必要性が叫ばれながらも未だ各教育現場で模索が続いているキャリア教育。
このインタビューシリーズでは各教育現場でキャリア教育に取り組んでいる先生方の生の声をお届けします。今回はユニークな理系学生のキャリア支援を行なっている、名古屋工業大学の山下先生にお話を伺ってきました。 (取材・執筆:羽田 啓一郎)
お話を伺った方
山下啓司さん 国立大学法人 名古屋工業大学 生命・応用化学科/専攻
キャリサポートオフィス長 就職・キャリア支援担当 学長特別補佐
大手以外の企業への選択肢をしっかり見せる、意欲的な取り組み
ー山下先生の学生支援の概略を教えてください。
2000年に報告されたいわゆる「廣中レポート」がきっかけで学生支援の波が大学の中にも広がってきました。廣中レポートでは”学生の立場に立った大学づくり”が提言されていましたが、名古屋工業大学でも「学生なんでも相談室」という相談室を構えていました。ところが相談件数が少ない。私は2004年にこの相談室を組み直すところから学生支援に関わるようになりました。
大きな転換になったのは2005年に作った「ピアサポート」です。これは先輩のいる学習室のことで、名工大生であれば誰でも利用できます。履修や勉強面も含め、学生生活のありとあらゆることを気軽に相談できる場所です。教員や大学には相談しづらいことって学生にはありますからね。
ー企業との連携に積極的に取り組んでいらっしゃるんですよね?
そうですね、名古屋には大手企業も多いですが学生のキャリア支援においては大手や知っている企業以外をどう知らせるか、という事に工夫を凝らしています。わかりやすいところでは学内で実施する業界研究会。業界ごとに企業様にお越しいただいて話を聞く機会を設けていますが、業界だけではなく地域で括ったイベントなども開催しています。
これ以外にも色々やっています。例えば私は自分のブログやSNSアカウントを持っていて学生もフォローしてくれていますが、「おもろい企業探索ツアー」と題して個人的に面白いなと思った会社に出向き、その様子をレポートしています。例えば以前ダンボールを作る機械を作っている会社に訪問しましたが、学生は絶対知らないですからね。事業内容では興味を持たれづらいですが、社長さんの想いが素晴らしいので紹介しました。この会社は250人の社員の中で名工大生が5%もいるんですよ。名工大生が共感できるポイントがある、という事です。
ー先生ご本人のアカウントで企業発見の機会を作っているのは面白いですね
他にもまだやっています。例えば名工大オリジナルの「MONO」という教科書を毎年作っています。これは「産業論」という2年生の必修科目で使っている教科書です。この中から学生は自分が行きたい企業を探し、自分たちなりにその企業のことを調べて発表し合うのです。必修科目の授業の中で様々な企業を自分たちで考えてアウトプットすることになるので、企業発見の機会が生まれるだけでなく、学生の理解度も深まるような仕立てになっています。
他にもフレンチをケータリングして企業と学生が食事をしながら対話できる機会を作ったり有名百貨店のケーキを企業と食べれる女子会も企画しました。
ーそれは学生が喜びそうですね(笑)。イベントの雰囲気もカジュアルになりそうです。
学内に企業を呼ぶ学内合同説明会のようなベーシックな企画もちゃんとやっていますが、就職先を探す」モードになると学生は有名企業に目が行きがちになってしまいます。そこをどのように他に目を向けさせ、自分のキャリア選択に意識的になるかの機会を作らせるか、が腕の見せ所ですね。
学生が主体的に活動する仕掛けにも取り組む
ーそれは学生キャリア支援業界では普遍的な課題だと思いますが、それを解決すべく具体的な施策になっているのが素晴らしいですね。他に取り組まれていることはありますか?
「大手以外の選択肢を見せる」以外に私が力を入れているのが「学生の主体的な活動」です。代表的な活動としては彩綾という理系女子の学生団体のサポートです。2010年代になって女性の活躍推進が本格化し、理系女子に注目が集まるようになりましたが、女子学生本人にはまだまだ知識が乏しく、働く実態がイメージしづらい学生もいるのが実情です。
名工大の女子学生の中にも積極的にキャリアを積んでいきたい学生も増えてきました。ただ研究開発の道に進むと出産育児とどう両立するか、などの現実的な問題も出てきます。勿論正解などないですし、何らかの解を伝授するわけではないですが、理系女子学生が問題意識を持ち、みんなで考える会を作りたかった。そんな思いを持っていた時に、尖った感じの女子学生がいたので彼女に声をかけて団体を作って引っ張ってもらいました。2014年に始まり、今は代表は7代目で活動が続いています。
ー山下先生はあくまでサポートなのですね。
そうですね、あくまで学生が主体です。ピアサポートも学生が学生の支援をする、という事が大事。学生と大人では目線も経験値も違いますし、大人がやるとどうしても上からになってしまいがちです。それに相談を受ける側の学生も成長するので、やはり大人は機会やチャンスを作ってあげて、それ以降はサポートに徹するべきだなと。
ーありがとうございます。様々な取り組みを意欲的に進められていらっしゃいますが、学生支援に対するポリシーのようなものを強く感じました。
理系学生は就職支援を”キャリアセンター”ではなく、進路指導教官がやっていることが多いと思います。私も各就職担当の下支えを2007年頃からやり始めました。私は研究者でもありますが、その前に教育者です。学生一人ひとりが、何らかのやりたいことに出会えると良いなと日々考えています。理系学生は研究が忙しい事が多いですが、学生によっては研究活動が合わずに「つまらない」という学生もいます。そういう子たちにもちゃんと道を作ってあげたいという想いがあります。