必要性が叫ばれながらも未だ教育現場で模索が続いているキャリア教育。このインタビューシリーズでは各教育現場でキャリア教育に取り組んでいる先生方や職員の方の生の声をお届けします。今回は産官学連携キャリア育成プログラム「Learning+」を実施・運営する愛知大学キャリア支援センター長の吉川様をはじめとするキャリア支援センターの皆様と、実際にプログラムに参加した学生にお話を伺ってきました。
(取材・執筆:池田 靖之)
インタビュー参加者紹介
キャリア支援センター長 現代中国学部 准教授 吉川剛 さま
キャリア支援センター 名古屋キャリア支援課 課長 山本康生さま
キャリア支援センター 名古屋キャリア支援課 キャリアアドバイザー 加納孝紀さま
キャリア支援センター 名古屋キャリア支援課 キャリアアドバイザー 伊神佑一さま
Learning+参加学生 大岩千夏さん、古橋亜沙子さん
OB・OG探訪記参加学生 野口七海さん、三浦陽花さん、横内遙香さん、武政杏奈さん
愛知大学が取り組むLearning +とは?
-Learning+とはどのような取り組みなのでしょうか?
吉川さん:大学生のキャリア形成支援の具体的な手段として、企業・官公庁と連携し、学生が社会や企業の抱える課題の解決に取り組むプロジェクト型の取り組みです。今年度は新たに各クラスの最優秀賞受賞チームによるグランプリファイナルを開催し、もっとも「発信力」のあったチームを決定する全学規模のコンテストです。
-Learning+の誕生から取り組みの狙いを教えてください。
吉川さん:単なる就活支援ではなく、社会人基礎力、人間力を涵養するプログラムを実現できないかが誕生の原点ですね。2012年秋から「昇龍道プロジェクト」支援企画として名鉄観光様と連携して、訪日外国人向け観光ツアー提案コンテストを試行しました。最優秀チームの提案は、実際に商品化されることもできました。これが新たな学びの場として、チームで議論し楽しみながら、アイディアを具現化するLearning+に結実しました。※昇龍道プロジェクト:詳細はこちら(国土交通省ホームページより)
-「Learning+=ディスカッションを通じて出会い、楽しむ場」と仰っていましたが、実際に昨年1年間Learning+に参加してみて楽しさは感じられましたか?
古橋さん:取り組んでいく内に、自分たちの中で学びや変化を感じ、徐々に楽しさを感じることが大きくなった。最初は上手くいかないことの連続でしたが、1人が頑張ると違う1人が頑張るという変化もあり、企画をブラッシュアップする楽しさ、プレゼンを聞いてもらうことの楽しさを感じることが最後には出来ました。
大岩さん:当初は楽しさを感じることが多かった分、チームで取り組むことの難しさに悩みました。でも、少しずつ自分たちで考えた企画が形になっていくことが楽しく、最終的には成果も付いてきたので、諦めずにやって良かったと思っています。
-正直なところ、取り組んでいる中で辞めたいと思ったことはありますか?
古橋さん:チームのメンバーを含め周りが頑張っているから、私も頑張れていたと思います。加えて、人前でうまく発表しなくては、という使命感も原動力になっていました。
大岩さん:中間や最終発表までに、どうにかしないといけないプレッシャーを感じ、正直辞めたいと思うこともありましたが、現実的に辞められるとは思っていなかった(笑)。自然と最後までやり遂げるという気持ちになっていきました。
Learning+を企画・運営する愛知大学の工夫
-Learning+を運営する側としての苦労はありますか?
加納さん:学生に参加しやすく、全員で完走し、自分の成長を実感できるような「Learning+ ver.2」に方向転換を図る中で、取り組みに共感し、学生からの刺激や気質を知ることを目的とした参画企業は多く集まってきています。その分企業から多くのリクエストもあり、現場レベルでの苦労は絶えないですね。多くのリクエストの中からも、学生が興味を持ちやすい企業を見つけるのには、毎年苦心しています。加えてテーマに関しても、簡単すぎても難しすぎてもダメであり、取り組む学生がおもしろうそうなテーマを企業と一緒に決めていくのは非常に困難な作業です。「ウチの学生なら、これぐらいの負荷を掛けても大丈夫そう」という見極めが出来るまでに数年は掛かりました。
-運営をしていく側として、学生のフォローや接し方の工夫・苦労した点はどんなことですか?
伊神さん:学生の取り組む意欲が目に見えて上がっていくのが分かる分、学生のレベルやテンションに合わせていかなくてはならなかったのが大変でした。それがプレッシャーでもありながら、楽しさでもあるので、学生に負けないような支援を心掛けていました。
加納さん:ここ最近意識をしているのが「最初の土台作り」です。最初に行うチームビルディングを工夫したり、昨年の先輩達の姿を見せたりすることで、目標へのイメージをさせやすい工夫をしてきた結果、今年は238名全員が完走するという結果に繋げることができました。Learning+では学生の後ろに先生がいることはなく、自ら答を導き出すことが求められます。なので、相談に来る学生へ対し、解決の糸口が「ちょっと見えてきた」と思える着地点を見極め、チームのレベルに合わせた伝え方には常に苦心しています。
山本さん:Learning+は完全に正課外の取り組みです。学生支援をしていくには、キャリア支援センターの個々のチカラが絶対に必要になると思っています。その為、職員の個性や考え方を尊重し、統一した「やり方」は存在しません。ある意味これは、課員にとってもプレッシャーだと思うけど・・・(笑)。学生同士だけでなく、職員同士でも負けたくないという気持ちがより良い学生支援に繋がっていると思います。それが学生の「できる」を育成し、自然と後輩も良い影響も受け、Learning+をやってみたいという構造になってきています。自然とプログラムが大きくなる中で、時代や社会の変化に対して、十分に応えていける学生を育てる体制がやっとできたと思っています。
Learning+に参加する学生の変化・成長
-Learning+などのPBLに取り組む学生の特徴やカラーはありますか?
伊神さん:昨年の先輩たちの様子を見て参加し、実績を受け継いでいるので、年々レベルアップしている感覚は強く感じます。産休から戻った連携企業の担当者様が復職後に驚くぐらい、学生の変化のスピードが速いですね。
山本さん:Learning+は自主的に取り組む学生が多くいます。ポテンシャルはもともとあるのに、それを発揮できる場も今までは無かったように思います。けれど他のチームの中間発表を見て火が点くのでしょうね。学生間で急に「負けられねぇ」という意識に変化し、勝手にコンテスト色が強くなっています。上手い・下手を感じ、自然と刺激を受けているんでしょうね。全てに順位付けしないと納得しない空気になり、悔しくて泣くチームもありましたね(笑)。結果、それがモチベーションの向上にも繋がっています。
吉川さん:Learning+経験者である先輩が後輩を見ると、「私たち(先輩)よりも凄い」といいます。逆にその後ろ姿を見ている後輩は「もっと頑張らないと(先輩達へ)追いつかない。」とも言います。まさにこのギャップ構造がLearning+全体のレベルを底上げしている要因だと考えています。
-変化する社会の中で変わっていく学生を一番近い距離で見てきている現場として、何を思いますか?
伊神さん:単位にもならないけど、やってみたい、挑戦したいという意欲の大切さですね。自発的に取り組むからこそ、成長具合も大きくなるのではと思うようになりました。正直、キャリア支援課に配属になった当初、Learning+はやっても効果があるのかと思っていました。ただ実際に学生と一緒に悩み・考えて活動を振り返って結果、凄いことをやっていたのだと感動しましたね。
吉川さん:学生は、アンテナを張って、チャンスをつかみに行くことが重要ですね。そこから自信なり、主体性が芽生えるのだと思います。私たちは、学生がやってみたいなという場を設け、相談を受けながら、学生が自分で成長していくのを見守る感じですね。
-これからのLearning+の展望を教えてください
加納さん:「これからどうしていこう」という話題は、若手で毎週のようにMTGをしています。それこそ「キャリアインカレ」に負けないプログラムを目指しています。その為にまずは、取り組む学生が頑張れるものにしないといけません。そうなるとまず挙げられる問題が「テーマ設定」です。もっと真剣に企業と一緒に考えていかなくてはならないと感じています。結局そこに立ち戻らないといけない気がしているのです。いくらやる気があってもいい素材(テーマ)がなければ出来ないからです。
伊神さん:規模を大きくしたいのですが、学生が求めていないのであればただの大人のエゴの押し付けだと思っています。現在は学生が自主的にもっともっとやりたいという意識になってきているので、そのレベルアップする要求に応えられるようなシステムを作り続けていかないとと思っています。強制ではない、学生ありきのプログラムにしていきたいです。
山本さん:主体的にやれる体制は整えていかなくてはならないし、あまり大人が言わなくても、「やれる」と学生が実感できる風土を作っていきたいと考えています。
吉川さん:私からも学生に聞いてみたいのですがLearning+の経験は就職活動に活きていますか?
古橋さん:半年間やった経験が、自分がグループ活動の中で何が出来るのかという自己分析になっています。活動してきた4人の間で他己分析にも繋がっていると思います。自分が活躍して半年間続けられたことは自信にもなるし、学生時代に頑張ってきたこととして書けると思います。就活の場面において、Learning+の経験はプラスになることばかりだったと思っています。
大岩さん:Learning+を始める前は、自分の意見や考えをあっても言う方ではありませんでした。でも実際参加してみると、自ら発言しないと進んでいかないことに気付き、自分の意見を言うようになりました。その変化は、就活におけるGDにおいても自分の意見が言えるようになってきていると思います。他にもESの自己PRでも書けると思います。
山本さん:こう思ってくれる学生たちが1人でも増えて、胸張って卒業していってもらうことが相乗効果として繋がっていくと思っています。愛知大学は70年以上の伝統がある大学です。各界で活躍している卒業生はたくさんいます。こういった流れをもっと強めていきたいですね。
吉川さん:Learning+はまだ完成していません、むしろ進化し続けるプログラムです。低年次向けに展開している「OB・OG探訪記」とともに、卒業を出口としてとらえるのではなく、自分の進路を決定することに役立つプログラムを提供していきたいと思っています。
「OB・OG探訪記」に参加した4名の学生の声
-「OB・OG探訪記」に参加したキッカケは何ですか?
横内さん:昨年の参加者による発表を見てやってみようと思いました。
武政さん:入学時にキャリア支援課からのプログラムの紹介を受けましたが、参加する勇気が持てなかった。2年生になって「大学に入って何かしてみたい」と思いで応募しました。
野口さん:中高までは部活動をやっていましたが、それに代わる活動をしたいと考えていたところに、昨年の先輩達の実演を見て感動したことがキッカケです。
三浦さん:大学生になったら「何か新しいことを始めたい」と思っていました。昨年の先輩たちの実演を見てカッコ良く思え、大学でこんなこともできるのだという憧れに変わりました。初めて会った4人がチームや仲間となり、みんなで何かを作り上げるというところに良さを感じ、参加しました。
-辞めたいと思ったことはありますか?
三浦さん:正直あまり思わなかったです。むしろ周りのチームの発表内容が良かったので、自分達も頑張ろうと思えました。自分たちが思っている以上に「出来ると思っていることが、出来なかった」経験に逆に火が点きました。
武政さん:メンバー内の問題にとても悩むことがありました。実情をキャリア支援課に相談したところ、その問題に対しチームとしてどう対処するか「自分達は試されている」という意識がチームに芽生えました。このことをプラスに考えるようになり、良いところを活かしつつ、ダメなところをみんなでフォローしていくことで、難を乗り切った感があります。
-「OB・OG探訪記」をやってみて、次に挑戦してみたいと何ですか?
野口さん:学内だけの取り組みだったので、学外の人と関わって、1つのものを作り上げる機会があったら面白いと思う。怖いけど、それもいい緊張だと思っています。
三浦さん:もっと自分の知らない世界や企業をいろんな角度で知ってみたいと思うようになりました。
横内さん・武政さん:打倒ビジコン(笑)。何かの1位になりたいです。きっとトップでしか見られない景色があって、それを見てみたいです。