立ちます。
それぞれの学習の目的や役割をしっかり理解して使い分け、生徒が主体的・対話的で深い学びを得られるようなカリキュラムを組んでいきましょう。